先週末から早くも、新チームによる秋季大会がいくつかの地域で始まっている。
3年生が向け、新チームはまだまだ未知数なところばかり。
そういえば、全国を制した大阪桐蔭も昨秋の新チーム発足はコールド負けだったというから、全国の球児たちにも伸び代はたくさんある、ということでもある。
メンバーが代替わりする一方で、変わらないのは監督だ。
もちろん、退任や異動などで監督が刷新されることもある。だが、名門チームの監督ほど変わることは少なく、それゆえ、監督の個性や指導方法がその学校(野球部)のDNAだったりする。つまり、監督のことをよりよく知れば、さらに高校野球は楽しめるということだ。
そこでオススメしたいのが『野球太郎No.010 高校野球監督名鑑号』。
レジェンド木内幸男監督(元常総学院)や田中将大を育て上げた香田誉士史監督(元駒大苫小牧)のインタビューなど、いわゆる強豪校・有名校の監督についての特集はもちろん充実。春のセンバツを制した龍谷大平安の原田秀彦監督、夏の甲子園を制した大阪桐蔭の西谷浩一監督という、今年の「日本一監督」を特集したノンフィクションからは、優勝につながるさまざまなキーワードが見えてくる。
ユニフォームの細部のデザインにまで徹底してこだわる平安・原田監督の意外な多趣味ぶり(ディスコ、音楽、車、宝塚、花……)は、風貌とのギャップも相まってちょっと楽しい。そういえば、高校野球漫画『砂の栄冠』にも宝塚観劇という変わった練習が描かれていた。あれは原田監督がモデルだったのだろうか?(ちなみに、本書には『砂の栄冠』の作者・三田紀房インタビューも収録されている)。
一方の西谷監督にしても、指導法の原点には大学時代に学んだ「仲間とのチーム作り」があった、というのは、豪快で大胆なだけじゃない、緻密できめ細やかな大阪桐蔭野球に通じる部分があってとても腑に落ちる。「組織はやっぱり人です。みんながチーム作りに参加したら、すごく強い集団になるんです」という西谷監督の言葉は、どんなチームであっても参考にできる考えではないだろうか。
ただ、本書が他の野球雑誌と違うのはむしろこれ以外の特集にある。
というのも、全国49地区をひとつずつ丁寧にさらい、代表的な監督とその対抗馬や若手有望株、相関関係などをチャート化して分析しているから。自分の出身地はどんな「監督相関図」で高校野球が紡がれているのか一目瞭然なのだ。甲子園出場監督だけが名将ではない、という着眼点は正しくもあり、そしてマニアックすぎる。
たとえば私の地元、福島県の名将といえば斎藤智也・聖光学院監督。今夏の甲子園でもベスト8に進出し、県内8連覇はもうお見事としか言いようがない。
その聖光学院に追いつき、追い抜きそうなのが日大東北高であり、指揮を執る中村猛安監督は大阪の超名門・PL学園高校野球部の出身。そして実の父はPL学園の黄金期を築いた、甲子園通算58勝の中村順司監督だ、というのは福島県民であっても知らない人の方が多いハズ。福島の野球にもPL学園のDNAが今後広まっていくのかと思うとなんだかワクワクしてしまう。
あなたの地元の監督相関図はどうなっているのか、じっくり読み込めばビックリする関係性も見えてくるかもしれない。今後数年に渡って活用ができる永久保存版であるのは間違いない。
まあ本書で一番ビックリしたのは、ドラマにもなったノンフィクション『弱くても勝てます』の開成高校・青木秀憲監督と作家・高橋秀実との特別対談で飛び出した青木監督の言葉なんですけど。
青木:あの、僕『弱くても勝てます』とは言ったことも思ったこともないんです(苦笑)。どちらかというと「強くなくちゃだめだ!」と思っているんで……。そこは読者の方の誤解を解かないといけませんね。
えぇぇ、ニノの立場は!?
(オグマナオト)