2011年にテレビアニメ化されると、さらにファン層を拡大。
かるた世界一の「クイーン」を夢見る綾瀬千早は、瑞沢高校に入学し、幼なじみの真島太一ら4人のメンバーとともに、かるた部を創部。
2期では、2年生に進級した千早たちに、個性派の新入部員2人を加えた瑞沢高校かるた部の7人が、全国大会で奮闘しています。
原作ファンからの評価も非常に高いアニメ版の面白さの秘密は、どこにあるのか?
浅香守生監督に、直接、聞いてきました。
競技かるたは、楽しく熱いもの
――多くのファンが2期のスタートを待ち望んでいたと思います。1期の制作中から、2期の制作は確定してたのでしょうか?
浅香 必ずあるとは決まっていませんでした。でも、最初の予定では、1期の放送話数(全25話)がもう少し長かったので、その後の話の構成も考えてはいて。それに、1期が好評であれば2期もやりましょうとは言われていたので。自分としては、やる心づもりはありました。
――1期では、千早と太一が転校生の綿谷新にかるたを教わる小学生時代と、瑞沢高校かるた部の1年目の活躍が描かれました。最終回のラストには、2年に進級した千早が登場していて。浅香監督の「続きを作りたい」という気持ちが伝わるようなシーンでした。
浅香 ははは(笑)。1期は、ちょうど千早たちの世界の時間で高校1年が終わるまでだったので、切りは良かったんです。でも、クイーンを目指す千早ということで考えると、やっぱり中途半端ですからね。
――2期の制作が決定したときのお気持ちは?
浅香 やるつもりでいたので嬉しかったですが、大変な作業がまた始まるので、今のうちに休んでおかなくては、とも思いました(笑)。
――では、制作作業が大変だったという1期のお話から伺っていきたいのですが……。原作も非常に人気の高い作品ですが、こういった、原作のある作品をアニメ化する際、特に意識されることはあるのでしょうか?
浅香 原作のあるなしに関わらず、僕は面白いものが作りたいと思っているので。原作つきだから特に、ということは無いんですけど。やっぱり、自分が感じた作品の雰囲気や空気感は、より磨き上げていくような形で作りたいとは思っています。
――『ちはやふる』の原作を読まれたとき、これを磨いていこうと思われたところは?
浅香 『ちはやふる』には、名言が散らばってるじゃないですか。しかも、千早や太一のようなカッコ良かったり、綺麗だったりするキャラクターばかりが言うとは限らなくて。机くんがすごく重い一言を言ってくれたり。非常にかっこいい肉まんくんがいたり。
静寂と激しい音の緩急を使いたい
――競技かるたに関しては、実際に試合会場での取材も行われたそうですが。生の試合を見て特に印象に残ったことや、アニメでの描き方に影響したことなどを教えてください、
浅香 原作も、かなり再現力は高いですが、(演出上)省略されている部分もけっこうあるんです。例えば、札の配置を暗記してる時間(15分間)とか、散らばった札を並べ直してる時間は長いですし。実際は、空札がもっと詠まれています。
――競技かるたでは、下の句だけが書かれた100枚の取り札の中から、ランダムで選んだ50枚だけを並べるんですよね。
浅香 そういった時間は、ドラマを描く上では省略するべきものなんです。でも、実際の試合では、その時間も含めて常に緊張感があって。1試合1時間くらいかかるのですが、その間も選手はずっと考えっぱなし。記憶も常に更新させていく状態で、頭の疲労度はすごいと思うんですよ。そういうところは、会場に行って、その時間を一緒に過ごさないと分からないことでした。
――千早が、試合の後にチョコレートを欲しがったり、気を失うように爆睡したりするのも理解できる?
浅香 分かりますね。会場の雰囲気も独特で。静寂と、歌を詠む声と、畳を叩く激しい音。あと、選手たちは結構熱くて、声を掛け合いながらやっていて。そういう音のメリハリみたいなものも、会場にいかないと分からなかったことですね。
――では、マンガからアニメになって、音の表現も加えることができるのは、大きいですか?
浅香 大きいと思います。
――畳を叩く音などの試合中のSE(効果音)は、どのようにして作っているのですか?
浅香 実際に(全国大会が開かれる)近江勧学館まで行って、生の音を録ったりしています。
――音といえば、「ちはやふる」はBGMも素晴らしいと思います。監督からは、音楽担当の山下康介さんに、どのようなイメージでオーダーをされたのでしょうか?
浅香 すごく単純な言葉でしか言ってなかったので、音楽担当の方には申し訳なかったんですけど。清々しくて、きれいな透明感のある、キラキラした音楽。それでいて、千早や太一だけじゃなく、敵役も含めた全員が、マイナー競技であるかるたに誇りを持って一生懸命やっていることを表現できるような感じにしたい。そういう風なオーダーをしました。
――クライマックスなどでよくかかる「『ちはやふる』メインテーマ」(オリジナル・サウンドトラックに収録)は、まさに、そんなイメージの曲ですね。
浅香 最初に、「メインテーマとして、こんなイメージではどうですか?」という形で上がってきたのですが。半分、アニメ化の成功への足かがりができたと思えるくらい、グッとくる曲で、文句なしの出来でした。もう、あの曲なしに「ちはやふる」の世界は描けないくらいです。
かるた選手は、札の字が絵に見えている
――かるたの試合のシーンを描く際は、どのような点を意識されているのでしょうか?
浅香 動きが速すぎて、ほんの一瞬、2、3コマで札を取ってしまうから(1秒は24コマ)、逆にちゃんと描けないんですよね。観ている人に、何が起きているのか分からせなきゃいけないときは、時間を伸ばしてしまうしかないので。毎回、それは悩みの種です。
――スポーツものの定番の演出として、動きをスローで見せる場合もありますが。「ちはやふる」では、あまり使われてない印象があります。
浅香 かるたを観ていて、すごいと思うのは耳の「感じが良い」(音を聞き分ける能力が高い)とか、腕が速く振れるとか、そういうところだと思うので。そこにスローモーションを入れてしまうと、真逆のことになってしまいますよね。ここぞという場面で、スローモーションを効果的に使うことはできますが、基本的なところでは、速さを見せていくしかない。毎回、朗詠の歌を聴きながら、このシーンは何コマ目で札を取らなくちゃいけないかというところまで決め込んで、その中で何が描けるかを考えています。
――コマ単位で考えられているのですね……。ところで、試合のシーンではないのですが。1期でも2期でも第1話の冒頭は、文字が花びらのように空を舞っている場面から始まっていますね。
浅香 かるたって、上の句を聴いて、下の句の書かれた札を取るゲームなんですけど。かるたをやる方って、下の句の札を見ると、上の句の文字が頭に浮かぶらしいんですよ。
――え? どういう意味ですか?
浅香 要は、下の句の文字しか書かれていない札を絵としてとらえていて。(それを見ても)決まり字(そこまで読まれれば、どの札か確定できる文字)しか頭に浮かんでこないらしいんです。下の句の書かれた札を読めと言われたら、上の句を読んでしまったりもするらしくて。
――すごい世界ですね。
浅香 そういう、文字自体も絵としてとらえている感覚について話を聞いていたので。字をうまくデザインして、映像の中に組み込めないかなと思ったのが最初ですね。元々は、本編中も文字はあまり出さないつもりだったんです。かるたは、字の書かれた札を取るゲームなので、文字情報は札だけに絞ろうかなと。でも、選手には、そういう風に見えるという話などを聞いて、文字自体も絵として表現してみようと思いました。そこからできたのが、文字が飛んでたり、回ってたりという絵ですね。
――かるたの選手の心象風景というか、目に見えてるものを描いた形ですか?
浅香 そうですね。あと、(オープニングに出てくる近江神宮の)勧学館は「かるたの聖地」と言われているので。その周りに、文字の神様のようなものが存在しているイメージです。
(丸本大輔)
(後編に続く)