「January、February、オトタケ」
「オトタケがmixiに足跡を…」
「ひとつだけお願いがあります。私のことは嫌いでも、オトタケのことだけは嫌いにはならないでください!」
オトタケを使ったギャグを言いまくる『おっと!オトタケ』。
水中、それは苦しいというバンドの曲だ(ちなみに上記に挙げたフレーズはCD未収録)。
コンプライアンス的に誰かから怒られないんだろうかと心配になるが、オトタケさんの中で一番有名な乙武さんがCDの帯に「照れるぜ」と推薦コメントを書いていたのでたぶん大丈夫なんだろう。
水中はコミックバンドなのか?
ゲスの極み乙女。、グループ魂、神聖かまってちゃん、人間椅子、筋肉少女帯、キュウソネコカミ…
変なバンド名は数あれどその中でもひときわ変なバンド名「水中、それは苦しい」。
変なのはバンド名だけではない。曲も変だ。ギャグを言い続けるだけの曲も多い。
『おっと!オトタケ』のほか、『サンダーレイプ』『鹿の大群VS鹿』『人物伝』『居酒屋デリンジャー』など。
ギャグをひたすら言い続ける曲があるのは事実だが、水中、それは苦しいはコミックバンドではない。
(かつて「あらびき団」に出演した際は「こう見えてミュージシャンです」と紹介されていた。)
バイオリンがいるパンクバンド
バンド編成はギター、ドラム、バイオリン。
バイオリンがサウンドの核を担っている。
ジャンルはパンクロック。
パンクロックで間違いないと思うが、攻撃的なメッセージ性はどこにもない。
ノーフューチャーでも未来は我らの手の中でもロンドンから呼びかけたりもしていない。
とことん、とことん、くだらない。
たとえば代表曲『安めぐみのテーマ』。安めぐみがとにかく好きという気持ちで作られたラブソングだが、歌詞の前半は安めぐみのプロフィール、後半は駄洒落。
『農業、校長、そして手品』は自分の父親の人生を歌った曲らしい。ジョン・レノンのイマジンのように平和を歌っている気もするが、自転車で手品をしたり関ヶ原で手品をしたりする。
『無軌道戦士ランダム』はタイトルどおり無軌道でランダム。俺は医者だと主張して始まり、放送時間をお知らせして終わる。支離滅裂だ。
なんなんだ、いったい。おまえら何を言っているんだ。
しかしこの唯一無二のスタイルを貫き通す姿勢こそパンクなのではないだろうか。
水中に潜む、切なさとあたたかさ
アルバムを発売順に聴いていくとわかるのが、バンドの成長とともに曲の「切なさ・あたたかさ」がどんどんと増えているということ。
歌詞だけではなく、アレンジ(特にバイオリンの音色)による力も大きい。
歌詞はくだらないのにアレンジがやたらドラマチックというパターンもある(『風の谷の噺家』『マジで恋する5億年前』
『暮らしと安全』など)。
中でもドラマチックな曲が約9分の大作『芸人の墓』だ。
谷川俊太郎の「詩人の墓」をもとに作られた。
芸人として生きるしかできない男と、そんな男を愛してしまった娘の物語。
「詩」を「ギャグ」に「詩人」を「芸人」に書き換えることで、水中、それは苦しいにしか歌えない曲にしてしまった。ずるい。
そしてそんな曲で感動してしまうとは…(本当に私は泣きました)。
YouTubeの水中、それは苦しい公式チャンネルで『芸人の墓』PVも公開されているので、ぜひ。
発売日などは未発表だが、現在新しいアルバムを製作中とのこと。
先日ライブにて『ホタルイカの光』『アンパン男』などの新曲を披露していた。
アルバムに収録されるかどうかは不明だが、聴きながら次のアルバムも傑作になると確信した。
(イラストと文/小西りえこ)