ショッピングモールとか、ショッピングセンターと呼ばれる施設。「古き良き日本の景色を、どこもかしこも同じにしていくモンスター」みたいに批判されることが多い。
だけど本当にそんな単純なストーリーで処理できる話だろうか。

日本の商店街を「過酷な自由競争」から守ってきた法的保護を続けるべきだったのか。画一化の原因はどっちかというとモールの中身でもあるチェーン店や、それを愛する僕らの消費スタイルじゃないだろうか。なんかそんなことも考えていきたくなる、ショッピングモール研究の本がある。

数ある郊外研究や都市開発に関する本の中でも、読みやすく面白い1冊、『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』だ。

・まず、ショッピングモールとは何かってことがよくわかる

著者は数々のショッピングモールに関して、その歴史や数々の事例を取り上げながら、都市がショッピングモール化していく「ショッピングモーライゼーション」について書いている。その善悪を断ずるのではなく、事実を並べて掘り下げていく文章が、初めてこのジャンルを読む人間にもやさしい。

ショッピングモールというと日本では、冒頭に書いたようなモンスターのイメージ、どこにでも同じ設計のものがたっていくものを想像しやすいかもしれない。「イオンモール」など大きな通りに沿って店舗が並ぶ「ガレリア式」と言われる建築方式だ。フードコートがあって、家族がにぎやかに買い物を楽しんでいるアレ。

一方ショッピングモールと聞いて、最近の「ターミナル駅や国際観光地と合体した個性的な総合建築物集合体」をイメージする人は少ないかもしれない。お台場、六本木ヒルズ、東京スカイツリーとか。
世界的にはショッピングモールというのはこういうもののことを言い、最近特に増えている。

海外で売られている日本の観光ガイドでは最近、こういう新しいショッピングモールが取り上げられていて、浅草や富士山や神社よりも大きく手前のページにお台場や六本木ヒルズでのショッピングがガイドされており、大人気なのだという。

・ショッピングモールの発生する条件やメカニズムもわかる

自動車が社会に普及すると、その社会では、店舗などの緒施設が郊外へ分散していく。郊外は地価が安いからだ。だが街がボヤーっと分散すると非効率や人々のコミュニケーションの減少が起こる。それも味わいかもしれないが、資本主義は厳しい。そういった街の衰退を防ぐ都市計画の形のひとつが、ショッピングモール化だった。

モールでは一定の敷地の中に都市が凝縮されていて、娯楽やお店、住居などがたっていて、その中では主に徒歩で移動する。こういう密度と引力のある街が、経済的に強く、さびれずに自立していく。そのメカニズムを様々な例を出して解説している部分も本書のメインの一つであり、面白く読ませる。新自由主義的な経済合理性が正しいか正しくないかはともかく、純粋に強く生き残る姿を分析している。

・モールが誕生したアメリカの歴史も、映画とディズニーで説明

さらにモール研究ではかかせない、「日本のそのまま10〜20年先を進んでいる」アメリカの状況も、「カーズ」「シザーハンズ」「ゾンビ」など「ハリウッド映画のさまざまなシーンに登場するショッピングモール」の数々の例をあげて説明しており、アメリカに行ったことなくても、アメリカ人の友達がいなくても、状況をイメージしやすい仕組みになっている。


そして鉄道や街作りに非常に強い関心をもち、ディズニーランド建設後も都市計画について考えていたというウォルト・ディズニーも登場。彼がモール的な都市建造を夢見ていたという話から、いかにモールが都市計画や建築家たちのビジョンと密接に関わっているかを考えていく章もあり、「そこで人々がどう過ごすことを理念としているのか」など、「モールに流れる哲学」も知ることができる。

・そして日本のショッピングモールについて

日本のモールについては、「鉄道をどこにひくか」、「その終点などにどんな施設を置くか」、そういう都市開発の歴史についてから説明している。そして二子玉川、成城学園前、たまプラーザといったさまざまな例をとりあげながら、いかに日本の消費が変わり、モールがそれに応えてきているかが書かれている。百貨店、ディスカウントストア、シネコン、テーマパークなど、戦後の消費のあり方の変容を追っていくと、よくある「駅前再開発」みたいなものに対する理解も深まってきて、実際に自分が遊びや買い物に行く時にも面白くなる。


いまや役所にもスターバックスがテナントとして入る時代。あらゆるものが民営化されていくなかで、「開発」に占める民間の役割が大きくなってきているみたいだ。さまざまな自治体で起こっている開発にまつわる現象を、ショッピングモールという枠でとらえ、考えていく本書。難しい語り一切なし、単にショッピングモールや都市開発に興味があるだけでもサクサク読めるのも楽しい。

新書という体裁でありながら、類書や都市計画に関する古典まで、さまざまな本を紹介してくれているのもいい感じ。都市部、郊外、田舎、どこに住んでる人も是非。(香山哲)
編集部おすすめ