後編は大塚さんの古典の読み方から、「鬱のときはこの古典」などの処方箋をお尋ねしていきます。
大塚さんは『源氏の男はみんなサイテー』『愛とまぐはひの古事記』『快楽でよみとく古典文学』など、古典と性愛について書いていることが多く、読んでいて刺激的。どうやったらそういう読み方が身につくんでしょう?
──大塚さんの古典の見方は、「エロい!」と思うところが多い。こんなに古典には性のことが書いてあるんですね。
大塚 『宇治拾遺物語』なんて、色々とすごいですよ。「あげおろしさすれ」(※ナニを)とか「すはすはとうちつけたり」(※ナニを)とか。中学時代、古典にはまって、勉強してる気分だけど中身はエロ・グロだったりするから、なんとも言えない悦楽がありましたね。あと、私、ちょっと生きづらさがあって。古典を読んで初めて、「自分の居場所を見つけた」という感じがあったんです。
──生きづらさ?
大塚 いろいろ、ありますよね〜。心身症といえばいいのか、病気なんだが……。うちって、アメリカ帰りの母方祖母が君臨する「女が強い」家で。祖父が日本郵船に勤めていた関係で母方一家は戦前、上海やニューヨークに住んでいたんですが、戦後、祖父が死んで以来、母方祖母が母を含む四人の子を育て家をまとめてきた。
──今と違うようでいて、こっちのほうが本当。
大塚 古典は、千年何百年って残ってるから当たり外れがない。絶対面白い。そのうえ、いいお母さんとか良き家族とかが「幻想」だってわかって楽になるんですよ。「あー、昔からそうだったんだ」って。生きづらかったりダメなのは、人間の基本。読むとわかる。
■本当はひどかった昔の日本
──今月17日、新潮社から『本当はひどかった昔の日本』を出版されますね。
大塚 「昔は良かった」の大嘘を暴く本です。たとえば、大阪で二児餓死事件がありましたよね。「現代の闇」みたいに言われるけど、平安初期に書かれた日本最古の仏教説話集『日本霊異記』にもおんなじような話があるんですよ。
──子供を飢えさせる母親の話。
大塚 そうなの。若い母親が複数の男と毎日のように遊び歩いて、子供たちを長いこと放置して乳を与えなかったので、子供が飢えてしまった。似たような話っていっぱいある。捨て子とか子殺しとか日常茶飯事。あと、ベビーカー論争とか、飛行機で子供が騒いで鬱陶しいとか、いろいろ話題になったじゃないですか。あれのもっとひどいバージョンがあって。江戸時代初期の説経節の「苅萱」には、「夜泣きがうるさいから子を捨てろ」って迫られて、子供を木の根元に生き埋めにしちゃうお母さんも出てきます。
──ひ、ひどい……。
大塚 ストーカーも、少年犯罪も、動物虐待も、ざくざくある。でも、一方で、たくましい日本人の姿もある。まあ……昔から人間って、ほっとくとそういうもんだっていうのかな。「みんなが母性本能があるわけじゃなくて、殺しちゃったり放置するような母親もいるのがデフォルトなんだ」って、昔のエピソードからわかります。
──つらいような、ほっとするような、複雑な気持ちです。
大塚 ほっとけば人間は虐待もすれば残酷なこともする。でもそれを責めるだけじゃ何も解決しない。そこから出発するということです。もちろん全部昔の悪口っていうわけではなくて、そうした先人の過ちとか犠牲の上に、今の私たちの安全があると思ってます。
■鬱のときはこれを読め!
──今を生きづらい人は、古典の世界で楽になれる。会社や学校で鬱になりそうなとき、なにがおすすめですか。
大塚 鬱の時は『古事記』がいいですよ。
──なんとなくわかります。『サウスパーク』とか『ハッピーツリーフレンズ』を見ているような。
大塚 そのときの気分によって選べばいいんですよ。あまりにも喪失感が強すぎる時は、『方丈記』とか中世の説経節。
(青柳美帆子)