新宿・花園神社の大酉祭。境内に恒例の見世物小屋がやってくる。

二の酉前夜祭の11月14日。七時すぎに花園神社に向かうと、明らかに奇妙な雰囲気の一角がある。
見世物小屋の入口には幕がかかっている。中の様子は、隙間から見える観客の表情と、漏れて聞こえる声からしかわからない。「……埼玉県の山中で捕獲された蛇女……」「……串を刺しているー!……」超気になる! どんどん観客は中に入っていく。その度に鳴らされるドラ。

小屋の中は超満員。観客の中には制服を着た女子高生やベビーカーで幼児を連れた家族連れの姿もある。見世物小屋は入るのはタダだが、出るときに料金を払う。演目はぐるぐる順番に行われるので、一周したらお金を払って出て行くシステムだ。小さめの教室くらいの大きさの小屋に、人が入れ替わり立ち替わり。
川口弘っぽい格好をした司会が「次は逃げ遅れた病気老人の登場だー!」と煽る。
照明が落ち、ビカビカ点滅するライトが当てられる中で、逃げ遅れた病気老人、通称病気マンが登場した!
病気老人はその名のとおりめっちゃ病気の老人で、ありとあらゆる内臓系の病気にかかったために臓器が穴だらけ。余命いくばくもないらしい。なるほど髪もまだらにハゲているし肌に発疹が出まくっている(でもちょっとそれ、マジックで描いたっぽくないか?)。
司会が「元気ですかー!?」と聞く。「元気………じゃ、なーい!!」叫ぶ病気老人。そのあとに内臓穴だらけの特性を生かした(?)芸を見せてくれたのだが、それについては伏せておこう。ちなみに最後まで、「どこから逃げ遅れたのか」が明らかになることはなかった。

今年の酉の市で興行を行っている団体は、例年やってくる大寅興行社(日本で最後の見世物小屋といわれている一座)ではなく、ゴキブリコンビナート(アングラすぎる小劇団)。許可の問題などで急遽変更になったようだ。鳥や蛇を食べたりといった芸は今年に限ってはない(一部、人によってはキツいものもある)。
14日の演目は、へび女、特別ゲスト串を刺した中国人、逃げ遅れた病気老人、メコン川流域の首狩族、ジャングルウーマンアマゾネスピョン子。日によって変わる(15日には、「巨大な寄生虫を体に飼う男」が追加されていた)。

おどろおどろしい雰囲気ではなく、終始ハイテンション。小屋を出て冷静に考えると「あれ相当ヤバイことやってんじゃないの?」と気づく。境内をうろうろしていると、ちらほらと見世物小屋の話が聞こえてくる。「ギャルっぽくてかわいいアマゾネスピョン子ちゃんってのがいてさー」「なにそれ?」わかる(アマゾネスピョン子ちゃんは超かわいい)。誰かに話したくなってしまうんだよなー。

見世物小屋は虚構空間だ。川口弘探険隊のようなもので、メコン川流域の首狩族が本当にいるとは思っていなくても、見世物小屋の中にいるときはとりあえず信じてみる。インターネットで調べれば病気マン(逃げ遅れた病気老人)の実際の年齢を知ることもできてしまうのだが、それを指摘するのは野暮。すすんで騙されて芸を楽しむ。ここだけは昭和88年なのだ!

今年見世物小屋を見られる最後のチャンス、花園神社三の酉は11月26日(火)と27日(水)。興行は夕方六時くらいから始まる。大人800円、小人500円、幼児300円。
お代は見てのお帰りに。
(青柳美帆子)
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