というのも「心を打ち明け、受け止めてほしい」という欲求を満たしてくれるからです。
『琴浦さん』は、意図せずに心が読めてしまう少女が主人公。
心が読める能力って、欲しいですよ。あったら便利、使いたい。
けれども、「心が読めてしまう」のは、正直困る。
人間って、お互い見たくないもの・聞きたくないことから目をそらし、言葉をつぐみ、忘れ、距離感を保っているからうまく生活ができています。
ところが、ヒロインの琴浦さんは考えている言葉は全て聞こえてしまうし、イメージしているビジョンまで見えてしまう。
もし自分のクラスに、心のなかを読んでしまう人がいたら、その子に果たして近づけるだろうか?
正直、近づけないと思うんだ。
アニメ一話は、彼女の送ってきた重すぎる今までの日々をダイレクトにぶつけてきました。
内緒にしたいことを知られてしまい、彼女を突き放すクラスメイト。次第に孤立してしまう琴浦さん。
アニメ的には「孤立させるなんてひどい!」と言いたいところですが、冷静に考えてみてください。彼女に対してどうすればいいかわからないんですよみんな。
そこから明確な悪意が生まれます。その悪意も聞きたくないのに聞こえてしまいます。
教室にいるだけで、耳をふさいでも聞こえてくる悪意。拷問だよ。
琴浦さんは、心を閉ざし、極端に人とのコミュニケーションが苦手な少女になってしまいました。
それを打破するのが、もう一人の主人公の真鍋くん。
彼は一言で言えば、良くも悪くもバカです。
でもね、バカって素晴らしいことなんだよ。
裏表がなく、自分に正直で、好きなものにまっすぐ。
人間の裏表に対しての恐怖感を持っていた琴浦さんは、彼のまっすぐさにどんどん惹かれていきます。
彼は、受け止めてくれるから。
そう、今の大人が求めているのは「受け止めてくれる」信頼出来る人。
別に癒されたいんじゃない。ただ正直に受け止めてほしい、それだけなんですよ。
子供の時は親の役目ですが、大人になるとなかなか機会が無い。親や配偶者ですら「正直」かわからなくなることだって、人によってはあるから辛い。
でも、幼い時多くの人が経験していると思うんです。
「この人は自分のことを受け止めてくれる」という安心感を。
アニメは基本的に、超能力者であり、心が読めてしまう琴浦さんの一人称視点で描かれます。
視聴者の中に心が読める人間は当然いるわけはない。……いないよね?
けれども感覚としては同じなんです。
大人の社会にいたら、「信じる」のが難しくなります。この人は本音なんだろうか、あの人は自分を騙しているんじゃないだろうか、その人の言葉はどういう意味なのだろうか、どの人を信じればいいのだろうか。
そして人は、適度な距離感と、頑丈な心のバリアと、論じ戦う力を身につけます。
でもさ、正直ツライよ、そういう日々。
琴浦さんは、知りすぎて傷つき傷つけてしまうのを恐れ、一人になる道を選びました。
その中で、裏表なしに接し、愛とエロスをストレートにぶつけてくる相手、真鍋くんと出会います。
気持ちがわかるのと、相手に対してどういう反応をするのがベストなのかを選択するのは別物。
真鍋くんは、彼女のすべてを受け止めます。
まじめな部分だと、琴浦さんの嘔吐や、クラスメイトの冷やかしについて、それを擁護し「彼女のことが好きだ」と周囲の冷たい視線をはねのけます。かっこいいんだこれが。
ふまじめな部分だと、普段から琴浦さんをエロ妄想に使います。胸はちょっと増量してます。フフ若いな。
そのエロ妄想(丸見え)に対して琴浦さんは最初のうちは困惑しますが、今なら言えます。
アニメではギャグとして扱われるパートですが、このやり取り自体すごいあったかいんです。
だって、本当に相手のことを信頼できていなかったら、嫌われるんじゃないかと思って、言えないでしょう?
大人になっても、人と出会う時「この人は何を考えているんだろう」「傷つけたり傷ついたりしないだろうか」という警戒心は自然に働くものです。
琴浦さんは、心が読めてしまうという表現によって、それを具体的に表現しました。
そして彼女は、心を読んだ上で、受け止めてくれる仲間……大好きな真鍋くん、導いてくれるリーダー御舟部長、最初は恐ろしい相手であり今は親友の森谷さんと出会い、信頼することを覚えます。
この作品を見ている時は、ぼくらも真鍋くんに全肯定してもらえる、受け止めてもらえるんです。
アニメでは大幅にギャグパートもパワーアップ。琴浦さんの楽しい日々……今までありえなかった、信頼することで得た楽しい日々を見ることができます。
もちろんヘビーすぎるくらいの事件も多々起きます。普通の人間だって傷つくのに、心が読めてしまう彼女が、見たくないものを見てしまうことは、そりゃああります。
そして心がボロボロになった彼女も、真鍋くんという存在があることで、必ず救ってくれるという安心感が今、あります。
第一話は鬱展開すぎて苦しいかもしれないけれども、マイナスからのプラス展開は本当に爽快です。
苦しいことは何度もやってくるよ。でも、必ず救われるから。救ってくれる人は、いるから。
だから躊躇をするな。楽しい時に楽しいと言っていい、うれしい時にうれしいと言っていい。
コミュニケーションで傷つくことは人間多々ありますが、その傷をちょっと荒療治で修復するエネルギーを与えてくれる作品です。
モリ!モリ!と。
森谷さんかわいい、超いじりたい。
余談ですが、『琴浦さん』は元々作者えのきづがWEBマンガで連載していたもの。出版社が「本にしないか」と声をかけ、単行本化されます。
心が読めるって本当に幸せ? WEBマンガ「琴浦さん」が異例の大ヒット、作者えのきづに聞く!(エキサイトレビュー)
アニメ化してから暫くの間、重版がかかったものの瞬殺。日本中から『琴浦さん』のコミックスが売り切れるという異常事態になりました。
現在は復旧して入手可能。2月22日には『琴浦さん 4』が発売になります。
WEBマンガからアニメ化し大ヒット。同じく現在放映中のアニメ『まおゆう魔王勇者』も橙乃ままれが2ちゃんねるに投稿した小説が出版され、大ヒットしたものです。
ニコニコからデビューのミュージシャンなど、ネット発のアマチュア作家が大ブレイクする時代なんですねえ。
えのきづ 『琴浦さん』1巻
『琴浦さん』BD 1巻
(たまごまご)