駅でこんな光景を見かけることはないだろうか?

「漏水しています」という張り紙があって、天井からビニールをつたってバケツに水が流れるようになっている。よくみるとビニールはくるくるとねじられ、細い管のようにしてあったりする。


私はいつからかこの、「駅構内の漏水対策」を見かけるたびに写真におさめるようになった。それぞれの駅によって工夫の度合いに差があり、やたら個性豊かなのである。

私が最も感動したのは地下鉄大手町駅構内の漏水ガードだ(画像参照)。私の知り合いに漏水対策マニアがいるのだが、「あれが今まで見た中で一番迫力があった」と、この作品を賞賛していた。

ご覧の通り、大きなビニールシートを無数のテープで補強しながら下へ向かって絞るようにまとめあげている。ビニール管も何本も垂れ下がっており、ただならぬ気配を演出している。この画像からは伝わらないが、これが一箇所だけでなく、地下通路の天井から何本も伸びているのだ。なんとも荒々しい存在感。写真を撮るために足を止めると、通り過ぎる人が「なんかの作品かと思ったー!」と声をあげていた。水を漏らすまいという執念がアートの域にまで達しているのである。

一方、渋谷駅構内の漏水ガードはかなりスタイリッシュである(ページ下部の画像参照)。漏水ガードに真っ先に使われがちなビニールシートを避け、引越し荷物の搬出の際に業者が使う「養生ボード」のような板を組み合わせて水を壁際へ導いている。
直線的な処理の鮮やかさといい、白と黒のテープの使い方といい、非常に洗練されている。さすが渋谷。見た目に配慮する余裕が心にくい。

今回、「東京メトロ」に対し、「駅ごとの対策にこれほどの差がある理由」や、「漏水が解消されることはないのか」といった点を問い合わせてみたのだが、いかんせん「漏水」というネガティブな要素に関する質問だけに、残念ながら正式な回答をもらうことはできなかった。

とはいえ、駅によって対策の仕方にこれだけの差があるのは、やはり各駅の駅員さんがそれぞれの知恵を絞って工夫しているからに違いない。調べてみると「メトロレールファシリティーズ」という、東京メトロの駅やレールなどを保守・管理する会社が存在し、そこでも漏水の補修を行っているようなので、おそらくそういった本格的な修繕ができるまでの応急処置として、駅スタッフの方が対応しているのではないだろうか。

その一方で、これまで様々な建築現場で働いてきた経験を持つ私の友人に聞くと、漏水を根本的に解決するのは非常に困難なのだという。彼が言うには「漏水は、その水の流れが一旦止まって乾いた状態でないと補修剤等を使って埋めることが難しく、また、例えそこを埋めることができても、別の場所へ水が回って漏れ出るケースが多い」のだそうだ。

人間の作った建築物が自然の力に翻弄される様がこんなところにも現れているわけだ。とりあえずは、一刻も早く適切な対策が行われることを祈るしかない。その日がくるまでで、漏水対策に浮かび上がる人それぞれの創意工夫の味わいを楽しんでみてはいかがだろうか。
(スズキナオ)
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