その時代もニートはいただろう。ただ、堂々とニートが許されたのは金持ちの家のドラ息子とか、そういう人に限られていた。ましてや、ニートが「ニートになるためには」なんて本を出すことなんて、なかったと思う。
これから紹介する本『ニートの歩き方』は、コンピューターとかインターネットが好きな人が集まって暮らすシェアハウス「ギークハウス」を作って、適当に暮らしているphaさんという人が書いた。できるだけ働きたくないという彼が、仕事や生き方について考えながら、ニートという生き方を説明していくような本だ。
読んだ印象としては、本書はニートになりたい人のためだけにある本ではない。次の2つの選択肢を読んで、ちょっとでも何か思うことがあるなら、十分本書のターゲットだと思う。
(A)20歳から60歳まで色んなこと我慢しながら会社員をして、60歳から80歳まで本当にやりたかった生活を送る。
(B)20歳から適当に行き詰まるまで、最低限の仕事をしながらやりたい生活を送る。
僕は、どっちがいいか?なんて問わない。逆に、「明確にどちらがいいかなんて言えるか?」ということだ。日本の四年制大学卒の人は、特に考えもなく(A)を選ぶ人が多いが、別に生き方なんて、人それぞれ好き勝手自由で良いはずだ。
前述(A)の生き方は元々、高度経済成長が前提の、「働かなきゃソン」という価値観がベースに生まれたものだ。基本給が上がっていき、家や土地の価格も上がっていくから、早めに稼いで早めに所有してウハウハっていうモデルだ。これを、経済成長前提なしでやるのは、かなりエクストリームな趣味に見える。
高齢状態、体力もなく歯も悪い、おまけに買ったマンションはボロボロで価値も下がってるかもしれない。好きでそれをやるのは否定しないけど、かなり不確定要素に運を任せた生き方だという見方もできる。なにせ、大体の場合、常に就職先一社提供のスポンサーで進んでいかなきゃいけない。一方(B)は場当たり的で来年ダメになるかもしれないが、本人がコントロールできる要素が多いようにも見える。
一般の人がニートに抱く、一番特徴的なイメージは「怠け者のクズ」で、間違いないだろう。だけどそれは、仕事に直接関係なくても「磨くと人生が豊かに楽しくなる能力」があるってこととかを無視して、
働くこと=頑張ること=前向きに生きる唯一の手段
というような感覚をみんなが持ちすぎていることが生み出したイメージだと思う。phaさんはこういったことに息苦しさを感じて、積極的に「だるい」と発言し、ツイッターでも書きまくっている。だるすぎて「D」としか書かないときもあるぐらいだ。
ニートというのは定義が難しい。
「「フリーライターやってるけど月収五万円くらいで全然食えない」って言ったらダメっぽい感じがするけど、全く同じ状況を説明するのに「ニートだけどたまに文章書いてて月に五万稼いでる」って言ったらすごいような気がする。」
まさにそうだ。「文章書いてお金もらおうとする人はニートじゃない」って言うかもしれない。でも、それはニートを「究極の怠け者」に定義して、それ以外の人を全て「非ニート」に定義しているにすぎない。
「頑張る」と「頑張らない」があって、月曜日から金曜日、毎朝起きて8時間とかそれ以上働くのが「頑張る」で、常時全く何もする気力がないのが「頑張らない」だとしたら、多くのニートはそのどちらでもないだろう。
昼過ぎに30分だけ何かしてお金がもらえるならやりたいと思うニートも多いだろうし、週2で無断欠勤無断遅刻オッケーなら是非働きたい、なんてニートも多いだろう。フリーランスの世界で仕事をしている人には、こういう人が少なくない。
そういう多種多様なやる気がどんどん認められて、フリーランス以外にも、フリーターや、アフィリエイトやオークションで稼いでる人も、どんな感じでも自由勝手にやって、そういう生き方がもっと普通に認められる。そして正社員やニートやバイトを、みんな自由に気軽に行ったり来たりできるようになったらいいのに、というのが「だるい」に込められているように僕は思えたし、本書にはそういう「フルタイム労働だけがまともだと思われる世界だるい」という人のために様々な指南が書かれている。
ネットで小銭を稼ぐ方法、ダメになりそうになったときに頼る福祉制度、ニート的な生き方のデメリット、ニート的な生き方にも必要とされる志、そして、いかに人間関係のネットワークが大切かといったようなことについてが書かれている。
合気道では、自分より強い人に腕をつかまれたとき、抵抗するよりも自分の位置をズラして「自分が楽で相手が力が出せなくなるような位置関係」に動く方がいい感じに戦えるという考え方があるらしい。phaさんはそういう「楽な位置に動く」を実践し、できるだけきつくなくて楽しい生き方とネットワークを作り、自分を良い状態に置いて、だるくないときに文章を書いたりプログラムを作ったりしているようだ。
もちろん全ての人がこれを希望して実践できるわけではないが、こういう人がこういう順序でこういうことをやると、今の日本でもこんなに自由な発想と生き方が可能になるのだ、ということがかなりリアルに伝わってくる本だ。平易な文章で、細かいパラグラフに分かれているので読むのもだるくなく、参考になる本やおすすめの本が様々な観点から紹介されていて、広がりがあるのも良いところだ。
ニートをバッシングしてる、不幸せそうな会社員
ゾンビみたいで主体性の無い学生
ああだこうだ言うけど、別段何か行動してるわけではない意識の高い人
やけに自分の正義を他人に押し付ける人
世界観が狭く、結婚して子どもつくって家建てるのが当たり前だと思ってる人
そういう人を見て微妙な気持ちになる人には、より一層おすすめです。(香山哲)