好評放送中「キルラキル」のクリエイティブオフィサー、若林広海のインタビュー後編です。(前編はこちら

設定制作で発揮した、作画好きならではのこだわり

───「天元突破グレンラガン」(以下、グレン)にさかのぼってお聞きします。
初めて設定制作という仕事をされてどうでしたか?
若林 先輩がいないし、外の会社の設定制作の人も知らなかったし、何から始めればいいのか全くわからなくて。とりあえず上がったキャラクター設定を資料化すればいいのかな?って、見よう見まねでやり始めましたね。
───それはキャラクターの表情などの資料ですよね。
若林 設定資料は各セクションに配布するため、コピーを何度も繰り返すものなので、デザイナーさんが描いたキレイな鉛筆の線をいちど二値化(白と黒の二階調に変換する処理)するのが定番の作りかたなんです。でも僕は錦織(敦史)さんや吉成(曜)さんの引いた線が好だったので、絶対この線を活かして設定化したいなって。設定って単なる資料なんだけど、作品に関わる多くの人が目にするものなので手にして嬉しいものにしたかったんです。
だからA4の紙にどの表情をどの位置にどう配置するかっていうレイアウトにもこだわって、クオリティの高い設定を作ることに集中しました(笑)。なので設定資料がカッコイイと言っていただけたときは嬉しかったですね。
───かなりの作画好きだったとか?
若林 ガイナックスに入ったときは、中にいる原画マンの方々はほとんど知っていましたよ。「うおー!有名アニメーターばっかりだ!」とかってテンションあがって。単なるファンですよね(笑)。

ロボットアニメ好きの血が騒いだ「グレン」の仕事

───具体的に「グレン」のときの仕事内容を聞かせてください。

若林 今石(洋之)チームのデザイン作業ではデザイナーが集まって10時間くらい絵を描き続けるブートキャンプ的な会が毎週行われているんですが、そもそものはじまりは「グレン」制作当時、各人の仕事の物量が多すぎてなかなか設定が進まなかったことから、「だったら皆で集まってこの時間だけは設定を描きましょうよ!」と、こんな無茶な会を開いたことがいまだに続いているんです。
───その会はどんなふうに進めるんですか?
若林 集まったところでお題を出していきます。たとえば、みんなで流子を描こうって決めたら、一定時間ひたすら流子だけを描き続けていく。その後、それぞれの描いたものから、その目の形がいいとか、その髪とか、ハイライトの形が、なんてディスカッションして絞っていく。そして、いろんな要素が揃ったところで担当のデザイナーさんに投げる。その中で僕はああでもない、こうでもないって好き勝手に口出ししていくという(笑)。
悩みのポイントが出ると作業が止まってしまうので、とにかくアイデアを投げ続けていきました。
───この打ち合わせは放送が始まっても続くんですか?
若林 「グレン」のときは中盤で全キャラが成長してしまう関係で、制作中盤にもかかわらずまた新しいアニメを作れるくらいの設定量が必要だったんです。なのでオンエア中も現場作業と常に追いかけっこ状態でしたね。たしか最終回の作画作業に入ったときもまだ設定をやっていましたよ。
───なんと……、スタッフの作業量もすごいことになっていますね。
若林 吉成さんは、はじめの頃はデザイン画に色をつけてきてくれたので、それを色彩設計さんに渡してアニメ色に調整してもらって色を決めていたんですけど、忙しくなるにつれてそれもできなくなって。
そこで、僕の中のロボアニメ好きの血が騒いだのか、頼まれてもいないのに勝手に設定に色を塗って、今石さん、吉成さん、コヤマ(シゲト)さんに「こんな色だったらかっこよくないですか?」って20パターンぐらい出したりして(笑)。
───すごい!何もないより、提案があるほうがいいですよね!
若林 今考えると迷惑な話ですよね(笑)。でも、自分がアイデアを出せば、その後の作業が円滑に進むなっていう思いもあったんです。色のイメージだけ決めれば、色彩設計さんもラクだろうし、その中で選べたらチェックも早いとなって。最初は吉成さんに「センスなさすぎ」とか言われたんですけど(笑)、少しずつ吉成さんや今石さんの好みを把握して「これとか好きですよね?」って進めて行くうちに徐々にコツがつかめていったんです。もちろん、最終的な色はプロの方にお任せなので、ベースのところだけですが。

───他に「グレン」での思い出ってありますか?
若林 制作初期の頃、主題歌の中に錦織さんと僕がすごく気に入った曲があって、勝手に主題歌になると勘違いして、「グレン」の11話「シモン、手をどけて。」のカッティングロール(ラフの絵のロール)に「このシーンに主題歌かかっちゃうよね〜」とか言って、その曲をつけて盛り上がってたんです。そしたら、ちょうど後ろの席にいた今石さんから「主題歌は違う曲になったよ」って言われて、2人で「えーーー!」って(笑)。でもその後、ロールを見た今石さんが気に入ってくれてそこから「happily ever after」という挿入歌が誕生することになったんです。

構想期間は数時間だった「パンティ&ストッキング」

───続いて「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」(以下、パンスト)でがは、コンセプトプランナーという役職ですね。
若林 要するに言い出しっぺみたいな感じです。「グレン」の最終話の放送の翌日に、デザインチームや大塚(雅彦)さんたちと打ち上げ旅行に行ったんですよ。
その旅行先で酒を飲みながら「次、アニメを作るとしたらどんな作品にする?」っていう大喜利みたいなノリになって。僕は「金髪でビッチでセレブな女の子とゴスロリな女の子の姉妹バディものがやりたい」って言ったんですよ。そしたら今石さんが紙とペンを出してきて「へえー。その子たちはなんて名前なの?」って。
───飲み会の最中ですよね!?
若林 皆ほろ酔いでしたね(笑)、「姉で金髪がパンティちゃん。ゴスの妹はストッキングって言って、パンティ&ストッキングってコンビを名乗って戦うんですよ」って言ったんです。そしたらコヤマ(シゲト)さんがぐっとノッてきて「ってなるとさ、それって(武器は)何で戦うの」と聞いてきて。「ビッチの方は銃ですね」って答えたら「そうなるとパンティが持つわけだから銃の名前はバックレースになるよね」って(笑)。
───みんながノッてきていますね。
若林 そこで僕が「実はまだ言ってなかったんですけど、この2人は天使なんですよ。天使は世界共通のヒーローだ」みたいなことを言ったら、「えーー!いまさら天使と悪魔かよ!(笑)」なんて笑われたんです。でも皆ノッてるんで、「じゃあ天使は何をしているの?」って聞いてくるわけですよ。で、そこから「地上でゴーストと戦ってて……」って感じでどんどん話し続け、セレブだからハマーに乗っているとか。そしたら吉成さんがハマーの絵を描き始めて、コヤマさんが「パンティとストッキングが乗る車はシースルー、スケスケの感じだよね」って(笑)。
───ここでキャラや設定も完成したんですね。
若林 「なんか企画1本できちゃったから、会社に戻ったら企画書にするんで、提出していいですか」って言ったら、「じゃあ出してみる?」となってスタジオに提出したんですよ。構想期間、数時間の企画を(笑)。
───若林さんの中で温めていた企画だったんですか?
若林 僕が当初考えていたのは、海外ドラマっぽいノリでしたね。初めカートゥーンノリの作品がやりいとも思ってたんですが、日本では無理だろうなって諦めてました。でも、結果はあの通り。まさかカートゥーン調のアニメが作れるとは夢にも思ってませんでしたね。あとは、当時は美少女アニメ全盛期で、アニメファンが女の子キャラの処女性にすごく敏感に思えたんです。僕も当然美少女キャラが大好きなんですが、ビッチな女の子でもその仕草や立ち振る舞いによっては萌えられるんじゃないかと思っていたんです。だから自分が作品を作る立場になったら、あえてビッチな女の子を主役にしたアニメを作ってみたいとは思っていましたね。
───ロボットアニメ好きだけど、それはやりきった感じだったんですね。
若林 スタジオとしても「グレン」のようなカロリーの高いアニメを連投する体力は残ってなかったし、あのクラスの作品を作るにはまた数年かかってしまう。実は「パンスト」って半年ぐらいでさっと作ってしまいたかったんですよ。構想数時間の企画にそんなに時間をかけてもしょうがないでしょって(笑)。でもその後「グレン」の劇場版を2本制作することになって、平行して企画会議を続けたらそのうちみんな超本気になってきちゃって(笑)。で、結果「パンスト」も全力投球となってしまったわけです。

“作品”というよりも、「グレン」のチームで作りたい

───みんなのアイデアが詰まった分、思い入れもあり、本気になってしまったわけですね。
若林 「パンスト」があのクオリティで制作できたのは「グレン」で役割分担ができたからなんです。実は本音を言うと、僕は作品を作りたいというよりは、「グレン」で良いチームワークを発揮したメンバーが、作品が終わったことでバラバラになるのがもったいないって思っていたんです。なんとかこのメンバーをとどめさせる手はないものかと考えたところ、全く同じチームで新しい企画を立ち上げたら、このチームでやらざるをえないかなって思って。
───「パンスト」を作るというよりは、このチームで作りたいっていう思いが強かったんですね。
若林 今思い返しても「パンスト」はこのチームじゃなきゃできなかったと思いますね。完全に分業でやっていましたから。監督がチェックしなくて、それぞれのメインスタッフがOKを出せばGOできるっていう。もちろん中核は今石監督がコントロールしていたんですけど、監督が1人に対して副監督が5人みたいな気持ちでしたね。
───「グレン」の仕事でみなさんが信頼を得ていたんですね。
若林 各々別で拘りたい部分があったのでそこは各人が責任もってやろうと。あと絵柄もですが、人によっては理解しがたい内容も多かったんで……(笑)。メインスタッフじゃないと判断できない部分が多かったってのもありますね。

「キルラキル」を作りながら、TRIGGERにいて目指すもの

───もちろん「キルラキル」は最初から最後まで全力投球でいくわけですが、今後の目標や目指すものはありますか?
若林 「キルラキル」以降も、今石作品を好きだった人たちが喜んでもらえるラインは当然残しつつ、「この人たちがTRIGGERで!?」みたいな意外性のある座組や内容の作品も考えていきたいですね。ガイナックスからの派生会社っていうイメージを、良い意味で裏切っていきたいです。そこからTRIGGERの新しいカラーを作っていけたらといいなって。
───最後に、TRIGGERに入って良かったことってありますか?
若林 ありますよ!スタジオから駅まで徒歩3分なんです!
───えっ!!それで終わっていいんですかっ(笑)。
若林 え!?だってガイナックスは駅まで徒歩20分だったんですよ!?(笑)

(小林美姫)

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マチアソビで「キルラキル」第3話をテレビ放送に先がけて上映決定!
上映後にはスタッフトークショーもあり!
出演
中島かずき(シリーズ構成・脚本)
大塚雅彦(TRIGGER代表)
日時
10月12日(土)14:30~15:30
場所
ufotable CINEMA