NHK総合のドラマ10(金曜よる10時〜)で放送されてきた「昭和元禄落語心中」が、先週金曜(12月14日)、最終回を迎えた。

第7回で、八代目有楽亭八雲(岡田将生)の回想という形で描かれた二代目有楽亭助六(山崎育三郎)と芸者のみよ吉(大政絢)の心中をめぐり、最終回前の第9話に来て疑惑が浮上した。
八雲は、二人は偶発的に死んだものと語っていたが、助六とみよ吉の一人娘である小夏(成海璃子)はそこに嘘があると勘づいたのだ。
最終回「昭和元禄落語心中」竜星涼「こんないいもんがなくなるわけはねえんです」落語愛を語った
助六とみよ吉の死の真相があきらかにされた『昭和元禄落語心中』第8巻。ドラマとの違いに注目

原作とは違った「心中の真相」


最終回の冒頭、小夏は、夫で八雲の弟子の与太郎(三代目助六。竜星涼)とともに、かつて八雲(当時は菊比古)と二代目助六が四国の旅館で催した落語会のフィルムを見て、それまでずっと忘れていたその夜のことを思い出す。

落語会を終えた先代助六を、みよ吉がはずみで刺してしまった。そこへ、幼い小夏(子役・庄野凛)が松田(篠井英介)に連れられて部屋に来る。血だらけになった助六を見た小夏は、母がやったのだと気づくや、「父ちゃんを返せ!」とみよ吉を窓から突き落したのだ。だが、その母を追って、父も窓の下へ飛び降りてしまう。

母を殺したのは小夏だった。本人はそのことを忘れてしまい、八雲も彼女がそれを知って傷つかないよう、嘘をついたのだ──。小夏はそう思いこんで、八雲を問いただした。だが、彼の答えはまったく意外なものだった。

じつは小夏もみよ吉と窓から転落していた(本人は気を失っていたのでその記憶がない)。それを追って助六も外へ飛び出し、妻子を抱きかかえた。
その助六の腕を部屋に残された八雲がとっさにつかんでかろうじてつなぎとめるも、このままでは八雲も投げ出されてしまう。そこで助六とみよ吉は小夏を八雲に託すと、彼の手を放してそのまま夫婦もろとも下へ落ちていったのだった。

じつは、ドラマで描かれた助六とみよ吉の死の真相は、原作(第8巻に出てくる)から大きく変わっている。原作で描かれるのは小夏がみよ吉を突き落したところまでで、その事実は、彼女が傷つかないよう最後まで本人には知らされない(その真相も八雲からではなく、松田から与太郎に話すという形で描かれた)。

それをドラマはさらにもうひとひねりくわえることで、八雲から小夏に直接伝えるという形をとった。しかも、最期にみよ吉が叫んだ「私はいい、この子だけは助けて!」という言葉が、前回、第9話で小夏が難産で母子ともに命が危ぶまれたときに思わず叫んだ言葉と重ね合わせられる。先のレビューで指摘したとおり、小夏の出産はドラマ独自のシーンだったが、それをみよ吉たちの死の真相と絡めてきたのにはうならされた。これによって、いままで母親は自分を嫌っていたという小夏の誤解が解けたのだから。

八代目八雲の死、そして与太郎の九代目襲名


小夏は両親の死についての誤解から、八雲に対してもずっと恨みを抱いていたが、彼の告白により、わだかまりが消えた。そして両親の死後、自分を八雲がこれまで育ててくれたことに感謝を伝える。それは春、桜の咲くなか、縁側でのことだった。このとき、小夏は八雲に弟子入りを申し出る。それまで女が落語家になることを頑なに認めなかった八雲だが、初めてそれを受け入れた。


このあと八雲は目をつぶり、光が降り注いだかと思うと暗転。彼が再び目を開けるとそこは昔のままの寄席の高座だった。八雲もまた若い頃の姿に戻っている。そこへ助六とみよ吉が現れると、三人一緒に彼岸へと旅立つ。

それから一気に16年の歳月が流れる。与太郎は三代目助六からさらに九代目八雲を襲名。同時に、父に入門していた息子の信之助(和田崇太郎)も、二つ目昇進にあわせて八代目八雲が若い頃に名乗った菊比古を襲名した。このとき与太郎は、すでに50代後半〜60代ぐらいだろうか。明るい性格は変わらないものの、すっかり名人として貫録を身につけていた。岡田将生にしてもそうだが、竜星涼も年代ごとにしっかり演じ分けしていて感服する。

襲名披露の行なわれた寄席には、与太郎ゆかりの人たちが集まっていた。すっかり老けた松田さん、寄席の席亭(俵木藤汰)、受付のイネ(宍戸美和公)とアキコ(しるさ)。
与太郎が小夏とのあいだに儲けた娘の小夏(高橋奈々)も高校生になっていた。ロビーでは、女性初の真打となった小夏が、みよ吉と芸者仲間だったお栄(酒井美紀)と一緒にタバコを吸いながら話し込んでいる。そこでお栄が、信之助が誰の子なのかあらためて訊くと、小夏は「どうなんでしょうね?」とすっとぼけた(これについて原作では正解めいたことが描かれるのだが、ドラマはあくまで謎のまま終わらせた)。

落語がみなしごたちを受け入れてくれた


襲名披露の高座で、九代目八雲となった与太郎は客に向かってこう語りかけた。
「おいらは落語がなくなるなんざ、いっぺんも考えたことがねえんです。だってね、みなさん。こんないいもんがなくなるわけはねえんですよね!」

振り返ってみれば、「昭和元禄落語心中」に登場する人物は、八雲と助六といい、そして与太郎と小夏といい、みな親に捨てられたか、子供の時分に亡くしている。そんな彼らを受け入れ、世間とつなぎとめてくれたのが唯一、落語だったともいえる。与太郎は真打昇進とともに、小夏をお腹の子供とともに迎え入れ、師匠と松田さんも一緒に家族となった。血縁によらない家族といえるが、そこでもつないでいたのは落語ということになる。

本作のなかで、二代目助六は落語を捨てて、家族のためにまっとうな勤め人になろうとして果たせなかった。一方で、八代目八雲は、落語と文字どおり心中しようとするが(最終回で死神にそそのかされて旧寄席に火をつけて死のうとした)、家族の存在がそれを引き止める。
助六と八雲のなかでは、常に落語と家族が対立してきたと見るなら、与太郎はその二つを融合させ、家族の力で風前のともしびにあった落語を救ったことになる。先の襲名披露での彼のセリフは、落語は心中するもんじゃない、仲良くするもんだと言っているかのようである。
(近藤正高)

※「昭和元禄落語心中」はNHKオンデマンドで配信中
【原作】雲田はるこ『昭和元禄落語心中』(講談社)
【脚本】羽原大介
【音楽】松村崇継
【主題歌】ゆず「マボロシ」
【落語監修】柳家喬太郎(ドラマ中にも木村屋彦兵衛役で出演)
【落語指導】柳亭左龍
【出演】岡田将生、山崎育三郎、竜星涼、成海璃子、大政絢、川久保拓司、篠井英介、酒井美紀、平田満ほか
【制作統括】藤尾隆(テレパック)、小林大児(NHKエンタープライズ)、出水有三(NHK)
【演出】タナダユキ、清弘誠、小林達夫
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK テレパック
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