私は断固抗議しますっ!
麗子の乳首が、秋本・カトリーヌ・麗子の乳首がなくなっているんです!! どういうことでしょうか、集英社様。

何の話かって、先日3冊同時刊行された「こち亀・35周年記念本」のひとつ、『こちら葛飾区亀有公園前派出所・999巻』ですよ。
今年連載35周年を迎えた『こち亀』が、その記念企画として集英社が誇る13の漫画誌(「りぼん」「マーガレット」「別冊マーガレット」「コーラス」「ビジネスジャンプ」「スーパージャンプ」「ウルトラジャンプ」「Vジャンプ」「ヤングジャンプ」「YOU」「ジャンプSQ」「ザ マーガレット」「Cookie」)に出張連載したのですが、その13作品をひとつにまとめたのが『999巻』。で、問題なのがその中の「スーパージャンプ」に掲載されたストーリーです。
この話は秋本治先生の幻の読み切り銭湯漫画「いいゆだね!」とのコラボ企画で両津勘吉率いるおなじみの派出所メンバーが銭湯に行くお話なのですが、スーパージャンプ掲載時には確かに、間違いなく麗子の乳首が描写されていたんです。もちろん、麗子の乳首目当でこの本買った訳じゃないですよ。35周年の記念として買った、それぞれの読み切りが面白いから買った、それだけはハッキリさせておきますが、でも「スーパージャンプは青年誌だから乳首OKで、ジャンプコミックスは少年漫画だからNG」とかおかしいでしょう。これは保存版だぜ。
と思ってコミック買ったら修正されてるって裏切りでしょう! だって同じく露にされた両さんのかわいいオチンチンはそのまま掲載されてるんですよ。「むしろ少年のためを思うのなら、麗子の乳首は必要なんじゃないか」と、見た目は大人・心は子供の私なんかは思うわけですよ。少年の夢を奪うな! と。
失礼……ちょっと取り乱しました。
冷静になって本書を見直せば、ビジネス漫画誌にはアダルト向けな面白さを、少女漫画誌には少女漫画ならではの構図やストーリーで展開されているのに、どの話もちゃんと『こち亀』になっているという不思議。35年の熟練の腕にはやはり感服せざるをえません。
また、センターにおさめられたコミックス1巻~176巻の表紙一覧や35年の軌跡をかけ足でたどる「こち亀クロニクル」という企画は、「『こち亀』振り返りたいけど、全部読み返す時間はさすがにないよ…」という読者にとってピッタリのまとめ方とボリューム感なのがうれしい限りです。戸塚金次や花山理香、海パン刑事など、あーこのキャラいたいた!と懐かしいキャラクターの面々もチェックできます。


「こち亀・35周年記念本」の2冊目は『秋本治SF短編集』
秋本治先生の過去の読み切り短編の中でSF色が強い5作品をまとめた一冊。『999巻』もそうですが、35年間一週も休むことなく『こち亀』を描き続ける中でよく読み切りを描く余裕と時間があるなというのが率直な感想です。以前TBS「情熱大陸」で秋本先生が特集された回において、毎日規則正しく淡々と執筆を続け、本来入稿する分と何かあったときの予備原稿を編集者に渡していたのを思い出しました。
この計画性と几帳面さは両津勘吉とは真反対ですが、激しく燃え盛る炎よりは小さな種火のほうが意外と長持ちするもの。情熱を失わずに地道に連載を続けてこれた由縁ではないでしょうか。
この本の中で特筆すべきなのは巻末におさめられた盟友・小林よしのり氏との「超ともだちんこ対談」。デビューが同時期で、最初の担当編集も一緒。これまでにも何度か『東大一直線』とのコラボ漫画を作り上げたことのある二人(※コラボ作品はこち亀大全集『Kamedas』『Kamedas2』で読むことが出来ます)は、お互いを“秋本くん”“小林くん”と呼び合うまさに“ともだちんこ”。実は『こち亀・1巻』の巻末コメントが小林氏で、さらに前述の『Kamedas』や30周年記念本『超こち亀』でも小林氏が寄稿しているので、定点観測としてそれらを見比べると漫画家・秋本治の根幹が見えてくると思います。
また、本作収録の5作品以外のこれまでの読み切り作品解説もありますので、「秋本治研究本」として押さえておきたい一冊です。


そして35周年記念の3冊目が『こちら葛飾区亀有公園前派出所・177巻』、つまり通常の単行本です。
177巻も出しておいて“通常の”と書いてしまうのはもはや感覚が麻痺している気もしますが、アニメ化され、ドラマ化され、映画化もされ、よくも悪くもさらに知名度を増した『こち亀』のホームグラウンドともいうべきコミックス版は漫画好きを称するならばやはりチェックしておきたい所です。でも、ここんとこ『こち亀』はご無沙汰、という方も結構多いんじゃないでしょうか。そして最近読んでもいないのに「こち亀は100巻までだよね」とか「50~70巻あたりが至高」とか言っていないでしょうか。かくいう私も単行本を買うのは10数年ぶり。
でもまとめて読み直してみるとジャンプ一週分だけ読むことでは感じなかったボディブローのようにじわじわ響く笑いがあり、さらにはひと頃よりもだいぶハチャメチャな『こち亀』に戻っている印象を受けました。実際、今回の177巻で扱われたテーマは「溶接」「有機ELディスプレイ」「ハイテク掃除機」「金魚」「立石呑んべ横町」「次世代車」「メダカ」「カセットレコーダー」「格安航空会社(LCC)」と、古今&硬軟混ざり合ったこれぞなんでもアリの「こち亀ワールド」。絵崎教授やボルボ、左近寺、法条改め残念(170巻で寺井とともに改名。ちなみに寺井の改名は「丸井ヤング館」)などなど、オールドファンにもおなじみの面々が活躍しています。
勢いを取り戻した理由のひとつには、フジテレビのアニメとTBSのドラマが終了し、いい意味で「自由」になったことがあるのではないでしょうか。アニメ化ドラマ化は間口を大きく広げてくれるものの、マイノリティな内容やニッチなテーマは扱いにくいもの。
もちろん、そんな状況に置いても『こち亀』ならではのテーマ設定、両さんならではのハチャメチャストーリーはあったものの、知らず知らずのうちにブレーキがかかっていたんじゃないかと思うのです。であるからこそ、映画版も終わり(内容が、じゃないです)、さらに「自由」になった今、改めて『こち亀』の無茶な世界観や自由奔放さに期待してみてもいいのではないでしょうか。

<人生はビッグゲームだぞ!おもしろおかしく生きたほうが勝ちだ!>
50巻でこんな粋なセリフを吐いていた両さん。これこそが『こち亀』の、そして両津勘吉の生き様だと改めて思うのです。
だからこそ、無茶の象徴として、次回こそは麗子の乳首をば、是非。(オグマナオト)