丸谷「私は決めたのです。余生は、イチゴさんと過ごそうと」

2月1日(金)深夜放送のドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)第4話。


妻に先立たれた元警察官の丸谷(嶋田久作)は、町会長の紹介で初めてデリバリーヘルスを利用した。派遣されてきたデリヘル嬢・イチゴ(山下リオ)に「これは、運命かもしれませんです」と入れ込んでしまう。
「フルーツ宅配便」客は客というデリヘル嬢の素直な態度、それを信じてしまった高齢風俗客4話
鈴木良雄『フルーツ宅配便』2巻(小学館・ビッグコミックス)

原作は、鈴木良雄の描く同名漫画だ。丸谷が登場する話は、2巻に収録されている。

イチゴだから信じた。高齢者風俗客・丸谷


丸谷は初めてデリヘルを利用し、「感激しました。感無量であります」と余韻に浸る。妻と死別したことを話すと、イチゴは自分も似た境遇だと嘘を吐く。

丸谷「ちなみに、いまお付き合いされている方は」
イチゴ「いませんよお。だから毎日超さみしくて。うちら似てますねえ」

嘘は嘘なのだけど、イチゴには丸谷を騙してやろうという悪意があるわけではない。丸谷を喜ばせるためのリップサービスとも違う。
イチゴは、客を客としてしか見ていないから話を合わせているだけだ。ある意味、素直な態度でもある。それに、風俗嬢が客に何でもかんでも本当のことを伝えるのは難しい。

丸谷「あの、イチゴさんは風俗に来る男を軽蔑しますか?」
イチゴ「えー、全然全然。逆に丸谷さん、風俗で働く子を軽蔑します?」
丸谷「イチゴさんに会うまでは、あるいはそうだったかもしれません。でもいまは」

イチゴが本当に風俗に来る男を軽蔑していないのかは、わからない。客に「軽蔑してます」と言うわけがない。

遊び慣れている男性なら、大なり小なり話を合わせてくれているという可能性にも思い至るだろう。でも、丸谷は違った。町会長に紹介されて風俗店を利用するほど、女性と遊ぶ方法を知らない。最後にやけ酒をあおるかのように作り置きのお茶を飲んでいた。酒も飲まない人なのだろう。


消費者金融に金を借りてまで、丸谷はイチゴを連日指名し続ける。6時間の店外デートコースの料金は11万円。咲田(濱田岳)に料金を支払うため、お守りの中に小さくたたんで入れていた万札を慌てて取り出す。

自分が高齢であることを自覚して、イチゴに緊急連絡先のメモを渡していた丸谷。お守りに入れていた金も、何かあったときのためにと持ち歩いていたものだろう。用心深く、自分が若いと勘違いするような人でもない。風俗嬢のことも軽蔑していた。ただ、イチゴだから信じた。

原作よりは希望があるドラマ版・丸谷のラスト


ミスジ(松尾スズキ)や咲田は、丸谷を心配して「イチゴは退店した」と嘘を吐く。丸谷はそれを疑い、ストーカーのようにイチゴを追いかける。

イチゴがマサカネ(荒川良々)に送迎されているときと、咲田に送迎されているとき。2回以上の確認をし、イチゴは辞めていないと確信を得る。
ちゃんと複数回の現場を押さえている。やっぱり本来は用心深い男なのだ。

丸谷はイチゴを家まで追いかけてしまう。夫と死別して彼氏はいないと言ったイチゴを信じていたため、イチゴの彼氏の「俺は彼氏だ」という言葉を信じない。揉み合いの末、彼氏のギターが頭にぶつかって丸谷は倒れ込む。

彼氏「お前、これ犯罪だぞ」
丸谷「犯罪?」
彼氏「完全にストーカーだよ。お前、犯罪者だよ!」
丸谷「貴様! 俺が犯罪者のわけないだろ!」

元警察官なのに。イチゴに会うようになってから、スクワットもして体を鍛えていたのに。丸谷は、うっかりぶつかったギターに負けてしまった。

彼氏に呼ばれているのに、倒れている丸谷を見るイチゴはそこから動けない。ただ恐怖で動けなかったのかもしれない。自分が適当にしていた会話が引き起こした事態に、後悔をしていたのかもしれない。


ミスジ「じじいは頭固いからな、難しいんだな」
咲田「そっちか……」
ミスジ「まあ、アソコは柔らかいのかもしんねえけどよ。……固いからこうなるのか。怖え、怖えよ」

原作での丸谷は、風俗嬢(原作ではビワ)という拠り所を失って町内会の集まりにも行けなくなるほど気力を失う。公園のベンチでひとり、スーパーの激安おにぎりを食べ、仲の良さそうな高齢者夫婦を見て暗くうつむく。

ドラマでは、丸谷は家に帰り、伏せていた妻の遺影をもとに戻して敬礼する。謝るでもなく、隠れるでもなく、帰還兵の敬礼のように見えた。ミスジは高齢者が風俗店を利用することの難しさを嘆いている。しかし原作と比べると、丸谷のその後はそこまで暗くないように感じられた。

4話の監督は、映画『横道世之介』(2013)やドラマ『火花』(Netflix・2016年)の沖田修一だ。

同級生・えみ(仲里依紗)が風俗店に勤めていることに、咲田が気づいた。第5話は、2月8日深夜放送。

(むらたえりか)

▼配信サイト
Amazonプライムビデオ(テレビ東京オンデマンド)
ひかりTV(テレビ東京オンデマンド)
TVer

ドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)
毎週金曜 深夜0時12分から放送
出演 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、徳永えり、山下リオ、北原里英、原扶貴子、荒川良々松尾スズキ、ほか
原作 鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館・ビッグコミックス)
脚本 根本ノンジ
監督 白石和彌、沖田修一、是安祐
楽曲制作 高田漣 
主題歌 EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ 超特急「ソレイユ」(SDR)
チーフプロデューサー 浅野太(テレビ東京)
プロデューサー 濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ) 
制作 テレビ東京 オフィス・シロウズ
製作著作 「フルーツ宅配便」製作委員会
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