3月29日(金)深夜放送のドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)。最終話は、白石和彌が監督を、沖田修一、是安祐が演出スタッフを務めた。


悪徳店からデリバリーヘルス店「フルーツ宅配便」に移籍したえみ(仲里依紗)は、借金を返済する目処もつき、少しずつ明るさを取り戻していた。そんなとき、えみの中学の同級生でフルーツ宅配便の店長・咲田(濱田岳)に元上司から東京で働かないかと誘いがあった。えみは、普通の仕事に戻れるチャンスだと咲田の背中を押す。
最終話「フルーツ宅配便」「誰も助けられなかったって言ってたでしょう。そんなことないよ」続編を熱望する
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そんなとき、以前えみが勤めていた悪徳店のオーナー・沢田(田中哲司)の差し金で、フルーツ宅配便は警察に摘発されてしまう。オーナーのミスジ(松尾スズキ)が連行され不在のなか、今度は沢田たちによってえみが拉致された。

白石監督が描く「ヤクザ者と警察」



ヤクザ者、それを捕まえたい警察、その間で上手く立ち回る者。白石監督が映画『日本で一番悪い奴ら』(2016年)で描いたこのトライアングルが活きた。

えみが監禁されている倉庫に、咲田が助けに向かう。ボコボコの返り討ちに遭う咲田だったが、ミスジが残してくれた銃を使ってえみと逃げることを試みる。しかし、その銃はモデルガンだった。

えみ「咲田くん、最後に助けに来てくれてありがとう」
咲田「助けてない、誰も助けてない。誰も。えみだけじゃない。
フルーツで働いてた女の子たち、誰も助けられなかった。みんな、必死に生きてたのに、見てることしかできなかった」

もう逃げない、と言って沢田たちに立ち向かう咲田。踏ん張るその足には、えみやフルーツ宅配便で働いていた女の子たちの人生の重みが乗っている。
最終話「フルーツ宅配便」「誰も助けられなかったって言ってたでしょう。そんなことないよ」続編を熱望する
白石和彌監督作品『日本で一番悪い奴ら』(2016)

万策尽きたか、というところで、マサカネ(荒川良々)とミスジが登場する。

ミスジ「俺なんか捕まえるより、大物の沢田くん推薦したの」

ミスジは、自分と仲良くすれば警察に利益があることを、刑事の八神(音尾琢真)に理解させたのだろう。八神は「ミスジさんとは長い付き合いになりそうっすね」と言い残し、沢田や、えみに値段をつけるためにやってきた上野(大窪人衛)を逮捕する。

刑事や警官に確保されるとき、「ああ……」という力ない声が沢田から漏れる。警察に踏み込まれたとき、ミスジは八神に鼻くそをなすりつけるなど多少の抵抗をしながらも、落ち着いて連行に従った。対照的に、沢田はみっともなく逃げようとし、みっともなく脱力する普通の人間らしさを見せた。田中哲司は、こういう“普通のクズ”を演じさせたらピカイチだ。

『日本で一番悪い奴ら』では、警察とヤクザ者の協力関係を批判し忌み嫌い、そしてあざ笑う刑事を演じた音尾琢真。今回はミスジと手を組む刑事・八神を演じた。
やっていることとしては今回のほうが「悪い」はずなのに、人間的には『日本で一番〜』のときのほうが「嫌な奴」に見える。それは、善悪や正義の一枚岩でない部分を表しているように感じられた。

『フルーツ宅配便』は女の子の希望になる


最終話「フルーツ宅配便」「誰も助けられなかったって言ってたでしょう。そんなことないよ」続編を熱望する
3月29日(金)発売の最新刊、鈴木良雄『フルーツ宅配便』8巻(小学館・ビッグコミックス)

最終話、空回ってばかりだった咲田がみんなに認められていた。マサカネは咲田に自分が帰って来なかったら骨は拾ってくれと託した。ミスジも、ひとりでボロボロになって戦った咲田を、よくやったとねぎらう。みかん(徳永えり)やイチゴ(山下リオ)は、出戻った咲田を笑顔で迎える。

そこにはいない女の子たちの気持ちを代弁したのは、えみだった。

えみ「咲田くん、誰も助けられなかったって言ってたでしょう。そんなことないよ」

えみ「理解してくれて、一緒に苦しんでくれて、一緒に笑ってくれて、一緒に、ほんとに笑ってくれてただけで、十分、助けになってたと思う。だから、みんな思ってるよ、咲田くんありがとうって」

実際に風俗で働く女の子たちにとっては、もしかしたらこの台詞はきれいごとかもしれない。そんなことより、環境的に、物理的に、自分の状況を何とかしてくれと苦しんで、余裕がなくなっている人もたくさんいる。

そんな現実の女の子たちにとって、この『フルーツ宅配便』という作品の存在は、えみたちにとっての咲田と同じになれると思う。


えみ「ラヴ&ピース!」

えみが叫んだ中学生の頃の咲田の信条こそが、咲田の武器であり、咲田らしさだった。3月30日に投稿された、白石監督の「必死に生きてる人たちに幸あれ!」というツイートにも重なる思いがそこにある。

すでに「ぜひ2期を見たい」という声も多い『フルーツ宅配便』。女の子を乗せて咲田が運転する車が、道を走って来るシーンで始まり、咲田が運転する車が夜の風景に消えていくシーンで終わった。

(むらたえりか)

▼配信サイト
Amazonプライムビデオ(テレビ東京オンデマンド)
ひかりTV(テレビ東京オンデマンド)

ドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)
毎週金曜 深夜0時12分から放送
出演 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、徳永えり、山下リオ、北原里英、原扶貴子、荒川良々松尾スズキ、ほか
原作 鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館・ビッグコミックス)
脚本 根本ノンジ
監督 白石和彌、沖田修一、是安祐
楽曲制作 高田漣 
主題歌 EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ 超特急「ソレイユ」(SDR)
チーフプロデューサー 浅野太(テレビ東京)
プロデューサー 濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ) 
制作 テレビ東京 オフィス・シロウズ
製作著作 「フルーツ宅配便」製作委員会
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