……という話をする前に、そもそも淡口醤油とは何なのか。
関東の人達が普段よく使っている醤油は濃口醤油と言います。文字通り色も濃いですし香りも濃いですよね。一方の主に関西で使われる醤油は淡口醤油といいます。淡口醤油は色も淡く香りも濃口醤油ほどにはきつくありません。でも、塩分濃度は濃口醤油よりも上だったりします。なぜ淡口醤油の方が塩分濃度が高いのでしょうか。その秘密は製法にあるのです。
醤油は発酵と熟成を続ければ続けるほど、色が濃くなっていきます。そこで淡口醤油では発酵と熟成をゆるやかにするために、濃口醤油よりも塩を多く使っているのです。
というわけで、淡口醤油は色が薄いけれども塩は多く入っている醤油になるのです。名前から判断すると、なんとなく薄味で塩分も控えめのような気がしますが、実際にはその逆なのでした。塩分控えめの醤油が必要なときは減塩醤油を使いましょう。
ちなみに冒頭で淡口醤油または薄口醤油と書きましたが、醤油業界では一般に「淡口醤油」の表記が中心です。これは、「薄口醤油」と書いてしまうと「濃口」醤油よりも味が薄い、もしくは塩分が薄い醤油だと誤解されてしまう可能性があるからです。なので、色が淡いということから淡口醤油という表記になっています。
淡口醤油はどれぐらい使われているでしょうか。全国の醤油のうち、約15%ぐらいが淡口醤油になります。80%以上が濃口醤油なのですね。
その淡口醤油の中で、全国一位のシェアを持っているのが兵庫県にあるヒガシマル醤油なのです。
さて、冒頭でお話した究極の淡口醤油。それはこのヒガシマル醤油が持てる技術の粋を集めて作り上げた淡口醤油に他なりません。それが今回紹介する「龍野乃刻」なのです。
淡口醤油には、醤油のもろみ(大豆から作って発酵させる、醤油の元になるものです)に甘酒を加えるという伝統的な製法があります。これにより、甘酒と甘味と香りが淡口醤油に加わるのです。
龍野乃刻はその製法にヒントを得て、醤油のもろみに1段階目の甘酒を加え、さらに熟成後にも2段目の甘酒を仕込むという甘酒二段仕込み製法によって、さらにしっかりと上品な甘味と芳香が醤油に加えることに成功したのです。そのおかげで、淡口醤油でありながら、従来の淡口醤油を超える旨味と香りを持った淡口醤油になったのです。
龍野乃刻は1年に1回、11月にしか出荷されません。醤油の原料になる大豆や小麦は農作物ですから、毎年のように微妙に成分が違います。もちろん、気候も全く同じ1年はありません。そのため、同じように発酵させようとしても、全く同じ発酵にはならないのです。
さて、いくら究極究極と言ったって、お味が悪ければ意味がありません。もちろん龍野乃刻はその味だって究極の名にふさわしいものです。まず、色と香りと味のバランスが非常に高い水準でとれていると言えます。どれぐらい味のバランスがとれているかというと、醤油そのものをなめたときに、辛いは辛いのですが旨味や甘味が最初に感じられるため、普通なら「塩っ辛い」となるところが「あ、美味しい」という感想が先に出てくるのです。もちろん醤油ですから、醤油らしい塩っ辛さは感じられるのですが、旨味や甘味を先に感じるのですね。そして後味で醤油らしさを感じるのです。
利き醤油をやるときのオススメはやはり、豆腐でしょうか。豆腐にかけるとこの醤油の美味しさがとてもよくわかります。豆腐の甘味を引き出しつつ、醤油の味が引き立てられるのです。もちろん、たまごかけご飯などに使ってもいいでしょう。
さらに、これはヒガシマル醤油さんもおそらくは試していないと思うのですが、オススメの食べ方があります。それは、マクドナルドのチキンマックナゲットにかけて食べるというもの。いや、本当にだまされたと思ってやってみると、そのあまりの美味しさに絶句すると思います。これはたまたま年末に遊びに来た友人が発見したのですが、それ以来我が家に遊びに来る人がチキンマックナゲットを買ってくるほどの人気の食べ方となりました。
ここで「いますぐこの醤油を手に入れたい!」と思った方。申し訳ありません。先にも書いたように、この龍野乃刻は1年に1回、11月に出荷されるのです。平成23年分はもう出荷が終わっているので、平成24年出荷分を待つしかありません。通常の店舗では売られていないので、Webページから予約するのが確実です。予約は6月から開始されますので、忘れずに予約するようにしましょう。
(杉村 啓)