籍は入れていないものの、長いこと同棲している事実婚状態を「フランス婚」と呼ぶことがある。最近結婚した浜崎あゆみさんも、1回目に結婚していた男性とは籍を入れていないフランス婚だったそうで、先月最終回を迎えた人気ドラマ『リーガルハイ2』第6話でも、一妻多夫の事実婚を営む家庭の夫の1人が、フランスかぶれのキャラクターで描かれている。


この「フランス婚」という言葉、どうやらフランスの哲学者サルトルと女性作家ボーボワールが実践した「ユニオン・リーブル(内縁関係:直訳では自由な結びつき)」のイメージから、日本で派生したものらしい。では、実際フランスの結婚の形とはどのようなものなのか。

フランスには選択肢が3つある
まず知っておきたいのが、フランスには下記の通り、3つのカップルの形があるということだ。
(1) 日本のように婚姻関係を結ぶこと。
(2) パックス(PACS:連帯市民協約)という、青年に達した2人の個人間で安定した持続的共同生活を営むために交わされる契約のこと。
(3) ユニオン・リーブルという婚姻関係もパックスも結ばない、法的手続きを踏まないつながりを持つこと。
日本で言われている"フランス婚"とはこれにあたる。

6月にオランド仏大統領が来日した際にファースト・レディとして扱いを受けたバレリー・トリルベレールさんは、オランド大統領とユニオン・リーブルの関係であり日本のメディアを賑わせたことは記憶に新しい。それでは、各カップルの割合はどれくらいなのだろうか。

仏国立統計経済研究所の調べでは、2011年時点で3175万人のカップル(婚姻/パックス/ユニオン・リーブルの関係:調査年では後者2つのみ同性間含む)がおり、その内、婚姻関係は2320万人(全体の73.1%)、パックスは138万人(4.3%)、ユニオン・リーブルは717万人(22.6%)だそうだ。その中には何らかの理由で居を別にしている人もおり、その割合は婚姻関係20万人(全体の0.6%)、パックス2.3万人(0.1%)、ユニオン・リーブル109万人(3.4%)となる。つまり住まいを別にするカップルは、ユニオン・リーブルの割合が高い。


フランスで同性間カップルは19.8万人おり、その内パックスは8.6万人(全体の43%)、ユニオン・リーブルは11.3万人(57%)になるという。そして男性カップルは11.6万人、女性カップルは8.2万人と、全体の約6割が男性カップルだ(2013年にフランスでは同性婚が認められたが2011年時点では制度化されておらず、同性間カップルの選択肢はパックスかユニオン・リーブルのみ)。

結婚とパックスの違い
パックスでは税控除や財産権など結婚と同じような法的権利を得られるが、なぜ結婚とパックスという2つの制度が併存しているのか。なぜならパックスは、結婚が認められなかった同性間カップルのために、作られたことに端を発するからだ。まず異性カップルが結婚によって受けられる法的権利を、同性間カップルが受けられないのは不平等だ。そしてパックスができる以前の法制度では、同性間カップルでパートナーが亡くなった場合、残された伴侶は長年連れ添ってきたにも関わらず、法律上は他人として扱われる。


このような理由から、パックス制度が始まった当初は4割強が同性間カップルだった。しかし現在では異性間のパックス締結が、全体の9割を占める。離婚率が高いフランスで、パックスは契約破棄に両者の同意は必要なく、その簡易さがカップルの1つの形として急速に受け入れられていった。日本の場合、離婚は役所に離婚届を出すだけで成立するが、フランスでは必ず裁判官により審理が必要となる。そのため日数と費用もかかる。

捉え方も人それぞれだ。
いずれは結婚するつもりでパックスを結婚までのステップと考えている人や、今後も結婚は考えず、パックスのままでいるつもりの人など、「こうすべき」という考え方はなく、お互い意見や状況により使い分けている。またパックス、ユニオン・リーブルのいずれにせよ、日本のように結婚以外の選択だと周囲から好奇の目にさらされるということも、ほとんどない。

姓は最大4つ選択肢がある
結婚もしくはパックスを結ぶと、姓はどうなるのか。まず結婚の場合、パートナーの姓を名乗るか、自分の姓とパートナーの姓を並べた複合姓を名乗れる。一方でパックスは結婚してもパートナーの姓は名乗れない。子供は両親がどのような関係であれ、父方、母方もしくは両者を合わせた複合姓を名乗る権利がある。
複合姓を持つ子供同士が結婚する場合は、4つの中から1つ、もしくは2つを選んだ複合姓を名乗れる。ただし父親が認知していない場合、父方の姓は名乗れない。

フランスはカトリックに基づく家父長制度の影響が強い国の1つだ。そのような中、少しずつさまざな選択肢が社会で提案され、広げられてきた。これら結婚の形を日本に持ち込む場合、賛否両論あるだろう。しかし変化していく社会の中で、よりよい可能性を探るという点では、選択肢があることは決して悪いことではないはずだ。

(加藤亨延)