「失礼しまーす!」と事務所に足を踏み入れた瞬間「大声出しながら入るほうが失礼だよ!(笑)」とえのきどいちろうさんに突っ込まれる。やられたー!

事務所ではちょうど、北尾トロさんとコラムニストのえのきどさんによる「レポTV」の収録中。
「レポTV」とは、北尾さんとえのきどさんのふたりがメインパーソナリティをつとめ、毎週ユーストリームで「季刊レポ」についての宣伝、紹介を行っている番組だ。
「収録中だけど、気にしないで入って」と杉江松恋さんに促された結果がこれだよ!

以前、レビューした『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』の著者のひとり、フリーライターの北尾さんが編集をつとめている雑誌がある。
年4回刊行のノンフィクションコラム雑誌で、一部書店で取り扱ってもいるが、基本購入方法は、年間定期購読をして、季節ごとに家のポストに届けてもらう。それが「レポ」だ。

事務所内には緊張が走っていた。「次誰行く? 用事入っている人からどうぞ」「あ、じゃあ犬の散歩があるので、先に」。「レポ」4号刊行記念のユーストリームなので、執筆ライター陣が続々とゲストという形で、収録に参加しているのだ。
収録風景を見ながら、「レポ」のバックナンバーを読んでいく。「レポ」には、エキレビ!では東方や丸焼きでおなじみの、杉江さんも執筆している。
都内の某公立小学校でPTA会長をつとめている、杉江さんが、PTA会長になったきっかけや、総会でのできごとなどを書いている。PTAは父母会のような自治組織ではなくて、行政組織なんだって。いままでずっと子ども会の延長みたいなところだと思っていたよ……。
なるほどねえ、金髪から坊主にねえ、ほうほう。

ミステリ作家の霞流一さんの連載「団地人」が面白い! 昭和38年、東京都北区に誕生した赤羽団地。昭和62年生まれの俺がなにを言っているんだって感じだけど、当時、この団地に暮らしていてた仲間たちとの思い出話が、ノスタルジックでいいんだよ。ノートの切れ端で自分の尻をこすって、その紙を振りかざしながらの鬼ごっこ(エンガチョ!)。におってくるなあ。

お、ゲストが杉江さんの番になったぞ。知り合いがこういう場で話しているのを見るのは楽しいなーっ……「今日はエキレビ!の編集も見学に来ております!」ええっ!? 
ピンマイクを胸に取り付けながら、必死でなにをしゃべるかを考える。えのきどさんと杉江さんに挟まれる形でソファに座り、しどろもどろになりながら、エキレビ!について語る。「えっと、エキレッ……、エキレビ!は、本やアプリなどのレビューを載せていて……」頭は真っ白。ちくしょー、またやられたー! 

収録が終わり、北尾さんにインタビューだ。杉江松恋さんも残ってくれた。

北尾 「レポ」はね、内輪で作る同人誌みたいにしたくないから原稿料を払っています。
そして、ベテランだろうが、若手だろうが払っているギャラは同じ。
――なぜ?
北尾 原稿料はあったほうがいい。緊張感が出るだけでなく、いい記事を書いてもらうためにも。あのね、たとえば札幌にすごい面白い人がいるから取材に行きたんだけど、お金がないからいけないって場合があるとする。電話とメールで済ませることもできるんだけど、行ったときにしか聞けない雑談とか、気に入られて「泊まっていけよ」って言われたり、そういうチャンスを最初から放棄するわけでしょう。
――メールでは、その場の空気やノリは絶対に伝わらないですね。
北尾 それがいやなんだよね。お金がないという理由だけで、放棄してしまう。こんなに悲しいことはないでしょ。
杉江 そういうことが積み重なって、最悪、ライター業をやめて、他の業界に行ってしまうかもしれない。
北尾 お金が原因で去られるのは、この業界が痩せ細る原因になるので、せめて経費くらいになってくれればいいなと思ってギャラを払っています。
杉江 「レポ」って採算は取れているんですか?
北尾 毎号黒字で、ちゃんと成立させたいんだけど、それにはもうちょっと売れないとダメかな。
赤字って、もちろんいやなんだけど、「俺も真似したい」ってほかの人が思ってくれなくなるのがイヤなんです。出すたびに知り合いとか経験値が増えてさー、いいことしかないねって言いたい。だから、いまはお金のことをのぞくと非常に楽しい(笑)。


俺も、ライターという仕事がまったく面白くないと感じていたときがあった。仕事量に見合うだけのギャラももらえず(と、思い込んでいた)「なんでこんなことを続けているんだ。バイトしていたほうがマシじゃないのか?」と、心底仕事がいやになっていた時期があった。

北尾 今日は「レポ」4号の発送作業をみんなに手伝ってもらったから、人が多かった。みんな、「レポ」のライターや、編集作業を手伝ってくれている人たちですよ。
――20人くらいはいました。「レポ」には手紙というコンセプトもあるんですよね。直接送り届けるために、発送作業をみなさんで。
北尾 そうです。
友だちから手紙がくるとワクワクするじゃない。ポストで封筒をこうやって(親指で封筒を開けるしぐさをしながら)開けたりして。電子書籍とは真逆のことをやろうとおもっていたんですよ。手紙ほどアナログなものはないので。
杉江 その「手紙」への返事ってくるものなんですか?
北尾 「レポ」は雑誌なので、「ちびレポ」という手紙を毎月必ずだしているんですけど、返事はあまりこないんですよ。きてもメール(笑)。でも、あまり期待はしていない。こっちが出したいだけ。
杉江 一方的に送りたいんですね。
北尾 そう(笑)。
――一部書店で買うこともできますが、基本は年間定期購読じゃないですか。これも手紙というスタイルを守りたいからなんでしょうか?
北尾 雑誌がこれだけ廃刊になっているんだから、今までの、雑誌を書店に並べて売るというビジネスモデルは崩れかけているじゃないですか。
「レポ」のような非力なものが書店に突っ込んでいっても上手くいくわけがないし、面白くないのよ。だから手紙ということにこだわろうかなと思っているんです。

手紙をもらったときのうれしさを味わってほしいからポストに送り届ける。でも、手紙をもらってうれしい人たちすべてが、手紙を書きたいわけじゃないのだ。事務所にはかなりの数の「レポ」が山になっていた。あれだけの数の宛名を書くのはかなり大変じゃないのだろうか。

北尾 手伝ってもらっている人たちを強制的に呼びつけたりはしていない。暇な人がいたら来ませんか? って呼びかけたらけっこう来てくれてね。ライターって打ち合わせをしないといけないから、編集者とはよく会うんだけど、ライター同士で雑談するチャンスってほとんどないじゃないですか。
――集まる機会ってなかなかないですね。同世代のライターの知り合いもあまりいないです。
北尾 この場所にはね、毎回いろいろな人が来るんですよ。
20代もいれば、50代もいる。なかなか珍しい空間じゃないかな。

6月17日にお台場「TOKYO CULTURE CULTURE」で、「季刊レポ」presents「フリーライター大募集!公開!ライター売り込みナイト!生ライブ!ライターオーディションイベント」が行われた。「レポ」に原稿を書きたい新人ライターが、「自分だったらこういうことが書ける」とプレゼンをし、優秀者には「レポ」執筆のチャンスが!? というイベントだ。都合が合わなくてイベントには行けなかったのだが、いつの間にか夏トマトさんが行ってレビューまで書いていた。嵐や関ジャニ∞のレビューだけが専門と思っていたのに、すごい気合だ……!
「レポ」は年4回刊行で、雑誌のためページ数も決まっている。確実に面白いことが書けるベテランライターだけを使っていったほうが楽だと思う。なぜ、イベントを行ってまで、新人ライターを発掘していこうと思っているのだろうか。

北尾 週刊連載で10年20年連載しているのもいいんですけど、後進に譲れよって思ったりもするんです。良い悪いの話じゃないんだけど、新陳代謝はいるんですよ。僕ね、絶対にやらないと決めているものがあるんですよ。
――なんでしょう?
北尾 子育てエッセイ。話がきたこともあるんだけど、絶対に脚色して書いちゃうだろうし、誰がやっても面白いんだから。やり始めたら終わりですよ。
杉江 じゃあ、●●●●さんとか、×××さんとか……(笑)。
北尾 別にいいんですけどね、僕の思い込みですから。ある年代になったら、若手に仕事の場を作ってあげるというのもひとつの方法だと思う。雑誌に元気がなくて、ノンフィクションを書く場所がなかったり。あったとしてもそういう雑誌に限って廃刊になったりするんです。
――自分の好きな原稿を読める場がなければ、作ってしまう。
北尾 新人にいかにチャンスを与えていくかは、いままで出版社がやってきたことなんだけど、もうそれもできなくなってきている。だったら、もの好きがやるしかない。
北尾 松恋さんも忙しいから大変でしょう。人の原稿をたくさん読んで、時間も使ってストレスも貯まるはずなんだけど、それ以上に面白いことがある。
杉江 「BookJapan」には、プロ書評家もいますけど、ライターですらない人もいますからね。そういう人たちに声がかかるかもしれない。
北尾 松恋さんが管理している書評サイト「BookJapan」は、ノーギャラだから、それで生活ができるというモデルじゃない。でも、松恋さんが編集になって原稿を見ている。同じWebでも、そこがブログとは違うところですよね。面白さが大変さをやや上回るくらいだと、けっこうベストだと思うんです。
杉江 その差がどんどん開いてしまうと、辞めちゃうんですよね。

雑誌もどんどん廃刊になり、出版不況と言われている出版業界。ベテランライターや編集者たちが、「新人ライターという存在をあまりみなくなってきた」言っているのをよく耳にする。新人ライターが新しく参入する場所がないいま、若い人たちのことを考えてくれている北尾さんと杉江さんのことばを聞くと、すごくうれしくなる。「BookJapan」はエキレビ!ライターの渡りに船がデビューした場所でもあるのだ。『ペンギン・ハイウェイ』を読んで、「おっぱい」って言いたいだけで書評を書きやがったー! なんかくやしい!

北尾 別にやさしいわけではないのよ。僕は人を育てることはできないので、勝手に場だけ作っている。そこで生き血を吸っていかないと。ただのいい人になっちゃうので。
杉江 場所だけ提供するので、それで面白いと思ってくれれば、それだけでもいいんです。
北尾 「レポ」に書いたのがきっかけで売れっ子になったり、連載が本になったりしたら、すごい嬉しいですよ。
(加藤レイズナ)

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