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替え玉? 自殺? アメリカの謀略? 戦後最大級の未解決事件・下山事件2

佐藤は2009年に87歳で亡くなるまで下山事件研究に一生を捧げた。遺著となった『「下山事件」謀略論の歴史』(2009年)では、前出の柴田哲孝『下山事件 最後の証言』をはじめ諸永裕司・森達也らの謀略論を、苛烈ともいえる筆致で批判している。

佐藤の各著書を読んでいて痛感したのは、歴史的事件というのは、その背景にあるものをさまざまな視点からとらえながら、あらためて位置づけなければならないということだ。彼のそうした姿勢はとりわけ、下山事件の検証においてあまり顧みられてこなかった、事件当時の国鉄労働組合および全逓信労働組合の人員整理反対闘争の実態に迫った『戦後史検証 一九四九年「謀略」の夏』(1993年)に顕著である。

下山事件の前後には、政策にもとづく人員整理に対し、国鉄内で反対闘争が起こったものの、けっきょく計画どおり10万人近い職員が削減され、闘争は沈静化していった。この闘争に際しての日本の反体制勢力の対応を、佐藤は次のように批判している。

《国鉄労働組合をはじめ日本の左翼、進歩的勢力が、それにどう対抗すればよかったのか、方針や闘争態勢の整備を具体的に検討したという話は一度として聞いたことがない。聞こえてくるのは、労働者や進歩勢力が強力な闘争を組織すると、権力の座にあるものは必ず謀略事件を仕組む、それが「日本の黒い霧」であり、「下山事件」であったという話だ。だから、表面的には勇ましくても、その裏ではたえず、そういう闘争は避けようと、優しくささやく声がある》(『戦後史検証 一九四九年「謀略」の夏』)

この一文からは謀略論の危うさも読み取れる。それは何も昔の労働運動や左翼運動にかぎらず、現在のあらゆる社会運動にも当てはまりそうだ。自分たちの方針や手法もろくに検討しないまま、為政者(にかぎらずアメリカでも現在の中国でもいいが)の力を過大に見積もって、必要以上に恐怖を煽ることは、かえって相手を利することになってしまうのではないか。下山事件から私たちが学ぶべき最大の教訓は、これに尽きるように思う。
(近藤正高)

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