食べ物を、おいしそうに食べる女の子が好きか?
ぼくは大好きだ!

『幸腹グラフィティ』は、ひたすら女の子たちが料理を食べる4コマ漫画です。
作るシーンはあんまりないです。

と、これだけ書くと「へー」で終わりますが、ちがう。ちがうんだよ。
4コママンガでおいしい食べ物を描くのは難しいんだよ。
まず4コママンガは起承転結のコマ4つで構成されています。なので、じっくりとおいしさを語ることができない。
次に4コママンガはコマのサイズを変えることができません。そのため、どんなおいしそうな料理があっても、大ゴマに出来ない。
これだけで、料理マンガとしては格段にハードルがあがってしまいます。
ところが、このマンガに出てくる食べ物すべてとんでもなくおいしそうなんです。

この作品、「おいしさ」を描くテクニックをとことんまでわきまえて描いています。
まず料理は「顔」で食べるということ。
美術予備校に火曜中学生の女の子町子リョウと、はとこの大食らい森野きりん、そして同じ予備校にかよう椎名がメインヒロイン。

というか、ぶっちゃけこの3人しかほぼ出ません。
描きたいのは「料理のおいしさ」と「幸せ」だから、キャラ数は極限までしぼる。
リョウが料理を作って、きりんがそれを食べる、という流れでマンガが進んでいくのですが、この子達の顔のアップが絶妙。
リョウはおいしいものを味わうと、顔がものすごくほころぶんです。
何がどうおいしいかを言葉で表現もしているのですが、顔。顔で表現している。箸を口に運んだ時に頬がふわっと染まる様子。
加えて口を離した時に、味わいながら吐息をもらす。色っぽい。
見ているだけで、つられ唾液が出てくる。

きりんはさらにすごい。彼女はおいしいものがあったらもう我慢ができない。
もりもり食います。
きりんを見ているとこの作品の食べ物がどのくらいおいしそうなのかわかると思います。料理が激しく引力を放っており、吸い寄せられるんです顔が。
例えばリョウの作る色んなオムライスを食べるシーンがあります。見開きで4種類つくって、それを4コマ目できりんが食べるのですが、オムレツうまし顔百面相ですよ。
ドリア風オムライスはチーズの伸びを楽しみながら、熱さに体を火照らせつつがっつきます。
中華風オムライスは大量にオムライスを食べているにもかかわらず、「!?」を飛び出させながら、体が惹かれるかのように口の中にかきこみます。

そうめん一つでも、リョウはずるるとすすりながら麺のコシを味わい、眉の間に力を入れながら目をトロンとさせます。
きりんはむっしゃむしゃじゃくじゃくとネギと麺を噛み締め、顔を真赤にして笑顔になります。
もう幸せの真骨頂みたいなコマだらけなんですよ。
だから、この作品の料理は本当においしそう。

もう一つ、「おいしさ」を描くテクニックとして重要なのは人間関係。

この作品のテーマは、「誰かと一緒に食べるご飯は美味しい」です。
そのため、特にリョウときりんが一緒に食べるまでの過程を非常に丁寧に描いています。
旬の料理が多いのも特徴。筍、流しそうめん、うなぎ、秋刀魚。
予備校に行く時に家にやってくるきりんと、季節を共に過ごし、料理を食べる。
一緒に食べる人がいると幸せも倍。いや倍どころじゃない。
うなぎを食べるシーンとか最高ですよ。
まず重箱にリョウがごはんを盛る。この時きりんが覗き込む。これだけでなんか幸せ。
そこに温めたうなぎの蒲焼と手作りダレをかける。
きりん、もう我慢できない、上から覗き込む。子供みたい。
完成! 山椒をかけて食べる!
きりん、泣きながら口いっぱいに頬張る! お行儀悪いとか言わない、美味しいんだもん!
リョウ、熱々のごはんとうなぎの脂に頬が染まり、恍惚の表情に!
これは、一人では味わえないね。二人いるから楽しいし美味しい。

食べてるシーンは3人とも顔を紅潮させうっとりしているので、非常に色っぽいです。
秋刀魚を食べるリョウのシーンなんて、エロいです。
多分意図的にエロく描いていると思います。
作者、やるなあと膝をたたきましたね。
だって、美味しいものに対して欲望をあらわにするんだもの。それって、とてもエロティックでしょう。
そして欲望が満たされるんだもの、彼女たちが食べながら恍惚とした表情をするのは、まさに幸せそのものなんだよ。
食べ物描写も非常に見事。
美味しいものをどう見ているかの視線が意識されているので、小さいコマの中だけで食べ物が表現できています。
一緒に食べられる幸せ。口の中に広がる美味しさと温度。物語もわかりやすく、味わい深い。
読むとおなかが減るけど、幸せで満腹になれるマンガなのです。
あー、きりんちゃんに飯食わせたいなー。


川井マコト 『幸腹グラフィティ』
(たまごまご)
編集部おすすめ