「ロングライフデザイン」をテーマに、日本各地に拠点をおき、それぞれの地域で長く愛される普遍的なデザインを紹介してきたショップ「D&DEPARTMENT」。2013年11月には、初の海外店舗となる韓国ソウル店「D&DEPARTMENT SEOUL」が、韓国のデザイン会社・MILLIMETER MILLIGRAM(ミリメーターミリグラム)の運営により登場した。
日本発の機能的な生活雑貨・家具を始めとし、韓国におけるロングライフ商品も紹介し、話題を集めている。彼らが提案する、韓国ならではの良いものとは? 梨泰院(イテウォン)エリアにあるソウル店を訪れ、お話を伺った。

韓国発のアイテムで最も人気なのは、白いあかすり用タオル(1500ウォン)。韓国ならではの商品だが、よく売られているのはピンクや緑ばかりで、白いものは珍しい。通常は、糸を染色した後に編み上げるのだが、生産者にその工程を省いてもらい、ここだけのオリジナルエディションとした。
「あかすりタオルは、1960年代に釜山のとある発明家が作りました。
その会社は現在なくなり、当時からライバルだった別会社の商品を、ここで販売しています。あかをするという用途がユーモラスですよね」と話すのは、リサーチディレクターのチェさん。

その横に陳列された、レトロでかわいらしいプラスチック製のお皿(3000ウォン)も印象的だ。これは1980~90年代、トッポッキ(餅を甘辛いソースで煮た、屋台でよく見かける料理)を盛るのに必ず使われたお皿だという。
「ある年代の人は、トッポッキといえばこの形を連想します。大理石を模して作られた合成樹脂の商品ですが、当時は斬新なデザインだったようです。」

懐かしい雰囲気の万年筆は、APIS(アピス)という釜山のメーカーのもの。

「1950年代に韓国で初めて万年筆を作り、李承晩(イ・スンマン)大統領にも納品した会社です。現在、韓国で万年筆の生産施設を持っているのはここだけ。万年筆にはたくさんの部品が必要で、手工芸に近い作り方をするんですよ。」

これらの商品は全て韓国国内で作られたものだが、現在韓国で出回っている一般的な工業製品のうち、70~80%が中国産だという。韓国ならではの商品である、あかすりタオルもトッポッキのお皿も、コストカットのために中国で生産されたものがほとんどで、韓国に工場を構える企業は数えるほどしかない。
「国産品でなければいけない、というわけではないのですが、地域の生産者がいなくなれば、技術もなくなってしまいます。直して長く使うこともできません。
見た目と値段だけで商品を購入するのは、正しいことではないだろうと考えます。」

工業製品の他には、地方都市の潭陽(タミャン)で作られた竹製のカゴなど、職人の手による作品も紹介されているが、減少していく地域の生産者を知ってほしいという思いは同じだ。
「これは80代中ごろの職人さんが、60年以上作り続けているものです。潭陽は最も有名な竹祭りが行われる町なのですが、そこでも地元の職人が手がけたものは少なく、価格の安いベトナム製や中国製のものが出回っています。」

他にも、40~50年前にはどの家庭でも使っていたという鉄釜、韓国で最も古い合成樹脂メーカーによる業務用プラスチックボックス、懐かしのビール会社のロゴがあしらわれたビンテージのビールグラスなど、韓国産の昔からあるアイテムが並ぶ。見た目のデザインに素朴な味があるだけでなく、それぞれの商品に歴史や物語があり、お話を聞けば聞くほど、ぐっと愛着を感じることができた。これらのアイテムは韓国旅行のお土産にも良いだろう。

経済成長が短い期間で行われ、古いものが失われてきた変化の早い韓国において、昔ながらの埋もれていたデザインにスポットライトを当てる彼らの試みは、国内の消費者にも新鮮な驚きをもって受け入れられている。

「ラインナップはまだ十分ではありません。韓国に紹介できる、D&DEPARTMENTの目的と合った商品を引続き探し出し、生産者を紹介していきたいですね。また、ものを売る場だけではなく、ものにあるストーリーを共有できる場になればと考えているので、勉強会や、地域の人たちと一緒に行うイベントも企画したい」。
今後、D&DEPARTMENT SEOULの棚にどんなロングライフ商品が並ぶのか。これからの展開を楽しみにしたい。
(清水2000)