その日、NHK教育の番組「視点・論点」に出演した秋元康は「運のつかまえ方」というテーマで10分間語った。それによれば秋元は、何かプロジェクトを立ち上げる際には、集まったスタッフや芸能人志望者にじゃんけんをさせているという。
それによって、勝負をあきらめないかそうでないかかがわかるというのだ。

ここで秋元は、先に5勝したほうが勝ちとした場合を例にこんな話をした。いわく、じゃんけんをして最初に相手に3勝されて「ああ、あと2敗したら負けてしまうんだ」と思う人は3回、いや2回でも負けたところであきらめモードになってしまう。ところが、「自分はじゃんけんが強いんだ、運が強いんだ」と思う人は、相手が先に4回勝ってもそのあと自分がストレートで5回勝てるんじゃないかという気がする。だから勝負を投げることがない、あきらめることがない――。

わたしたちは、じゃんけんに勝てるのは運があるからだと思いがちだが、じつは逆で、運があると「思える」からじゃんけんに勝てるのだと、そう秋元は言うわけである。
ここから彼はさらに、自分が放送作家、作詞家として芸能界を見続けてきた経験を踏まえて次のように語っていた。

「運なんて本当はみんな平等(にあるの)だと思うんですね。ただ自分は運があると思いこめるか、自分はその運に乗れるんだということを思えるか、そこじゃないかと思います。だからそれぞれチャンスの順番があるんですね」
「その順番で人はくやしい思いをしたり、あるいは成功してよかったと思う。でも必ずみんなチャンスの順番はめぐってくる。ですから、そのチャンスの順番を待つ、必ず自分には運がめぐってくるんだと思えるかどうか、それを持ってる方が芸能界でもスターになるわけですね。
つまり途中であきらめてしまったら、そこでその願いは途切れてしまうわけです」


ここに登場する「チャンスの順番」は、秋元が総合プロデューサーを務めるAKB48のシングル曲のタイトルにもなっている。一昨年、2010年に初めて開催された同グループのじゃんけん大会で勝ち抜いたメンバーたちのために書かれた曲だ。

じゃんけん大会はその後毎年恒例の行事となり、今年もまた、前出の「視点・論点」が放送されたのと同じくきのう、9月18日に日本武道館で開催された。参加したのはAKB48の正規メンバー全員(ただし舞台出演を来月に控えた増田有華は出場を辞退)に、同研究生および姉妹グループである名古屋のSKE48、大阪のNMB48、福岡のHKT48から予選を勝ち抜いたメンバーを加えた総勢85名。このなかからトーナメントを勝ち上がったメンバー16名が、AKBの29枚目のシングル曲を歌うことができるというわけだ(シングル曲を歌うメンバーをAKBでは「選抜メンバー」と呼ぶ。じゃんけん大会やファン投票による選抜総選挙を除けば秋元をはじめスタッフがこのメンバーを選んでいる)。


今年で3回目を数えるじゃんけん大会だが、直前にはAKB48初の東京ドームでのコンサート、前田敦子の卒業公演と大きなイベントがあいついだだけに、どうもいまひとつ自分のなかで盛りあがらない……と思っていたのだが、いざ数日前になって公式ガイドブックを入手し、出場メンバーたちが意気込みを語っているのを読んでいるとがぜん楽しみになってきた。

ただ残念なことに今年は、昨年の大会では全国の映画館で行なわれたライブビューイングがないと早くからアナウンスされていたうえ、これまで選抜総選挙や前田敦子卒業公演などで実施されたウェブでの中継もないという。TBSテレビの「火曜曲!」では約3時間の特番のなかで中継が予定されていたものの、開演が17時半なのに放送は19時から……となると、会場に行けない地方民のわたしは1時間半、どうやって試合のゆくえを追えばいいのだ!?

そんなわたしの味方になってくれたのが、AKB48の公式モバイルサイトだった。今回のじゃんけん大会の試合速報を、終始リアルタイムで送り続けたメディアはおそらくここだけだったのではないか。おかげでテレビ中継されなかった試合も含め逐一、どのメンバーが勝ち抜けたのかチェックすることができた。

今回のじゃんけん大会、みどころはたくさんあった。
たとえばAKBの主要メンバーながら過去2回の大会では1勝もできなかった板野友美は、今回初めてじゃんけん選抜入りを果たしている。公式ガイドブックで「いつも運がいいなーってことばかり。前向きだからか、不運に感じたことがないんです」と語った板野は、まさに秋元康のあげるスターの条件を備えている。そんな彼女の「自分は運がいい」という思いこみの強さは今回、じゃんけんでも発揮されたようだ。

昨年のじゃんけん大会での選抜メンバーのうち今年も残ったのは、篠田麻里子・梅田彩佳・前田亜美の3人だけ(前田は3年連続のじゃんけん選抜入り)。昨年の覇者・篠田がベスト8まで残り、終演後の舞台裏での順位(5~8位)決定戦では全勝し5位に確定したのはさすがである。


惜しかったのは、過去2回のじゃんけん選抜を含めAKBではインディーズ時代以来、全シングルで選抜入りしてきた小嶋陽菜が、3回戦で梅田彩佳に敗れ選抜入りを逃したことだ。2回戦まで一昨年と昨年と同じくげんをかついで赤いドレスで試合にのぞんだ小嶋だが、3回戦では現在主演を務めるドラマ「メグたんって魔法つかえるの?」の衣装で登場した。TBSの中継で日本テレビのドラマの衣装という時点ですでに掟破りだが、試合後、「私が負けた記憶を消したいと思います」とパンチラまで披露する(これもドラマのなかでのお約束。ただし穿いていたのは見せパンであったが)という、ステマかと疑いたくなるほどのサプライズまで用意されていた。

今回のじゃんけん選抜のうち前出の板野や篠田、あるいは横山由依はシングル選抜メンバーの常連だが、中田ちさとのようにAKB在籍5年にして初めて選抜入りした者もいれば、久々の選抜入りを果たした“復活組”もいる。そのひとり松原夏海は、去る6月のAKB48選抜総選挙ではランク外となり、終演後泣きそうな表情で会場をあとにした。
それが今回ではレーシングスーツを身にまとい颯爽と登場、4回戦で中村麻里子に敗れたとはいえベスト8まで残り、終始笑顔であった。彼女にとってはじつに4年ぶりの選抜入りということになる。

もうひとり、内田眞由美は一昨年の第1回じゃんけん大会で優勝して以来の選抜入りとなった。各メンバーがおのおので選んだ衣装で競い合うじゃんけん大会にあって、内田の“岩”の衣装(もともとはひかりTVのコント番組「びみょ~」で着たものだという)はひときわ目を惹いた。終演後、この衣装のままTBSのスタジオに移動しての生放送では、司会の中居正広からいじられかなりおいしいポジションであった。

AKBの姉妹グループから今回選抜入りを果たしたのは、SKE48の木本花音と上野圭澄だけだった。予選もあわせて考えると、彼女たちこそ最強の運の持ち主だったともいえる。木本は3回戦で同じSKEのチームEに所属する高木由麻奈と対戦した。結果は木本がグーを出し一発で勝利を決めている。

今年のじゃんけん大会はこの試合にかぎらず一発で試合が決まることが多く、準々決勝から決勝までは一切あいこがなかった。昨年の大会であいこが目立ったのとは対照的だ。優勝した島崎遥香と準優勝の仁藤萌乃は試合終了後、同じ手(島崎はチョキ、仁藤はパー)を出し続けていたことを明かしていたが、それはやはり絶対に勝てるという自信がなければできないことだろう。

新世代エースとの呼び声の高い島崎が優勝したことで、今年のじゃんけん大会は、前田敦子卒業後のAKB48のゆくえを予感させる大会となった……ということもできる。もうひとつ特筆すべきは、今回の選抜メンバーに島崎ほか阿部マリア・竹内美宥・中村麻里子と4人もAKB48のチーム4のメンバーが入ったことだ。チーム4は昨年新設されたものの、先月の東京ドームコンサートの初日での「組閣発表」で、AKBが現行の4チーム体制から以前の3チーム体制へと戻ることになったため廃止、現在のメンバーはA・K・Bの各チームに移籍することになった(くわしい日程は未定)。そこへ来て今回、チーム4のメンバーたちが好成績を収めた。今年のじゃんけん大会は、最後の最後でチーム4が“運に乗った”大会としてのちのちまで記憶されることになるのではないだろうか。

もっとも個人的には、本大会はSKE48の佐藤聖羅(1回戦敗退)がビキニ姿で惜しげもなくナイスボディをさらした大会として記憶に残りそうだ。できればこの姿をテレビ、いや映画館の大きなスクリーンで拝みたかったものですなあ。(近藤正高)