これは、今話題の「涙活」を起ち上げたプロデューサー・寺井広樹氏がスタートさせた新たな涙の活動。
「今まで涙活を続けてきた中で、実感したことがあります。やはり映像を使って、目に訴えかける情報の方が人間は泣きやすいんですね。反面、音のみの情報だと想像力が必要となり、そこには受け手の能力が影響します。話だけで泣かせるって、難しいんです。でも、あえてそこに挑戦してみようと考えました」(寺井氏)
そんなこんなで、毎月恒例の「涙活」会場には、40人の泣きたい男女が参加。主に30~40代の男女が集まっており、完全に満席状態です。
そこに現れるは、泣語家(なくごか)の「泣石家(なかしや)芭蕉」さん。普段は埼玉の葬儀会社に務める男性が、この日は落涙必至の“噺”を持ってきてくれました。
「たくさんの感涙エピソードを持っていらっしゃる噺家さんです」(寺井氏)
ここで、泣語のルールについてご説明したい。まず、時間は5分以内と定められている。そして噺の終盤では、泣語家自身が目に涙を溜め、結局は自分も泣いてしまうのが決まりとなっているそう。
また、泣語には「体験泣語」と「創作泣語」の2種類があるとのこと。自身の体験を語るのが前者で、見聞きした情報を元に創作するのが後者。今回、芭蕉さんは『最後の言葉』なる体験泣語を披露してくれました。内容は、姉と弟の愛憎劇。そこに祖父の死が訪れ……。いかん、思い出すだけで泣いてしまいそうになる。
と思ったら、芭蕉さん自身も袖で涙をぬぐってました。
「今日の私の噺は、涙と共に水に流していただければ幸いです」(芭蕉)
この言葉で締めくくるのも、泣語の作法の一つだそう。ここで会場に目を向けると、神妙に噺を聞きながら頬を伝う涙をぬぐう参加者の姿が。
ところで、ちょっと画像をご覧いただきたい。芭蕉さん、なんか風変わりな衣装を着ていると思いません? これ、実は「泣語」の専用衣装なんです。ブータンの民族衣装をモチーフにしており、「泣き装束」と呼ぶらしい。ブータンと言えば、「国民総幸福量」を提唱した国として有名だけども……。
「『国民一人当たりの幸福を最大化することによって、社会全体の幸福の最大化を目指す』という考え方が、ブータンにはあるそうです。これに影響を受け『“国民総涙量”をベースに社会全体に活力を与える』という考えを生み出しました。つまり、国民一人当たりの感涙を増やすことで、社会全体のストレスを減らすという考え方です」(寺井氏)
この「泣き装束」は、もちろん特注。泣語家さんは、必ずこの衣装を着ることとなります。
さて、今回の「涙活」も無事成功に終わりました。今回は「涙活」イベントの1プログラムとして実施された「泣語」。10月以降は、一つのイベントとして独立させた形で起ち上がるようです。実は芭蕉さんの他にもう一人、『泣石家(なかしや)霊照』という泣語家さんもいらっしゃるそうですよ。
「例えば鉄拳さんは、“笑わせる”はもちろん“泣かせる”分野の方でも才能があった訳ですよね。今後、落語家さんや芸人さんの中から『泣語』の分野に来る方が出てくるかもしれません」(寺井氏)
事実、大阪で「涙活」を開催中の芸人さんが松竹芸能にいるらしい。芸人界でも、お客さんを“泣かせる”文化が広がりを見せています。
「笑いは失敗しても笑ってもらえますが、泣きは失敗するとまったく泣けない。お笑いよりも難しいかもしれません」(寺井氏)
確かに。でも、めげずにチャレンジしていただきたい。また、観たいですから!
(寺西ジャジューカ)