バラクータのスウィングトップを何枚も持っているし、ポロシャツは必ずフレッド・ペリー。ドクターマーチンを買い漁ったこともある。
全部、デーモン・アルバーンからの影響。
しかし、光陰矢の如し。頭髪は薄くなり体型も変わった彼は「ゴリラズ」なるプロジェクトを始動させ、それまで成し得ることのできなかった全米制覇をあっさり成し遂げてしまう。イギリスを代表する文化人となった彼は、創作面も含め、そのポジションを満喫しているように思えた。

そんな彼が袂を分かったグレアム・コクソンとの仲を復活させ、「BLUR」を再開させたのは2008年。嬉しかった! しかし、こうも思っていた。
「デーモンにとってBLURは、ファンに対する“優しさ”でしかないんじゃないか?」。
デビューからの音楽的変遷を見てきたら、そう思うのは道理。デーモンの興味の移り変わりこそ、BLURが前衛的でいられる要因でもあった。

とは言え。何だかんだ言いつつ、Youtubeで彼らの公演は執拗にチェック。これが、すごく良いのだ。
おざなりで演ってるかどうか、我々はすぐ気付く。英国ロックファンは、うるさ型だから。
そんな彼らが、11年ぶりに来日。しかも、日本武道館の1DAY公演だそう。(後にZEPP DIVER CITYでの公演も追加発表)
11年待ってたのに、武道館一日だけ!? 「チケット、取れるわけねえじゃん」と思いながら、やはり居ても立ってもいられなくなってくる。あらゆる手段を使ってチケットを入手し、その日を迎えたわけです。


当日、九段下駅を降りると、会社帰りであろう男女が武道館へ向けて歩を進めている。途中、「チケット、譲ってください!!」と書かれたボードを掲げる女性の姿も目に入る。緊張で、吐きそうになってきた。
入り口でもぎりにチケットを渡し、武道館に入場。この時点で、もう信じられない。

館内は、言うまでもなく満員。
若者の姿も多いが、やはり中心は30~40代。
……! 場内が暗転し、「Theme From Retro」が流れる中、彼らが姿を現した。すごい大歓声。
「Good evening」(デーモン・アルバーン)
もちろん、ステージ衣装なんてあるわけがない。ライブは、いつも普段着。グランジとは意味合いが違う。
中流階級出身の彼らがそのままの姿でステージへ上がり、それがいつしか“ロンドンで最もファッショナブルなバンド”の評価を獲得していた。

もちろん1曲目は、定番の「Girls And Boys」。分かっちゃいたけど、びっくりした。この曲でこんな反応する自分に、びっくり。
2曲目は彼らの初ヒット曲「There's No Other Way」。アップテンポな曲が続いたと思ったら、おもむろにギターをこすり始めるグレアム。
「ガッガッガッガッガッガ……」。当然、察する観客。「Beetlebum」だ! ライブでは曲の速度が増すミュージシャンが多いけど、BLURはこの曲をスタジオヴァージョンより遅く演奏する。タメを効かせる。エンディング間際、終わると思ってもまだ終わらない。それどころか、ギターもベースもドラムも、どんどん大音量になっていく。特に凄いのが、デイヴ。彼の一叩きが「ドカン!」と館内に響き渡り、みんなのテンションを上げていく。頑張れ、おじいちゃん! ペットボトルの水をデイヴにぶっ放すデーモン!! 曲が終わった時の高ぶりと言ったら!!!

続いて、“再結成BLUR”お得意の「Young And Lovely」。とても、B面曲とは思えない。俺、この曲大好きなんだ。そして、グレアムがそこに居てくれるのが感慨深い「Out of Time」。
そんなグレアム、遠目から見てるとアクションが少ない。はっきり言って、日本での一番人気はこの人。同世代最高のギタリストと目される彼のマジカルなプレイは堪能しているものの、彼の愛らしさがもっと欲しい。
……と思いきや、ようやく「Coffee&TV」が始まった! テーブルの下に隠れヴォーカルを録ったことのある彼だが、今じゃヴォーカリストとしても一味違う。やっと、グレアムを見れた。そして、そんな彼をサポートするデーモン。おどけてコーラスの列に混じり、兄貴分としてグレアムをサポートしてくれる。いや、サポートするはデーモンだけじゃない。館内が一つとなって「コーヒー、アンド、ティービーッ!」と熱唱。何ですか、この状況は。
「Tender」でも、そうだった。観客全員で「カーモン、カーモン、カーモン」「オー、マイ、ベイベー オー、マイ、ベイベー」と歌い上げる。コールしてるんじゃない。みんな、ちゃんと歌ってる。BLURの曲なら、全てシンガロングできる。

ここからは、もう名曲の連続。「To The End」、そしてデーモンが客席へ飛び込んだ「Country House」と続く。さぁ、次の曲は……? フィル・ダニエルズが姿を現したぞ。「Park Life」だ! ステージの右へ左へ駆け回るデーモンとフィル。サビの部分、要するに“All The People So Many People~”の瞬間、誇張抜きで武道館は揺れていたと思う。一人残らず全力で熱唱してるし、一人残らず全力で跳ねている。俺、この瞬間を体験するために、今日来たのかもしれない。
続いては、「End Of A Century」。このタイミング! という絶妙な曲順だ。……やばいかもしらん。泣きそうなってきた。なんで!? 恥ずかしいからガマンしたけども。

そして、彼らが特に思い入れを持つ「This Is A Low」で本編は終了。でも、アンコールがあるはず。
期待感を胸に待ち構えてたら、いきなり期待以上の光景です。手を取り合って登場するデーモン&グレアム。そして、ハグ。そのままアレックス、そしてデイヴとハグするデーモン。斜に構えた、あのBLURはどこへやら。再始動後の彼らは、こういう姿をたくさん見せてくれる。
ライブバンドとしてのBLURは、今が全盛期だと思う。まず、セットリストが良い。そして明らかに、デーモンがヴォーカリストとしてレベルアップしている。センス偏重だったバンドに体幹ができた。果てしなく上がる我々のハードルを、難なく飛び越えてみせる。何より、メンバー自身が感動している。

日本のファンへ向けた「Yuko&Hiro」を終えると、ピアノの前にデーモンが座り「Under The Westway」。こんな良い曲、本当に久々に聴いた。
ビートルズやプロコル・ハルムとの類似性を指摘する声もあるが、やはりこの曲はデーモン・アルバーンだと思う。それも、ゴリラズを通過したデーモンによる曲。エンディング間際の「Hallelujah(ハレルヤ)!」という箇所、日本で聴けて幸せじゃないですか。ずっと、待ち構えてたから。

そしてアコースティックギターを片手に「For Tomorrow」。この曲で、BLURを好きになった。
レーベルから「シングル向きの曲がない」とダメ出しを食らい、クリスマスイブに急遽徹夜で作ったこの曲のサビの歌詞は「LA LA LA LA LA」。みんなが歌えるようにとデーモンが配慮した通り、全員が「ラーラーラーララー」と歌っている。「1993年のサウンドトラックになればいい」と願っていたデーモンなのに、2014年でも未だサウンドトラックとして鳴り続けている。

「The Universal」と感動的に終わるかとおもいきや、最後は「Song2」。武道館全体が縦ノリに跳ね上がり、「WooHoo!」と絶叫し、その勢いのまま終幕。終わったか。まだ、夢みたい。

しかし、聴けてない曲はたくさんある。「Popscene」や「She’s So High」、「London Loves」。何より「Tracy Jacks」を聴けてない。この曲は日本のファンも大好きだから、今度来た時は絶対演ってね。
俺、本当に行って良かった。
(寺西ジャジューカ)


【SET LIST】
01.Girls And Boys
02.There's No Other Way
03.Beetlebum
04.Young And Lovely
05.Out Of Time
06.Trimm Trabb
07.Caramel
08. Coffee&TV
09.No Distance Left To Run
10.Tender
11.To The End
12.Country House
13.Parklife
14.End Of A Century
15.Death Of A Party
16.This Is A Low

(ENCORE)
17. Yuko&Hiro
18.Under The Westway
19.For Tomorrow
20.The Universal
21.Song 2