『弱虫ペダル』。大変面白いですよね。
インターハイの決着がどうつくのか、毎週「チャンピオン」から目が離せません。もちろん単行本は発売日に買って読みまくっています。おそらく同じ立場だという人も多いんじゃないでしょうか。

さて、現実に目を転じてみると、6月30日から自転車ロードレース業界最大のお祭りである「ツール・ド・フランス」が開催されています。もちろん自転車ファンとしてはこちらも毎日見るのに忙しいわけです。そこで今回は「弱虫ペダルで自転車にはまった人に送る、自転車ロードレース入門編」と題して、普通のマラソンとかとはちょっと違う自転車ロードレースについて紹介していきたいと思います。


1:ツール・ド・フランスって何?

ツール・ド・フランスとはフランス語で「フランス一周」を意味する、自転車界最大のイベントです。何気にオリンピック、サッカーW杯と並ぶ、世界で3番目に大きなスポーツイベントにだったりします。

2012年は6月30日(土)からスタートし、7月22日(日)まで(うち休息日が2日)の21日間をかけて、フランスを自転車で一周するレースになります。高校インターハイで坂道くん達が3日間かけて箱根やら富士山で死闘を繰り広げていますが、あれの7倍の規模と考えるといいでしょう。

ちなみに選手は1チーム9人22チームで、合計198人参加しています。日本人は「新城幸也」選手(チーム ユーロップカー)が参加しています。


2:1日にどれぐらい走るの?

いわゆるサーキットではなく、普通の道路を使うので、文字通り山あり谷ありのコースを走ります。びっくりするぐらい平坦な道を走ることもあれば、人が登れるんかいなと思うような山を登ったりします。具体的にはアルプス山脈やピレネー山脈を自転車で超えるのですね。しかも、1日だいたい200km走るという。

従ってどのチームにも基本的には平地が得意な田所先輩や鳴子君みたいなスプリンタータイプの選手、山が得意な巻島先輩や坂道君みたいなクライマータイプの選手がいるわけです。

でも、平地のコースも山地のコースもたくさんあるので、どちらか苦手があると大幅にタイムを落としてしまいます。
なので最終的には金城先輩や今泉君のような、どっちもいけるオールラウンダータイプの選手が総合優勝したりします。

3:毎日タイム順にスタートするの?

『弱虫ペダル』では1日目のタイム順に2日目を、2日目のタイム順に3日目をスタートをしていました。例えば1日目で先頭から10分遅れた選手は、2日目には先頭がスタートしてから10分後にスタートするという感じです。

ツール・ド・フランスではそういうスタート方式ではありません。毎日みんな一斉にスタートします。その日ごとのタイムを合計して、一番タイムが短い人が優勝になるのですね。


だから、1日目でトップから10分遅れた人が、2日目には2位に5分の差をつけてゴールをしたとしましょう。でも、総合のタイムとしては10分遅れた分を取り戻せていないので、その人は総合優勝にならないというわけです。このタイム差という概念が結構重要だったりします。

4:弱虫ペダルでは学校ごとに走っていたけど、ツール・ド・フランスでもそうなの?

ツール・ド・フランスに出るような自転車選手達は、生身で時速50kmとか出したりします。これが下り坂とかになると、時速100kmを超えるようなスピードを出すことができる選手が存在します。

そんな速度で走るとどうなるか。
空気抵抗が凄いんですね。なので速度を上げれば上げるほど先頭の人はめちゃめちゃ疲れます。ところが、先頭の人のすぐ後ろにいる人はそれほど疲れません。いわゆるスリップストリーム現象という奴で、先頭の人が空気抵抗をほとんど引き受けてくれるから、想像以上に疲れずに同じペースで走ることができるのです。

『弱虫ペダル』で、みんな学校ごとに走っていたのは1人あたりの空気抵抗を減らすためです。先頭の人ばっかりが疲れてしまうと困るので、先頭交代をしてみんなで疲労を分担しあっていたというわけですね。


そしてこれはもちろんツール・ド・フランスでも同じです。なるべく人数が多い方が有利になるわけです。なので、場合によっては(一時的にも人数を多くするため)敵同士が協力したりもするのです。

5:集団ってそんなに速いの?

弱虫ペダルのインターハイ3日目前半では、恐ろしい敵が現れました。広島の待宮君です。他の学校の人達をまとめ上げ、一気に坂道君達に追いついてきました。でも、結構な差があったのに、そんなに集団って速いんでしょうか?

答えは、速いんです。びっくりするぐらいに。

大集団になると、先頭交代をできる人数が増えます。そして先頭の人達は割と全力で頑張っても、その後集団の中で足を休めることができます。その結果、1人で走るよりもはるかに速い速度が出るというわけなのです。

ツール・ド・フランスでは、だいたい平坦な道だったら10kmで1分縮めることが目安だと言われています。個人ないしは小集団が一番大きなメイン集団と5分ものタイム差をつけて前を走っているとしましょう。このとき、ゴールまで残り50km以上だったら集団が追いつくことができるわけです。残りが50km以下だった場合、ちょっと集団は頑張らなければなりません。

というわけで、メイン集団よりも前を走っている小集団(これを逃げグループと言ったりします)は、なんとか協力してメイン集団には追いつかれたくない。その思いの前にはチームの違いなんて些細な物。だから違うチーム同士でも協力して小集団を作り、先頭交代をしながら逃げるということを行います。そう、坂道君(総北高校)が荒北先輩(箱根学園)と協力して集団から逃げようとしたり、待宮君達を追っていたのと同じようなことが、毎日のように行われているわけです。

このように、大目標(メイン集団から逃げる)のためにはチームの差も気にしない、でも最終的にゴールが近くなったらまたライバル同士に戻る。もしくは逃げている集団に追いつくために、違うチームの人達も含めて集団のスピードを上げる、という駆け引きが自転車レースの面白いところだったりするのです。

6:集団がゴールするとどうなるの?

自転車レースが他のレースと違う最大のポイント。それは、集団のゴールではないでしょうか。

ツール・ド・フランスのような自転車レースでは、集団の先頭がゴールをすると、同じ集団は同じタイムになるというルールがあります。つまり、100人の集団があったとして、その先頭の人がゴールをする時と、100番目の人がゴールをする時では、当然ながら本来はタイム差が生じます。

なぜこんなことになっているのでしょうか。これは、集団の中でタイム差をつけてしまうと、少しでもタイムを稼ごうとしてゴール前が大混雑になってしまうからです。そうなると、落車などの事故が起きる可能性も少なくありません。ですので集団の中ではタイム差がつかないようにして、事故が起きないようにしているというわけです。

そうなると面白い駆け引きも生まれます。例えば、1位の人と2位の人のタイム差が、わずか1秒の差だとしましょう。本来なら2位の人はちょっと頑張れば1秒ぐらい何とかなりそうです。でも、1位の人がずーっと2位の人の後ろにぴったりつき、同じ集団でゴールをするとタイム差が縮まらなかったりするのです。この辺の、タイムと集団の駆け引きも面白いところなのですね。

7:新開さんみたいにレース中にもぐもぐ食べていいって本当?

強豪箱根学園のエーススプリンターと言えば、アブアブ言う泉田君ではなく、しょっちゅう何か食べている新開さんです。気がつけばカロリーメイトみたいなものをもぐもぐしていますよね。

ツール・ド・フランスは1日に200kmぐらい走ると言いました。さすがにそれだけ走ると、体に蓄えているエネルギーだけではどうにもなりません。なので、レース中にもぐもぐ食べてエネルギー補給をするのです。むしろ、食べないといけないのです。

レース中も選手は補給ポイントにさしかかると「サコッシュ」と呼ばれる袋をスタッフから走りながら受け取って、その中に入っている補給食をもぐもぐするのです。もぐもぐし終わったらサコッシュはそのまま沿道に投げられ、ファンが拾って宝物にしたりします。

ちなみにもぐもぐするだけでなく、選手はトイレに行ったりもします。さすがに中継カメラには映り込まないようにしていますが、普通に道ばたでささっとトイレにいったりします。大きい方はその、民家に突撃したり、木陰でしたりすることもあるんだとか。

8:誰に注目すればいいの?

弱虫ペダルで言うところの総北高校や、箱根学園、はたまた京都伏見の御堂筋君みたいな選手はツール・ド・フランスにもいます。

弱虫ペダルファン的に注目をしたい選手はなんといってもレディオシャック・ニッサンの「フランク・シュレック」です!

ん? フランク? と反応したあなた。そう、彼はあのアブアブ言う泉田君の大胸筋の左側、フランクの名前の元ネタなのです。もちろん大胸筋右のアンディも自転車選手で、アンディ・シュレックといいます。そう、あの「アンディとフランク」はシュレック兄弟という実在の自転車ロードレース選手なのです。しかも、2人とも優勝候補に名前が挙げられるほどの選手という。

残念ながら弟のアンディは今回負傷のために出られませんが、兄のフランクの活躍には要注目です。ちなみにフランクは坂道君のように山に強いクライマータイプの選手だったりします。

他にも優勝候補は、2011年覇者のカデル・エヴァンスとか、ブラッドレー・ウィギンスとか、「姿を消す」と言われるデニス・メンショフとか、たくさんいます。

優勝しそうな人、今現在総合1位の人は集団の中でも簡単に見分けがつくように、特別なジャージを着ます。これが、マイヨ・ジョーヌ(フランス語で黄色いジャージ)という黄色いジャージです。最終日まで黄色いジャージを着ていた人が優勝と覚えましょう。

弱虫ペダルでも1日目は泉田君と田所先輩や鳴子君がとりあったスプリント賞が、ツール・ド・フランスにもあります。レース中に設定されている中間スプリントポイントと、ゴールポイントを最も多く獲得した選手に与えられるポイント賞になります。今現在一番ポイントを取っている選手はマイヨ・ヴェール(フランス語で緑のジャージ)を着ます。

坂道君達がしのぎを削る山でも山岳ポイントが設定されています。現在一番山岳ポイントを獲得している選手に与えられるのがマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ(白地に赤い水玉のジャージ)です。

あとは、25歳以下の選手に与えられるマイヨ・ブラン(白いジャージ)があります。

他の選手とは違う、これらの特別ジャージを着た選手に注目するといいでしょう。

あ、もちろん忘れちゃいけないのが今回唯一の日本人選手「新城幸也」選手です。ツール・ド・フランスが終わった後にはオリンピックにも出場しますので、ツールでもオリンピックでも活躍して欲しいです。

9:結局どこで見たらいいの?

ツール・ド・フランスはJsportsで放送されています。なので、Jsports4を見られる環境を作るのが一番手っ取り早いです。

でも、今すぐ見たい! という方は、ブリティッシュパブ「HUB」に見に行くといいでしょう。店内ではツール・ド・フランスの中継をしていて、オリジナルカクテルも飲むことができます。放映している店舗一覧はこちらになります。多くの自転車ファンが集まっているお店では、選手の活躍にあわせて大歓声が上がったりもしますよ!

というわけで、『弱虫ペダル』もツール・ド・フランスも目が離せません! 自転車ファンにとってはとてもとても熱い7月を過ごしましょう!
(杉村 啓)