プリキュアシリーズでは恒例になっている「ボーカルアルバム」。
お2人に、アルバム曲や思い入れのある曲についてどんどんうかがいました。
■キュアラブリー? キュアプリンセス?
───お2人は、アルバム曲もたくさん作っていらっしゃいますね。キャララクターソングはファンの夏の楽しみになっています。
只野 今回、私はキュアラブリーの担当なんです。なんとなく、キュアプリンセスかなと思ってました。
青木 そうよね、ところがプリンセスは私に来たのよ。
───たしかに、イメージとしては逆かもしれません。
青木 プリンセスはお嬢様だから、それをどうプリキュアにしていくかが面白い。お姫様気質が嫌味にならないように持っていくのが工夫のしどころ。プリンセスの未来、成長の兆しが見えるように書けたらいいなと思ってますね。
───それも意外。六ツ見さんもまた、「Alright! ハートキャッチプリキュア!」「ラ♪ラ♪ラ♪スイートプリキュア♪」「Let's go!スマイルプリキュア!」などの「プリキュア」主題歌を担当されてます。
青木 そう、「しあわせごはん愛のうた」も書いてるしキュアハニーかな? と(笑)。でもどんなキャラでもどうすればプリキュアの歌になるかってひねりが必要で面白い。悪役の主張に共鳴できるわけじゃないけど「そういう理屈もあるのかー」ってどこかヘリクツでも筋が通ればいいかも。
───アルバムを聞くことで、キャラやキャラに対する考え方が広がっていく感じがします。
只野 「みんなで海辺にいって、スイカ割りしました」みたいなTVでのお話があったとして、あらすじをそのまま書いただけの、ダメダメ宿題感想文みたいな歌では面白くないと思うんです。本編のストーリーには出てきていないけど、ありありと見えてくるような歌でないと。
■かれんのキャラをふくらませた「Heavenly Blue」
青木 「5」のアルバムも思い出深いですね。
───「5」のアルバム1作目では、水無月かれん(キュアアクア)のキャラソングを作詞。
青木 かれんちゃんは、生徒会長で大人しい、プリキュアとしては地味になりがちなんです。
───「ずっとよりかかれる肩が欲しかった」という歌詞は意外でしたが、同時にとても納得しました。かれんちゃんってそういう子なんだ、と。
青木 優等生でも、みんなに頼られてても、そういう側面だけじゃない。甘えたいときだってある。その人の長所があるからその人を好きになるわけでもない。誰しも持っている短所を、共鳴できるようなものとして描くと、キャラクターのふくらみが出てくると思うんですね。アルバムでは、弱さや影ともとれる側面を出していくってことが、人物のふくらみになっていく。
只野 キャラクターへの理解度が上がっていくにつれて、詞の自由度も上がって、いろいろ遊びの部分も膨らんでいく気がします。
青木 ひとつのキャラクターの曲に、複数の作家が参加するのも楽しい。それで人物像のふくらんでいくのはすごくいいと思う。
只野 「キュアレモネードの前髪はずいぶん短いけど可愛いな」って思ったので、「前髪を切りすぎちゃったけど気に入っています」って歌詞にしたり(「ツイン・テールの魔法」)。キュアパインは黄色いから、 「no believe,no life」っていう、タワレコみたいなタイトルにしたこともありました(笑)。
青木 シリーズの卒業の歌も思い出深いです。「5」の卒業ソング「明日、花咲く。笑顔、咲く。」では、歌入れのときに、三瓶さん(「キュアドリーム」役三瓶由布子)が泣いちゃって歌えなかったことがあって。卒業の先にも人生はあって、プリキュアも、声優さんもここから先のほうが長い。そういうことをちゃんと伝えていきたい。それはやっぱり、声優さんも、時間や関係性の密度があるからこそ共鳴し、私も想像だけではない血の通った歌詞が生まれる。
只野 1年間やらせていただけることの、ありがたさですね。
───キャラソンが声優さんへのメッセージソングになっていることはありますか?
青木 声優さんたちにも、変化の時ってあるんですよね。
───変化の時。
青木 そう。私生活でのいろんなものを乗り越えたり、経験したりすることが、プリキュアのテーマとうまく合致する瞬間がある。「彼女はこういう状態で、こういうふうに脱皮していきたいから」っていろんな情報をいただいて、そこに向けて書くことはあります。もちろんプリキュアの歌なので、接点を見つけて書くんですけど。歌ってるほうも自分のことのように思ってくれたり、ライブで歌い継いでくれたりとか。
■闇を知った上で書く光
青木 大切な身内が病気で亡くなっているんです。「Splash Star」の歌作りのころは闘病中で、仙台と東京を行ったり来たりして看病している中でした。エンディングの「ガンバランスdeダンス」には、病床にいる身内や困難の中にいる人への応援の想いが投影されています。「ポジティブ」と「ネガティブ」の真ん中にいることの大事さとか、太陽を浴びることがどんなに健康的なのかってこと、「肩の力を抜いて「明るくなれたらいいね」ってメッセージを咲ちゃん舞ちゃんのイメージで書きました。
───「頑張る」という言葉と「バランス」がくっつくのが驚きだったのですが、それは青木さんの実感から生まれたものなんですね。
青木 言葉の組み合わせは閃きですが(笑)日常の中での経験から生まれてくることが多いです。「子供の歌は大人じゃないと書けないですよ」とは「5」までのディレクターさんが以前言ってたことば。若い世代の新鮮な表現にも強みがあるけど、平易な言葉で伝えたいことを的確に伝え、耳に残る言葉を選んだり夢や希望を託す子どもの歌は、大人だから書けると仰ってました。
只野 聴いてくださる方が傷つく言葉を使ってはいけない、でも、思わぬ言葉に傷つく方もいる。そういう怖さは常にあります。
青木 少し違うかもしれないけど、ミルキィローズのイメージソングで五條真由美さんが歌った「Rose in rose」は、当時、通り魔事件や命に関して考えさせられる事件があったんです。この曲に、いわば時代に対するメッセージとして何か乗せられないかというディレクターさんからのお話がありました。やりきれなさとか悶々としたものが刃となって出てしまったということを、プリキュアだったらどうするのか? と考えて……。もちろんミルキィローズの曲ということからは外れずに。
───プリキュアを通じたメッセージを。
青木 私たちの想いの中には、生きるという情熱をどう表現していいか解らないもどかしさがあると思うんです。だからその思いをトゲにするのではなく花を咲かせるための時間を、もっと大切にしてほしい。何かの切っ掛け1つで別の景色が広がることもあると。……そういうメッセージをプリキュア風に書きました。歌っている五條真由美さんのライブで以前人気投票をしたら、この「Rose in rose」が一位だったことがあるそうです。そういうときには、表現者として、プリキュアと歌手と聴き手との一体感を感じて充実感はあります。
───ファンの人の心に、しっかり届いているんですね。
青木 落ち込むことも勿論ありますけど、自分の中のドロドロした感情や、弱い部分を見ざるをえない。闇を知らないで書く光と、闇を知ったうえで書く光とはまったく違う。物書きは、すべての経験に表現する場がある。そこに救われてる、癒されてることはありますね。マイナス感情がマイナスのままで終わらないところが作詞家のいいところかもしれません。
(青柳美帆子)
今年の秋の劇場版プリキュア『映画ハピネスチャージプリキュア!人形の国のバレリーナ』情報