12月15日、『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』(日本テレビ系)の第10話が放送された。
最終回「ドロ刑」虹を見て姿を消した遠藤憲一2通りの解釈、続編の「匂い」
ドラマ「ドロ刑 -警視庁捜査三課-」 オリジナル・サウンドトラック/バップ

予定調和な勧善懲悪でありながら、どんでん返しの連続。
巧みな脚本は最終話で一際の冴えを見せる。このドラマで感動を味わうとは夢にも思わなかった。

斑目に亡き息子を見ていた煙鴉


煙鴉(遠藤憲一)の正体は、「虹の見える丘公園」分譲地を購入したある家族の父親・北岡たけし。ここは工場跡地で、分譲前にあった化学工場の残留物質で汚染された土地でもある。そのせいで息子を亡くし、事件の情報を得るために泥棒となったのが彼の本当の姿だ。
20年前、小児がんで他界した当時6歳の息子。斑目勉(中島健人)の現在の年齢は25歳。煙鴉が斑目に亡き息子を見ていたのは明らかである。

この関係性だけで全てが腑に落ちる。13係に盗聴が仕掛けられたと察し、一芝居打って煙鴉をおびき寄せた斑目。「徹底的に泥棒の気持ちになれ」の教えを自分のものとしたからだ。

斑目 ケムさんの言う通り、やる時はやるでしょ、僕ら?
煙鴉 ……(笑)

煙鴉の笑顔。自分の上を行く息子に「成長したな」と噛み締める、そんな顔だ。


逃走する煙鴉。追う斑目。立ち止まる煙鴉。銃を向け合う2人。
「証拠は全て揃った。泥棒の仕事はここまでだ」
刑事に銃を向ける者が吐くような台詞ではない。
「撃て、斑目。それがお前の仕事だろう」

2人に追いついた皇子山隆俊(中村倫也)が、煙鴉に銃を向ける。しかしだ。険しい顔つきながら彼の右手に注目すると、銃のトリガーに指が掛かっていないことがわかる。構えているだけなのだ。皇子山の警告は威嚇を目的にしている。

撃つ気のない煙鴉。撃つ気のない皇子山。ただ一人、斑目だけはトリガーに指を掛けている。全身を震わせる斑目は、煙鴉を狙う同僚・皇子山に銃口を向けた。
「まだらめぇ──っ! お前が撃つのは俺だろう!!」(煙鴉)

皇子山は煙鴉を、煙鴉は斑目を、斑目は皇子山に銃口を向ける。悲しすぎる三つ巴の構図。特に斑目は全身を震わせており、いつ皇子山に発砲してもおかしくない。
煙鴉は斑目から皇子山に銃口の向きを変えた。斑目は反射的に、煙鴉の体を撃った。斑目をかばうため、自分を撃たせるよう煙鴉は自らで動いた。射撃訓練で全く命中しない斑目の弾は、煙鴉の腹部を捉えた。

崩れ落ちる煙鴉は、心配して駆け寄る斑目に手錠を掛けるよう促す。
調べると煙鴉の銃に弾は入っていなかった。「泥棒の仕事はここまでだ」と口にしていた煙鴉。彼は新聞記者の近藤にこう伝えていた。
「言ってたよ。『若いのに託したんだ』って」
事件の証拠を全て揃えた煙鴉は自ら斑目に逮捕されることを望み、残りを13係に託した。

鯨岡の意志


煙鴉が集めた証拠は係長・鯨岡千里(稲森いずみ)の手に渡った。出世しか頭になさそうな彼女に揉み消されるかと思いきや、鯨岡は煙鴉の理解者だった。煙鴉の妻は鯨岡の親友。近藤を通じて煙鴉が集めた証拠はマスコミに公表され、不正は白日の下に晒された。煙鴉の目的が、20年の年月を経てついに達成されたのだ。
13係が発足した頃、鯨岡は一人浮いていた。彼女のハイテンションな明るさに違和感を覚えたものだが、「このメンバーで腐敗を暴くのだ。煙鴉を後押しし、親友の無念を晴らす」という決意の表れだったと、今になるとわかる。


不正が知られ、立ち去る警視総監(本田博太郎)に斑目は駆け寄り、言い放つ。
「警視総監! ……警察、ナメんなよ」
会見の様子をテレビで観ていた宝塚瑤子(江口のりこ)は「パクりよった、ウチの台詞やんか!」と激昂だ。煙鴉だけでなく、鯨岡が集めた13係の先輩たちから影響を受け、斑目は成長していたということ。

一方、皇子山の妹・真里(真魚)が自死だったことも明らかになった。ギルバート記念病院の不正に関するデータ改ざんの担当者に指名されたのは真里。不正に加担する自分に心を痛め、飛び降りようとする真里を救うため、煙鴉は手を差し伸べた。その時、煙鴉の手の皮膚片が真里の爪の間に食い込んだのだ。

皇子山 じゃあ、なぜそれを話さなかった、俺に?
斑目 自殺したからじゃないですか、ケムさんの奥さんも。親しい人を自殺で亡くした人って、ずっと自分を責め続けるんでしょ? 「どうして気付いてやれなかった」って。それわかってたから、ちゃんと誰かを恨めるようにその役を買って出たんじゃないでしょうか。

裏が見え隠れする怪しげな人物は皆、正義だった。いなくなったのは本当の悪人だけである。


煙鴉はどこへ消えたのか


病室にいる煙鴉を見舞う斑目。
「刑期、短くなるといいですね。出てきたら、また色々教えてください」
その時、道に迷う鯨岡の声が聞こえ、斑目は病室を出て鯨岡を迎えに行った。

ふと窓を見た煙鴉は、表情を一変させる。窓の外に虹が見える。斑目と鯨岡が病室に戻ると、すでに煙鴉の姿はなかった。

エンディングとして、2通りの解釈ができる。
(1)退院し、服役する前に煙鴉は逃亡。直後、煙鴉の泥棒らしい行動に斑目は笑顔をこぼす。BGMに流れた主題歌「カラクリだらけのテンダネス」のこの瞬間の歌詞は「今宵も消える」だった。

筆者が推すのは、もう一つの解釈だ。
(2)目的を達成した煙鴉は虹を見た。
妻と息子と虹を掴もうとしていた煙鴉。麻酔で朦朧とする幻覚の中、家族3人で虹を見れた煙鴉は喜んだ。天国の嫁と息子とまた虹を見るため、誰もいない隙に煙鴉は家族の元へ逝ってしまった。


漫画を原作とするドラマは数多い。しかし、原作とストーリーがこんなにもかけ離れたドラマは無かったように思う。あまりにもなコメディタッチに戸惑うこともあったが、切なさで駆け抜けた終盤(9話以降)はそれまでのイメージを覆す内容。これも、一つのどんでん返しだったように思う。

番組終了後、ドラマの公式アカウントは「これにて、ひとまずドラマ『ドロ刑』は終了です!!」とツイートしている。
「ひとまず」とはどういうことか? 「ドラマ『ドロ刑』は終了」という言い方の意図は? ひとまずドラマは終了で、ドラマ以外の続編があるということ?

煙鴉のように次なる展開への“匂い”を少しだけ残し、『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』は幕を閉じた。
(寺西ジャジューカ)

『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』
原作:福田秀「ドロ刑」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
脚本:林宏司
主題歌:Sexy Zone 「カラクリだらけのテンダネス」(ポニーキャニオン)
音楽:木村秀彬
演出:大谷太郎、中島悟、高橋朋広
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:能勢荘志、次屋尚、関川友理
制作協力:The icon
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中
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