アニメ「らき☆すた」にみられる「聖地巡礼」ブームや、萌えキャラを用いた地元米「あきたこまち」のヒットなど、マンガ・アニメをもちいた町おこし・地域おこしが静かなブームとなっています。「萌え」までいかずとも、「ひこにゃん」「遷都くん」をはじめとした「ゆるキャラ」は、すっかり市民権を得ていますよね。
山口県周南市(旧:徳山市)出身の筆者。ええ、頭ではわかっていたんですよ。でも実際に公式サイトを見た時、目が点になってしまいました。マスコットキャラクターが「周南」(まわり・みなみ)ちゃんと下松(くだり・まつ)ちゃんで、「貞本義行氏(新世紀エヴァンゲリオン)が生まれ育ったまち」ですよ。周南はじまったな......
地元民以外の方のために説明すると、周南市は県中央部に位置する、いわゆる「平成の大合併」で2003年に二市二町が合併してできた街です。んでもって、その中でも一番大きい旧:徳山市が、「エヴァ」のキャラクターデザインなどを務めた、アニメーターの貞本さんが高校卒業まで過ごした街なんですね。
この市町村合併の時に、隣接する下松市が加わるか否か議論があって、最終的に下松市が抜けて合併したんですよ。そんなわけで、周南ちゃんは良いとしても、下松ちゃんは大丈夫なのか・・・なーんて、外野としては心配しちゃいまして。これはもう実際に行って話を聞いてみるしかないと、新幹線に乗って、帰省がてら取材してきました。
というわけで10月29日に開催された「SHUNAN萌えサミット2011ーファーストインパクトー」(主催:周南青年会議所)。当日は小雨が時折ぱらつく、あいにくの空模様でしたが、会場となった徳山銀座商店街はすっかり「萌え」ていました。62回目を迎える「徳山のんた祭り」の一環で行われたんですが、すっかり本家がかすんでましたね。
なにしろ開会式では、のっけから木村健一郎・周南市長が「今日は私も、周南ちゃんと下松ちゃんに会えるのを楽しみにしております!」と高らかに挨拶。いやもう、耳を疑いましたよ。開会式が終わると木村市長、二人の公式コスプレイヤーに囲まれ、両手に花のスリーショットでアピール! 行政のフルバックアップを印象づけました。
このほか街には地元を中心に集まったコスプレイヤーが街をそぞろ歩き、写真を撮ったり撮られたり。メイド喫茶ならぬ執事喫茶も登場して、思わず「ここはアキバか? 池袋か?」と目を疑ったほどです。ステージイベントでは山口県宇部市出身の人気声優、原田ひとみさんのミニライブ&トークイベントなども開催され、東京からの参加者も見られたほど。終了後のサイン会には長い、長い列ができていました。
ちなみに実行委員長の今治総一郎さんに聴いたところ、社団法人周南青年会議所は2003年に徳山青年会議所と下松青年会議所が統合して設立された経緯があり、活動エリアも周南市・下松市なんだとか。マスコットキャラクターの利用についても、ちゃんと市に許可を得ているんだそうです。だそうですよ、県外にいる地元民の皆様! ほんと、いらぬお世話でした。
また知恵袋的な役割をはたした、徳山大学教授のマンガ家なかはらかぜさん曰く、知財関係の取り扱いには十分に気をつけるように助言したんだとか。貞本さんの名前を宣伝に使う件も、ちゃんと実行委員が上京して、直接本人にお会いして、協力をお願いしたんだそうです。
もちろん本イベントは、ただ楽しいだけじゃない、地域経済の永続的な経済をめざして、産官学の連携で行われました。周南市には知財コースを抱える徳山大学、マンガコースなどがあるYICキャリアデザイン専門学校があります。こうした人材やコンテンツ資材を特産品とコラボさせるなどして、地域活性化をめざすのが目的。会場では周南ちゃん、下松ちゃんとコラボした地元特産品も多数販売されていました。萩市須佐町の観光キャラクター、海野みことも応援にかけつけ、地元特産品をアピールしていましたよ。
堅めのところでは、なかはらかぜさんと、徳大特任教授の原田一記さん、実行委員長の今治総一郎さんによる「マンガまちづくりフォーラム」も開催されました。なかはらさんが例にあげたのは、沖縄のお菓子「ちんすこう」に萌えキャラをカップリングした「萌えるちんすこう もえちん」。周南ちゃん、下松ちゃんについても、世界観や地域に溶け込むストーリー性を加えて、周南萌えキャラワールドを広げていって欲しい、などとコメントしていました。
もう一つ、本イベントでは貞本さんの母校・徳山高校吹奏楽部も登場。「エヴァ」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」と「戦闘組曲」が演奏されました。中には会場のレンタルコスプレサービスで衣装を借り、ノリノリで演奏をしていた男子生徒もみられたほど。
んでもって余談ながら、実は筆者も同校の吹奏楽部OBで、バリトンサックスを吹いていたんです。あの頃と同じ楽器がしっかり受け継がれていたようで、うれしかったですね。あのチューバは○○、あのコントラバスはXX、んでもって早世した△△が叩いていたティンパニは今も健在・・・。いやー、生徒は変わっても、楽器に歴史あり、です。
今治さん曰く「今回のイベントをきっかけとして、さまざまな反省点をふまえつつ、今後につなげていきたい」とのこと。僕らが中学・高校生のころも、地元で同人誌即売会などがありまして、足を運んだ記憶があります。二回、三回とイベントを続けて地元をあっためて、貞本さんをゲストに呼べるようになるといいですね。その時はぜひ、再び徳山高校吹奏楽部に「エヴァ」のテーマを演奏して、迎えていただきたいところです!
(小野憲史)