全国約4000チームの頂点に立ったのは大阪桐蔭高校。
いや、甲子園に出場することができた49代表の高校も、ある意味では勝者だ。
一度は各地区大会において歓喜の輪を作ることができ、憧れの甲子園の地を踏むことができたのだから。
全国には、地区大会決勝で敗れて涙を流した者、初戦で敗れたった1試合の公式戦出場で高校野球が終わった者、背番号をもらえずグラウンドにすら立てなかった者……さまざまな高校球児たちがいる。数でいえば、負けた選手、試合に出られなかった球児達の方が圧倒的に多い。
だからこそ高校野球ファンは地方予選から熱視線を送り、「速報!甲子園への道」や「熱闘甲子園」に夢中になる。勝ったチームの喜びの声はもちろん、負けたチームの物語も知りたいから。
甲子園大会が終わった今、そんな「高校球児たちの物語」にもっと触れたいという方にオススメなのが『甲子園だけが高校野球ではない』シリーズだ。
2010年に最初の本が発売され、これまでシリーズ累計19万部を突破。この夏にはシリーズ3作目となる『最後のプレイボール~甲子園だけが高校野球ではない~』も発売されている。
本シリーズで描かれる登場人物は、ケガで試合にも出られなかった者、プレーができなくなってマネージャーの道を選んだ者、東日本大震災によってチームを失ってしまった者、どうしても勝つことができない野球部監督、などなど、さまざまな立場の「甲子園に縁がなかった野球人」たちだ。
大甲子園を舞台に満員の観衆のもとでプレーし、それが全国放送される球児たちを見続けているとつい麻痺してしまいがちだが、彼ら「甲子園球児」たちのエピソードは「特殊事例」である場合が多い。
昨今話題の「高校球児はどうあるべきか」や「マネージャーの役割とは?」「監督に必要な資質は?」といったテーマは、甲子園での事例を持ち出すよりも、「一般の高校球児」たちのことも理解した上で発言すべきであり、本書がその参考になるのではないだろうか。
たとえば、今回の甲子園で話題となった「おにぎりマネージャー」の件では、マネージャー業務を“やらされている”“男女差別”といった点から言及したコメントも散見していた。だが、本シリーズにたびたび出てくるマネージャーたちのエピソードを読めば、男性マネージャーの存在を知ることができるし、主体的に動くマネージャーたちが大勢いることも理解できるはずだ。
シリーズ監修を務める岩崎夏海も、甲子園には出てこない「負けた球児たち」「普通の高校生たち」の存在の大切さを、これまでのシリーズの中で何度も記している。
《高校野球は、単なる三九九九の「負け」の集積ではないのである。それは、三九九九の学びの集積でもあるのだ》
《甲子園出場を最低目標とする選手もいれば、勝つことさえ望まない、「試合に出られればそれで満足」という選手もいる。それらは、どちらが上でどちらが下ということはない。それぞれに喜びや悲しみがあり、またそれぞれに栄光と挫折がある》
《甲子園だけが高校野球ではない。人生は、その後も続く。確かに、甲子園はすばらしい場所だ。
甲子園大会が終わっても、高校野球の季節は終わらない。
各地では既に新チームによる試合がスタートし、日々ボールを追う日は続く。
最後に、岩崎夏海のコメントを本書からもうひとつ。
《たかが野球。されど野球。そこに参加する人の人生が透けて見えるから、高校野球は見る人の感動を誘うのだ》
(オグマナオト)