そんな大使館をめぐるツアーを企画した会社がある。
ただし場所が場所だけに、タクシーを降りて館内を見学することはできない。どこまで撮影がOKなのか事前に確認したところ、「アメリカ大使館や国会議事堂は警備が厳しいかもしれません。最悪の場合、拘束される可能性があります」との返事が。
大使館で拘束されるとはおだやかではない。長いライター人生、「大使館で拘束された」という経験もしておいて損はないかも……、などと良からぬ考えが頭をよぎった。しかし、取材ができないのは困る。無茶なことはやめておこう。
「G7大使館ツアー」で巡る7か所 Google Map
ドイツ、フランス大使館はいずれも南麻布
まず向かったのはドイツ大使館。住所は東京都港区南麻布4-5-10で、南部坂を上ったところにある。南部坂の名称は江戸時代に奥州・南部藩の屋敷があったことに由来し、大使館の前には有栖川宮記念公園がある。
続いてフランス大使館。
ちなみにフランス大使館はセキュリティーが厳しく、ただ外観を撮影していただけで「何をしているんですか?」と警備員から声を掛けられた。
赤穂浪士が自害した庭が大使館内に
イタリア大使館は東京都港区三田2-5-4にある。
ここはかつて松平隠岐守の中屋敷跡であった。そして、ある有名な歴史的事件が起きた場所でもある。その事件とは「忠臣蔵」。
赤穂義士47名のうち、10名がこの庭で自害したのだ。切腹が行なわれた場所には、後に日本語およびイタリア語で刻まれた「記念碑」が建立され、毎年スタッフが慰霊祭を行っているという。
(イタリア大使館ホームページより)
次はアメリカ大使館へ向かう。住所は東京都港区赤坂1-10- 5。
ところで、大使館にはどのような役割があるのだろうか。大使館は自国を代表して相手国政府との交渉や連絡などの外交活動を行っている。
大使館の敷地内はいわば設置国の領土となり、その国の法律が適用される。「亡命者が大使館に逃げ込んだ」というニュースをたびたび目にするのは、そういった制度によるものだ。
港区に大使館が多い理由とは?
カナダ大使館は東京都港区赤坂 7-3-38にある。カナダは1976年のプエルトリコ・サミットからG7に参加している。
「あれ、そもそもG7じゃなくてG8じゃなかったっけ?」と思った人もいるだろう。実はかつて、ロシアも含めた8か国(G8)の時期もあったのだ。しかし、ウクライナに対する軍事介入などを理由にロシアは参加停止。そのため2014年以降は事実上「G7」サミットとなっている。
次はイギリス大使館。住所は東京都千代田区一番町1で、千鳥ヶ淵公園の東側にある。
……と、ここまで読んで気づいた方がいるかもしれない。イギリス大使館以外はすべて、住所が「港区」なのだ。
港区は大使館がもっとも多い自治体で、平成26年8月の時点で82もある。いったいなぜ港区に大使館が多いのか。一説によると、江戸時代に多くの大名屋敷があったことに関係しているそうだ。
開国後、明治政府は国交を結んだ国に大名屋敷の跡地を提供した。日本に往来する交通手段が海運しかなかった当時、自国と東京との連絡に不可欠だった横浜港への道筋にある便利な土地が港区だったのだ。その上、日本の政府機関へもアクセスが容易な地域であったことから、港区に大使館を置く国が増えた、とのこと。
(港区ホームページより)
予約なしで見学できる「国会議事堂」
最後に訪れたのは、国会議事堂。テレビでよく見る光景である。正門前には警備員、そしてパトカーも停車している。
正面からぐるっとまわった裏側には見学(参観)の入口があり、衆議院と参議院に分かれている。筆者もはじめて知ったのだが、見学は事前予約なしでOK(10名以上の団体は事前予約必要)、しかも入場無料。ただし内部の撮影は、決められた場所のみとなっている。
取材時は平日昼間だったが、「見学できますか?」と訪れる人もちらほら。係の人に聞いたところ「いまは夏休み中なので、親子連れが多いですね。秋になると修学旅行生が多くなります。1日1万人以上の生徒さんが来られるときもありますよ」と話していた。
最後のゴールは東京駅。実際のツアーでは、有楽町駅・新橋駅・東京駅の中から降りる場所を選ぶことができる。
今回参加した「G7大使館ツアー」は、下記のページから申し込みができる。なお、プラス1,000円(税込)のオプション料金を払えば、ドライバーを「SP風タクシー」「忍者でタクシー」に変更することも可能だ。
日本国内にありながら、意外に知らない「大使館」。歴史的・社会的エピソードを交えながら約90分で巡るタクシーツアーで新たな発見があるかもしれない。
G7大使館ツアー
https://www.sanwakoutsu.co.jp/special/vol_013.html
取材協力 : 三和交通株式会社
https://www.sanwakoutsu.co.jp/
(村中貴士/イベニア)