−−今回の本を読んで、まず驚かされたのはミスターのダメっぷりです。みんなのギャラを使い込んでしまうくだりは呆気にとられました。金庫からお金がなくなり、亜由美さんが電話をすると妙に落ち着き払っていておかしい。「とりあえず警察に行ってくるわ」と出て行こうとすると、背後から「すいませんでした!」と鈴井さんの声がしたという……。
鈴井亜由美 (以下、亜由美) ホント、ダメな人ですよね。数十万をススキノで飲んでしまったんですよ。しかも、1回じゃ済まなかった。
−−えっ?
亜由美 懲りない人なんですよね。でも、痕跡が残ってるので、すぐバレる。
−−その尻ぬぐいは亜由美さんが……?
亜由美 いったんは私の定期預金を崩して、みんなにギャラを支払い、翌月からの彼のギャラで順次返済してもらいました。事務所としての収入も潤沢にない状態なのに、社長としての自覚がなさすぎますよね。
−−喧嘩にはならなかったんですか。
亜由美 「このままでは、これ以上一緒に仕事をするのは無理!」とぶちまけたら、「だったらやめようや」と逆ギレされて、一カ月以上口も聞かない状態が続いて……。
−−それはきついですね。
亜由美 もう鈴井とは別れて、劇団を辞めたとしても一人で事務所をやっていこうと思いました。でも、そんな決心をした矢先に「どうしても話したいことがある」と呼び出され、「結婚してください」ですよ。まったく意味がわからない。
−−ムチャクチャですね(笑)。ついさっきまで険悪だったはずなのに。
亜由美 このタイミングで、プロポーズするか? ですよね。
−−ちなみに、おつきあいはされていたんですよね?
亜由美 一応、つきあってはいました。
−−よかった。安心しました。
亜由美 でも、彼氏らしいことしてもらった記憶はまったくないですよ。デートもしたことがなかったし。
−−えっと、それは飲み歩いていて帰ってこないからですか?
亜由美 まず、デートに行くお金がないんです。もっぱら、私がお金を貸したり、食事をご馳走したり、友達との飲み会に連れて行ったりしていました。周囲には「彼氏」として紹介していたけれど、正直、この人はどういうつもりなのかとも思っていました。
−−しかも、当時、ミスターにはかなりの額の借金があったんですよね。
亜由美 ススキノでバーを経営していたときの借金があったし、事務所を開設するまでは確定申告もしていなければ、国保も年金も払っていなかった。
−−素直にOKしましたか。
亜由美 案外すんなり受け入れていました。もともと贅沢品には興味がないし、お酒を毎晩飲めればいいというタイプ。あればあるだけ使ってしまうけれど、なければないでどうにでもなるんですよね。
ーー彼女が貯金をはたいて、事務所を設立してくれたのに、一生懸命働くどころか、支払うべきギャラでススキノ豪遊というのは、それだけで別れの原因になりそうなものですが、亜由美さんがミスターを見捨てなかったのはなぜだったんでしょう。
亜由美 何度も何度も失望しましたし、もう一緒にやっていくのは無理だとも思いましたけど、この事務所を設立するきっかけをくれたのは彼だし、“やるだけやった”と言えるところまでは到達できていない。<ダメ人間を自分が変えてやる>みたいな気持ちもあったと思います。
ーーなるほど。気になるプロデュース結果は……?
亜由美 結婚すれば、多少は真人間になってくれるのではと思っていましたが、そうでもなかったですね。結婚しても、子どもが生まれても、自分の生活は一切変えない。ホントずるいですよね(笑)
(島影真奈美)
後編へ続く