ドイツの国道などを走行すると、戦車やトラックが描かれた、黄色地に黒の交通標識が道ばたに立つのを見かけることがあります。黒で描かれた戦車やトラックの傍らには、50、80、100という数字、さらに矢印も併記されているので、一見すると戦車向けの制限速度を表示する標識のようにも見えますが? それにしても、いまどき一般道で戦車とすれ違うことなんてありえないし……。


調べてみると、これは軍事車両を対象にした交通標識で、かつて冷戦時代に設置されたものだそう。描かれているトラックは軍事輸送車両を指しており、制限速度だろうとすっかり勘違いしてしまった数字は、各車両の重量クラスを表すものでした。たとえば、50という数字が書かれていれば、重量はおよそ50トン、100ならおよそ100トン(車両タイプによって重量は多少上下する)という具合です。

実はこの標識、橋の手前に設置されているという点がポイント。「目の前に架かっている橋が耐えうる、軍事車両の総重量」を明示する標識だからです。本日の画像上のふたつの標識のうち、上の方の標識を例にとると、「軍事輸送車がこの橋を通行する場合、総重量およそ90トンの輸送車なら1台のみ、両方向から走行する場合は、およそ50トンの輸送車2台までが、同時にすれ違い走行可能できますよ」という意味です。一方向から2台以上が連なって走行する場合、橋を渡る際の最低車間距離も決められているのだそうです。

それにしても、規模の大きい陸橋ならまだしも、この標識が立っていることによって、「おや、こんなところに橋があったのか」と、橋の存在を初めて認識するような、わずか数メートルしかないようなミニミニ橋の前でさえも、この標識がもれなく設置されているところは、何事もきっちり主義のドイツ人だからこそ成せる業かも。

もっとも、冷戦時代に設置されたというこの標識も、近年ではドイツ連邦国防省によって、徐々に撤去作業が進んでいるとのこと。こんな標識は、ドイツお家芸のリサイクルにまわして、平和をアピールする標識に生まれ変わってもらいたいと願います。
(柴山香)
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