たくさんの企業の実際の足跡をたどりながら、模倣戦略の重要性を考察した本『コピーキャット:模倣者こそがイノベーションを起こす』が世界10カ国で翻訳され、今月日本語でも出た。
「革新!イノベーション!」「新しい価値を創造!」「顧客が全く体験したことない驚きを!」など、いかにもクリエイティブな「気合い」もいいかもしれないけど、「革新と模倣は同じくらい大切で、両方は繋がっている」という考えを、さまざまな角度から書いている本なのだ。
多くの人はビジネスにおける模倣に対して、「劣化コピー」「パクリ」などネガティブなイメージしか持っていないかもしれない。特許や著作権を無視したり、見かけだけそっくりな粗悪品。だがそれはそれとして、輝くヒット商品やスーパーサービスの多くが「模倣から生まれている」のも事実なのだ。
デジカメ、ドライブスルー、クレジットカード、ダイエットコーラ、などなど。それらはみな、「世界で最初にその製品を出した会社」は目立たず、「最初の製品を模倣して作られた2番手以降の製品」がヒットし、「そのジャンルの代表的製品」になっているという。
それだけならただ「ふーん、そうなんだ」って感じの、歴史のおもしろエピソードだ。もちろん、そこでは終わらない。
革新的な製品やサービスを生み出せば、新たなマーケットを作り、独占できる。ただしそれは、模倣品が登場するまでの期間に過ぎない。
蓄音機の模倣品が出るまでには30年かかったが、CDプレイヤーは3年で模倣された。MP3プレイヤーはもっと短い。ご存知の通りコモディティ化やなんかで、どんどん「コピーが有利な時代」になっている。
そういうこともあって、製品が稼ぐ総額のほとんどが後発の模造品の売り上げとなっている例も多い。新しくできた業界の利益の多くが、コピーキャットたちに持っていかれるということだ。例えば、抗うつ剤「プロザック」は特許が切れた後、そのシェアの8割をジェネリックのような後発製品に奪われた。その間、なんと2ヶ月!
この本は、そういうさまざまな例を考察しながらも、「模倣が最強」だと言っている訳じゃない。
革新者は、模倣者に比べてリスクや開発費用がかかる。成功したとたんに大量に押し寄せて来る模倣者たち。その中でも上級模倣者は、ちょっと改良を加えてコピーしてくる。つまりこういう、「模倣者であり、革新者でもある」というクセモノがいて「どっちもできるやつはそりゃあ強いよね」という話だ。
サルが棒を使うのだって、学生がデッサンを描くのだって、高度な模倣というのは「対象の構造や因果関係」を理解した上で行う、創造性の高い行為だ。ただ「うわべ」だけを模倣するのではなく、どのように対象を分解して見つめ、どういった要素をどのように模倣していくのか、段階に分けて考察している。
いまや当たり前になったLCC(格安航空会社)。ハブ空港を持たず特定の路線を往復したり、チケットがオンライン注文のみで、価格も3種類ほどに決まっているシステムは、高速バスなどの業界から移植されたものだ。
そういうふうにさまざまな複雑な模倣の例を眺めていくと、
「イノベーションとか模倣とかって、そんな単純な物じゃなくて、いろんな類型があり、それらが複雑に組み合わさって製品とかって生み出されてるよね…」
と、なんともスッキリしない結論に達するんだけど、そこにたどりつくまでにコンピューター、医薬品、小売、航空、自動車などさまざまな業界の例によって、認識の改めや発見を与えてくれる。
最近社内がやけに「イノベーション信仰」に包まれてる気がする…という人にもおすすめな本だ。オーデッド・シェンカーという人が原著を書いていて、日本語版には特別に日本向けの章が追加されています。ちょっと難しいかもしれないけど、読み応えは十分です。(香山哲)