藤圭子は1969年に「新宿の女」でデビュー、3枚目のシングル「圭子の夢は夜ひらく」が累計120万枚という大ヒットとなった。まだ10代の黒髪の少女がドスを効かせて歌う「怨歌」は、日本中に一大旋風を巻き起こした。ファーストアルバムとセカンドアルバムが続けて37週連続オリコン1位という空前の記録を残したというのだから、当時のインパクトがいかに大きなものだったのかがよくわかるだろう。
藤圭子と宇多田ヒカルは親子だけあって驚くほど符号する点が多い。10代でデビューして大ヒットを飛ばし、日本中をセンセーションに巻き込んだのも同じなら、19歳で結婚して4年間で結婚生活に終止符を打ったのも同じ。歌手活動を休止したのも同じ28歳のときである。
沢木耕太郎のノンフィクション『流星ひとつ』は、藤圭子が28歳で芸能界を引退する際、数回にわたって行われたロングインタビューをもとに構成されている。当時、原稿は完成していたものの、沢木の考えによって封印されていた「幻の作品」だ。今回、藤圭子の死を契機に30年以上ぶりに陽の目を見たということになる。
『流星ひとつ』を藤圭子のことを描いたノンフィクションだと思って読み始めると、少し面食らう。本書の最大の特徴は、いわゆる地の文章が一切ないところである。本書の解説にあたる「後記」以外300ページにわたって、高級ホテルの40階にあるバーで語らい続けた、2人の会話のみで進んでいく。