●文学、哲学、スピリチュアル
和嶋:最近読書の傾向が変わって来たんですよ。昔は大正・昭和初期の文学が面白いと思ってよく読みましたね。
「陰獣」「人間失格」「痴人の愛」など、文学からとられたタイトルの曲を歌う人間椅子。バンド名はもちろん江戸川乱歩。特に和嶋の作詞する曲は文学に多大な影響を受けている。そんな和嶋と、あるマンガ家激しく愛するナカジマが、読書趣味について熱く語りだす。
和嶋:ちょっと前色々悩んでいた頃、やっぱ哲学の本に答えあるかなと。ショーペンハウエルとか。ニーチェを読んで、なんてかっこいいんだろうと思ったりね。で、ずっと読んでいたら、結局のところ答えは自分が持っているんだと気が付きまして。
───悟りですか?
和嶋:いや、悟りじゃないんです。ようやくスタートラインに立てたというか。最近は割りと、スピリチュアル系の方を読み始めまして。
───それが今後の人間椅子の曲にも影響を?
和嶋:もう出ちゃってます(笑)。だから、説教臭く感じるかもなあとは思うんですが。
「人生万歳」なんてまさにそうです。
───自分と対話しながら本を読んでいるんでしょうか。
和嶋:いや、自分が言いたかったんだけど、なんかぼんやりしているものを書いてくれている本を探しています。だからあんまり小説は読まなくなっちゃって。
鈴木:わはは、20年前って(笑)
和嶋:このへんに興味のある人は、「んー!」ってみんな言うと思いますよ! これからもっと読もうと思ってます。
●ナカジマノブと団地住まい経験
───ナカジマさんはなぜハードロックの道に入ったのでしょう。
ナカジマ:最初に楽器にふれたのは、子供の頃に7年習っていたピアノですね。その後は、小学校の頃は団地住まいだったんです。団地って子供がわーっといて、みんな仲間で友達だったりするじゃないですか。
───団地って特殊な環境ですよね。
ナカジマ:そうですね。団地の中でも小学校が違ったりするし、年齢も幅広くいたりして。その時期にすごく仲良かった友だちのお兄さんが、ベイ・シティ・ローラーズとKISSのレコードを毎日聞いていて刷り込まれて。ジャケットも見せてくれるじゃないですか。
●ナカジマノブ、日野日出志について大いに語る
───ナカジマさんが入ってきてからは人間椅子が明るくなったなという印象でした。
ナカジマ:それがいいのか悪いのか全然わかんないですけどね(笑)
和嶋:前に行く感じになったと思いますよ。ぼくらイカ天出身じゃないですか。ノブくんもイカ天のGENってバンド出身で、あの頃はぼくも毎週イカ天見てまして。ある時GENの特集やってましてメンバーの一人が「ぼくは日野日出志先生が好きなんです!」って言って、グッズをすごい並べだして。
(笑)
ナカジマ:日野日出志先生はぼくライフワークなんですよ! 一番最初に好きになったのは「毒虫小僧」なんです。小学校の同級生の女の子の誕生日パーティーに呼ばれた時に、何人か同級生がいる中で、ぼくだけ一人その女の子のお兄ちゃんの部屋に行って、読んでいたのが、たまたま日野日出志の「毒虫小僧」なんです。たまたま! 読んでいたら、自分がその主人公になったように、抜けられなくなって。
和嶋:全然違うことしてたんだね。
ナカジマ:ナカジマ:ずーっと食い入るように読んでいて、感動しちゃって。最後どんぶらこどんぶらこと毒虫が海を流れていくじゃないですか。あれで号泣しちゃったんですよ、もうそれ以来大ファン!後で調べたら、日野日出志先生のはじめての長編じゃないですか。描きたかったことが、長編だと全部描けると思って描いて、プロローグとかエピローグとか全部つけて、はじめて映画仕立てで描いた本だっていうのを読んで、感動して。もうその後は、例えば歯医者さん行っても、待合室になぜかひばり書房が何冊か置いてあったりとかして、必ずその中でも日野日出志先生だけをじっくり読んで。マンガだけじゃないんです。日野日出志先生がそのへんに落ちてた石を拾って、絵を描いたやつも、ぼくが持ってますからね。日野日出志先生が自分の似顔絵を描いた石。
和嶋:日野日出志の話したら一晩中しゃべってるんですよ!
ナカジマ:あと日野日出志先生の野球チームの野球帽も持ってますし、日野日出志先生が自分の机の前の壁に飾るために、自分で描いたカレンダーも持ってます!
───これはCDのジャケットが日野日出志になるのが夢では……。
ナカジマ:それは夢っていうか、多分死んでしまうんじゃないかってくらい!
ナカジマ:ぼく一度会ったことがあるんです。
和嶋:そのくらい好きってことなんですよ。
ナカジマ:30年来大好きだった人に会えたって、こういうことなんだなって思って。ぼくそれから、ファンの人から握手を求められたら握手をしようと。歩いてる時とかでも、言われるじゃないですか。それでも足を止めて握手しよう!ってその時思いましたね。
和嶋:握手してくださいって言われたら、しますよ。相手はすごい嬉しそうだし。嬉しさが伝わるから、嬉しくなりたいじゃないですか一緒に。
●第二のデビューアルバム
───お二方はマンガは読まれたりしますか?
鈴木:いやあ、日野日出志のあとに言われても、そんなに熱狂的なのは……(笑)
和嶋:ハードルが高すぎますね。だって日本で一、二を争うファンですから。研ちゃんは学生のころよく水木しげる買っていて、家に遊びに行ってよく読ませてもらったなあ。
鈴木:水木先生もラヴクラフト大好きで。「ダンウィッチの怪」とかので「ヨーグルトー!」って叫んでたり。
和嶋:あ、クトゥルフとかやってたんだ? あの頃相当好きだったよね、水木しげるが。それで研ちゃんがねずみ男やったんじゃないかなって思うんだけど。
鈴木:うーん、そうだねー。まあ目立てばいいかなーと思ってやっただけなんだけど。
和嶋:でも相当なインパクトがあって、お年を召した方は人間椅子っていうと「あ、ねずみ男の人!」ってやっぱり言うんですよ。つい一週間前も言われましたからね。
(笑)
和嶋:もう25年前にそれはやめたんですけどねー、って。
───今若いファンの人に聞くと、ねずみ男のことを知らないんですよね。「第二期人間椅子」がはじまってるんじゃないかと思うんです。
和嶋:若いファンが増えているというのは、数年前から、じわじわっと、じわーっと増えているんだなと思っていて、それがオズフェスト出ることでぐっと広がるだろうと思っていたので、今回のCDは「第二のデビューアルバム」だろう、くらいの気持ちでしたね。
鈴木:でも第二期じゃないと思うんだけど! オレの中では第四期くらい。ドラムで、一期二期と。
和嶋:メンバーチェンジするとそうなりますからね。それで、オズフェストはイカ天とはちょっと違いますが、人の耳にはいる認知度の上がる機会は、人生にそう何回もないですからね。ありがたいことに、今回のアルバムは「お取り寄せ中」とかによくなっていたから、初回分は売り切れたんだなと!
ナカジマ:ぼく友だちから言われましたね。チャートに人間椅子載ってたよー!って。五位とかでしたよね。
和嶋:ちょうど同じ日がサザンオールスターズの発売日だったの。どこいってもサザンのポスターだから、ぶつかってしまった!と。全然客層はかぶらないんですが(笑)。
●歌詞はアルバムで見て欲しい
───人間椅子の曲はいまiTunes配信ですごく買いやすいんですが、歌詞がないので。歌詞配信とか、今までの歌詞を本にしたものって出たりしないんでしょうか。
鈴木:それは、アルバムを全部買えばいいだけのことだと思うんだけども。
(徳間:歌詞サイトはありますね)
鈴木:でも歌詞サイトで歌詞見て、曲ダウンロードしたら、買わないじゃないですか。
(徳間:CDを買わない人は、今買わないんですよ。歌詞サイトで歌詞を好きになって配信を買うこともあるんです)
鈴木:へぇー。でーもCD買ったほうがいいと思うんだけどねー。歌詞カード見ながら聞くのが一番いいと思うんだけども。
和嶋:そりゃ頑張ってCD作ってますから!
●これから人間椅子を聞く人へ
───三人に、これから聞く人に「この曲を聞いて欲しい」というのがあれば教えて欲しいのですが。
鈴木:ベ「人間椅子傑作選」。それはこれ以上無いってくらいのベスト盤だと思いますね。あれは相当凝縮してあるよねえ。
ナカジマ:あれ20周年の時なので、5年前ですね。
和嶋:20年間の結果ですから。ライブ盤もベスト盤に入ってない曲ありますから、これもいいですよ。ベスト盤、ライブ盤、新譜。この3つをまずお薦めします。
───ナカジマさんが過去の曲も叩いてますしね。
ナカジマ:ぼくやったことない曲あと五曲ないんじゃないかな?
鈴木:え! そんなことないでしょー?
(笑)
ナカジマ:この前数えて七曲で、それから二曲くらいやったんですよ。
鈴木:んなことないでしょう? 「春の海」とかやってないでしょ。
ナカジマ:そう、「春の海」やってない。あと「不眠症ブルース」。そのくらいなんだよ。
和嶋:いやあ、結構来たと思うよ?
───ナカジマさんが全部の曲をやったら、人間椅子リニューアルですね。
ナカジマ:近いうちにそうなるように、がんばります!
9月12日から全国縦断ツアーも始まる人間椅子。是非今までのファンの方も、新しく知ったファンの方も、人間椅子の創りだす日本語ハードロックの世界を、生で味わってみてほしい。
(たまごまご)
「萬燈籠」 人間椅子