こう提言するのはロッテ・中日で活躍した愛甲猛。今回の国民栄誉賞の検討が発表されたのが4月1日なので、4月中旬発売の本書とは入れ違いになっていたと推察できるが、そう考えると予言の書的でもある。
『球界の野良犬』で自身の酒・オンナ・シンナーにまみれていた過去を、『球界のぶっちゃけ話』でプロ野球界のパワーバランスやお金まわりのあれこれをぶっちゃけてきた愛甲猛による「球界シリーズ」第3弾となる本書だが……先にぶっちゃけておくと、本書の中に「爆弾提言」や「爆弾発言」はあまりない。
記されているのは、ただただ「正論」の数々。
そして、爆弾提言がないからといって本書がつまらないかと言えばそんなことはない。
球界の問題児・愛甲猛の方が正論……それこそが今の球界の一番の問題点であり、それら問題点を簡潔にまとめるだけでなく、決して荒唐無稽でもない代案をしっかり記しているところに本書の価値がある。
「一章:球界の背広組に、申し上げる」では、NPBの意識改革・組織改善を訴え、
「二章:賞レースは、大胆な改革を」では、MVPなどの各賞が形骸化している状況を憂い、
「三章:現場の人間よ、再考しやがれ」では、今まさにプレーする選手や監督達を叱責し、
「四章:球団経営者は、熟考せよ」では経営者たちの危機感の欠如を指摘し、
「五章:メディアよ、プロ野球を潰すな」では、メディアの問題点に憤慨する。
例えば、WBCや統一球での責任の所在でも問題となっているコミッショナーについて。
「コミッショナーはもっとリーダーシップを発揮すべきだ」なんて話や論調はよく見かけるが、本書ではさらにその先、ソフトバンクオーナーでもある孫正義をコミッショナーに推薦。「コミッショナー」という役職がいかに重要かを訴えながら、《孫さん以上にコミッショナーに適した人物はいない》と、なぜ孫氏がコミッショナーにふさわしいかの理由にまで言及していく。
また、中居正広、上田晋也、亀梨和也らがキャスターやコメンテーターとして野球を語ることについて《プロと素人の境界線が曖昧になっている》と危惧し、素直に《腹が立つ》と述べているところなど、「愛甲、もっと言ってくれ!」と同調したい野球ファンも多いハズ。
《社会人野球を三軍にせよ》《オリックスは四国に移転せよ》など、当事者やそのファンからすれば「ふざけるな!」と言いたくなる提言もあるだろうが、一歩引いた目線で見ればうなずける指摘ばかりだ。
今年の球界注目のトピックス、日本ハム・大谷の二刀流問題に関しては、元甲子園優勝投手としてドラフト1位指名を受け、プロ入り3年後に打者転向をした愛甲だからこそ、投手と野手の投げ方の違いから《絶対に無理》と断言している点も注目だ(もっとも、この指摘は大谷が「内野手」である前提なので、外野手としての出場が多い現状とはまた変わってくるかもしれないが)。
大小61個の様々な野球界への提言がある本書の中でも、特に「なるほど」と頷きたくなるのが、「二章:賞レースは、大胆な改革を」だ。
記者投票で決まるMVPとゴールデングラブ賞について、記者の多くが「番記者」であり、特定球団の試合を中心に見ているために個人的な感情の入る余地が多い現行制度の問題点を挙げ、《記者投票を残しつつ、選手間投票を導入する案》を提言している。これなど組織構造や費用的に障害がある問題ではなく、今すぐにでも実現して欲しい案件だ。
また、愛甲自身が89年に受賞したゴールデングラブ賞を例に挙げ、《同じ一塁手にはライバルとしてブーマーや清原和博がいたが、その年に打率3割を達成し、清原を上まわったのが要因だと記者に聞かされた。守備の賞なのに打撃が関係するとは、よくわからなかった》と綴る。打撃面での活躍度が低い場合、名手であっても選ばれない問題点はよく指摘されていたことだが、当事者が言うと、やっぱりそうだったのか、という再発見。
《野球を知らない人間が選んだ賞に、価値があるとは思えない》《選手間投票なら本物の“名手”が選ばれるハズだ》という指摘は正論であるとともに、「野球」という競技そのものをリスペクトする愛甲の姿勢が垣間見えてくる。
他にもこの第二章では、二軍の重要性や優秀なコーチの価値を説くなど、ボトムアップからの球界のあるべき姿を訴えていく。
「巻末特集:高橋慶彦×愛甲猛の球界ぶっちゃけ対談」の中では高橋慶彦が、「(広島には)戻らないのではなく戻れない」と語り、それでも「野球界のためになりたい」と吐露している。
真に球界を憂いているのは誰なのか、問題児は誰なのかを考えたくなる一冊だ。
(オグマナオト)