世界のほころびが何なのかはっきり言わないし、津波に対して街の人達はあんまり困ってなさそうです。
そしていくつかの気になる引っかかりの中で、私がいちばん気になっているのが、フジモトとトキさんです。

フジモトとトキさんは親子なんじゃない?
フジモトは作中で「元人間だった」と明かしているのに、どうして海で暮らしているのか背景の説明がありません。
『フジモト』という名前から、たぶん日本人。人間を嫌っているような発言をするけど、リサやひまわりの家の人達に対する態度はとても普通です。
リサとの対比で過保護・過干渉に見えますけど、そこはポニョ5歳ですから仕方ない気もします。

トキさんは最初からポニョを「人面魚」だと指摘します。正直私にもそう見えますけど、トキさん以外はそのリアクションを取りません。
「昔から人面魚が浜に上がると津波が来るって言うんだよ」と言うけど、他のお年寄りは誰もその事には触れません。
世界のほころびが閉じられた時、宗介を抱きしめて泣いて喜ぶのがリサを差し置いてトキさんなのも気になります。

この二人、似てませんか。よく見ると鼻なんかそっくりです。

物語のはじまる前を想像してみる
街の人達があんまり困ってなさそうなのは、以前同じような津波の経験をしていて、避難訓練が徹底されていたからかもしれません。
その時の津波と、浜に上がった特別な魚が関係しているのを知っているのは、トキさんだけ。
それがグランマンマーレとフジモトの出会いだと仮定してみます。

かつてこの二人がポニョと宗介のような関係になった時、フジモトの母親はリサのように祝福せず、二人の関係に反対したのかもしれません。
そしてグランマンマーレが人間になるのではなく、フジモトが海に入る選択をしたんじゃないでしょうか。
フジモトの母親は大切な息子を海に取られてしまいます。フジモトも、祝福してもらえなかった事で「人間の街になんて二度と帰らない」と拗ねてしまう。
そのフジモトの母親が、トキさん。そんな気がしてきませんか。

もしこの想像の通りだったら、このお話はポニョと宗介がみんなに祝福されることで、フジモトとトキさんが救われる話でもあります。
きっとフジモトはポニョを心配して反対する自分にかつてのトキさんを重ねただろうし、トキさんもリサに自分を、宗介にフジモトを重ねていそう。
リサを差し置いてトキさんが宗介を抱きしめて喜ぶ事にもつながってきます。

この視点で観ると、フジモトとトキさんが顔を合わせるシーンでもちょっとそわそわできます。
ラストでフジモトが海へ帰るシーンは描かれていません。
(イラストと文/たきりょうこ)
『崖の上のポニョ』キャスト、スタッフ、主題歌
声の出演:
山口智子、長嶋一茂、天海祐希、所ジョージ、奈良柚莉愛、土井洋輝
柊 瑠美、矢野顕子、吉行和子、奈良岡朋子
プロデューサー: 鈴木敏夫
原作・脚本・監督: 宮崎 駿
制作: 星野康二
音楽: 久石 譲
主題歌:「海のおかあさん」
作詞: 覚 和歌子 宮崎 駿 (覚 和歌子作「さかな」より翻案)
作曲・編曲: 久石 譲
歌: 林 正子
「崖の上のポニョ」
作詞: 近藤勝也 補作詞: 宮崎 駿
作曲・編曲: 久石 譲
歌: 藤岡藤巻と大橋のぞみ
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