TENGAというのは、男性なら皆さんご存じのあのTENGAである。
今回のイベントは、そのTENGAの新製品「TENGA 3D」の発売を記念して行われたもの。会場は原宿のオシャレなイベントスタジオ。写真家の荒木経惟をはじめ、4人の著名な現代アーティストが、TENGA 3Dをモチーフにした様々な作品を展示するという。考えてみれば、原宿のド真ん中で堂々とオナホールの展覧会が行われているというのもスゴい。
正直に言うと、以前のぼくはTENGAに対してあまりいいイメージを持っていなかった。どうしてもデザインやイメージ先行で売られているような印象があったし、雑誌やテレビなんかで「TENGA使ってます!」などと公言している人を見るにつけ、「TENGA使ってることを公言しちゃうオレカッコイイぜ!」みたいでなんだかなーとも思っていた。
だけどそんな思い込みは、実際に会場を訪れてみたらどうでもよくなってしまった。
来場客の客層は幅広く、明らかにモテなさそうな男同士のグループ(ごめんなさい!)もいれば、カップルで来ている人や、女性同士のグループまでいたりする。男女比で言えば、たぶん4割くらいは女性が占めていたと思う。そういう人たちが、TENGAやTENGAをモチーフにしたアート作品を見て、一様にキャッキャと楽しんでいるのだ。
この光景に、ぼくは脳天をハンマーでブン殴られるような衝撃を受けた。
「性」というのは万人にとって平等なものではない。人によって感度もツボも違うし、非モテとリア充とでは一生のうちに体験できるセックスの回数もまったく違ってくるだろう。
だけど少なくとも、ぼくが今立っているこの空間では、男も、女も、非モテ、リア充も、同じようにTENGAという「性」と向き合っている。
もしかしたら今、ぼくは世界でいちばん平和な光景を目の当たりにしているのかもしれない……。大げさだって思われるかもしれないけれど、本気でそう思っちゃったんだからしょうがない。
オシャレなデザインや健全なイメージを前面に出しているのにも、ちゃんと理由がある。いままでのアダルトグッズというのは、いかにもな形をしていたり、パッケージに幼い女の子のイラストが描かれていたりして、どうしても卑猥で、後ろめたいイメージがつきまとっていた。
そこに疑問符を打ったのがTENGAだった。TENGAの生みの親である松本光一社長は、会場でぼくの質問に次のように答えてくれた。
「オナニーって男性にとってはごく普通のことなんです。調査によると、成人男性の約95パーセントはオナニーの経験がある。なのにそれを卑猥なもの、後ろめたいものだと言ってしまうのはおかしいんじゃないか。
コロンブスの卵とはまさにこのことだろう。加えていままでのアダルトグッズは、バーコードもなく、パッケージに問い合わせ先はおろか会社名さえ書いてないようなものも多かった。そこを見直し、一般プロダクトとしてアダルトグッズを作る。「もののあり方や立ち位置、存在自体を変えるというのを常に目標にしてきた」という松本社長にとって、TENGAのデザインやイメージは必然性から生まれたものだったのだ。
もちろん、一度定着してしまったイメージを払拭するのはそう簡単なことではなかった。実は2006年、松本社長らがTENGAを「グッドデザイン賞」に応募した際、主催者側はアダルトグッズであるという理由でTENGAに「出展取り下げ」を命じている。信念とプライドを持ってTENGAの開発に取り組んできた松本社長にとって、これほどの屈辱はなかっただろう。
けれど今、ぼくの目の前ではこうして若い男女がTENGAを見ながら笑いあっている。かつてグッドデザイン賞に応募して「出展取り下げ」を食らったアダルトグッズが、こうして原宿の一等地で「アート」をテーマにしたイベントを開いている。それはそのまま、この6年間でTENGAがどれだけオナニーのイメージを変えてきたかのあらわれでもあろう。
あまりに感動したので、帰りぎわに会場で売っていた「TENGA論」という本を買った。サブタイトルは「マスターベーションを解放した男たち」。
※イベントは8月5日~7日までの3日間限定。現在はすでに終了してしまっているが、イベント公式サイトではブラウザ上で体験可能なバーチャルギャラリーを引き続き公開中。ぜひアクセスしてみて!
(池谷勇人)