11月8日に発売された『一生リバウンドしない 奇跡の3日片づけ』。著者はこれまで300軒以上の家を片づけてきた「大阪のカリスマ片づけアドバイザー」石阪京子さんだ。

この本のメッセージは、「部屋は3日で片づく!」というもの。クローゼット、水回り、リビングをきれいにすれば、部屋は片づいていくのだそう。……ほんとに?
私の部屋はいわゆる汚部屋で、過去何回も片づけに大失敗してきている。はたして、こんな私でも部屋をきれいにできるんだろうか……。そんな不安を持ちつつ、著者の石阪京子さんにインタビューしてきた。


■なりたい自分をイメージ→クローゼット全部出しで部屋はキレイになる

──300軒の家を片づけてきた石阪さん。
どうすれば、家はキレイになるんでしょうか?
石阪 片づけに取りかかる前に、「自分が何を一番大切にしているか」「どんな自分になりたいか」イメージしてみるのが大事です。片づけレッスンでも、掃除を始める前に、一時間くらい「どんなことで困ってるの?」「どんな暮らしがしたいの?」とお話をします。みなさんいろんなお悩みを抱えている。子どもの受験や旦那さんとの関係、介護の苦労や家事への苦手意識……そういうものが解決するのが片づけのゴールです。
──そのイメージを固めてから、掃除を始めるんですね。『奇跡の3日片づけ』には、「クローゼットの中身を全部出すことから始めよう」とあります。
なぜクローゼットから?
石阪 イメージができても、いきなり「じゃあリビング片づけましょう!」だとやっぱりつまずいてしまう。押入れやクローゼット、納戸部屋から始めてもらいます。そういうところにはいらないものがいっぱい詰まっていて、みなさん忘れているんですね(笑)。
──アッ、ハイ。
石阪 そこを捨てていって、「捨てること」に対する罪悪感を減らしていきます。バックヤードを片づけていくと、物への執着がだんだん取れきます。
空き箱、まったく着なくなった洋服、すぐに捨てられるものがいっぱい出てくる。それを捨てていくと、気持ちよさを感じて、片づけが一気に加速します。重荷を、足枷を取ってもらうと言っています。
──自分の「捨てられない」という気持ちを断ち切る。
石阪 はい。みなさんね、片づけようと思うと「おじいちゃんが大事にしていた花瓶があってうちは片づかないんです」とか「母の形見の着物や指輪がたくさんあって……」っておっしゃる。

──ああ、うちにもいろいろそういう謎の物があります!
石阪 でもそんなのね、ちょっとしかないんですよ(笑)。それよりももっといらないものがある。使ってないタオルや、高かったけど着ていないお洋服。もったいないなーと思うなら、今はボランティアへの寄付や買取という手段もあります。
──「全部出す」というと、反射的に「うわぁ」となるのですが、どうして全部出すんでしょうか? いらないものだけ抜き出せばいいんじゃないかと思ってしまいます。
石阪 全部出すと把握できるんですよね。
よく生徒さんには「自分のせっかく買ったもの、把握してないのってもったいないと思えへん?」って言います。いったん、把握するために出す。そうすると、何も入ってないきれいな空間ができます。私も昔は、全部出さずに片づけをしていました。でもね、結果が全然違う。
──からっぽにしたほうが、最終的にきれいになるんですね。

石阪 からっぽな空間ができると、人って拭きたくなるし、掃除機かけたくなるんですよ(笑)。いわば「新築の時のクローゼット」を見ると「戻すものは綺麗に直そう」と思えます。
──どうしても全部出さなきゃダメでしょうか。実は、うちは物が多すぎて、全部出すことを考えると気が遠くなってきます……。
石阪 押入れやクローゼット全体じゃなくて、小さい引き出しから始めてもOKですよ!全部出してから戻す気持ちがわかれば、「次は押入れに行こう!」と思えるはずです。もし夕飯づくりなどで中断しなくてはいけないときは、またそのまま戻してもいいですし。
──それを聞いて、ちょっと安心しました!(笑)


■今日からできる「3日片づけ」ノウハウ

──クローゼットが終わったら、次は水回り。それからリビング。
石阪 手放すことで身軽になる楽しさがわかれば、あとは早いですよー。水回りを片づければ、家事の導線がしっかり見えて、どうすれば家事が楽になるか気づきます。リビングや玄関はお客さん目線で片づける。そうすると、ホテルのような暮らしが待ってます!
──片づけって、こまごまとしたものにすごく困らされます。
石阪 本にはいろいろオススメの方法を紹介していますが、紙袋を使うのは便利ですよ。たとえば思い出の写真が、クローゼットやキッチンの引き出しからばらばら出てくることがある。それをうまく片づけられないときは、「思い出の写真」という紙袋を1つ作って、ひとまず出てきたものを入れるんです。考えるのはあとでも大丈夫。
──紙袋作戦はすごく便利そうです!
石阪 文房具が出てきたら「文房具」紙袋に、ドラッグストア系や試供品系が出てきたら「ドラッグストア」紙袋に集めておく。それだけでも全然、やっているのとやっていないのとは違う。把握できるので、「片づけている感」が出ますよ!
──ほかにできそうなことはあるでしょうか。
石阪 「定数量」を意識すること。片づけられない人はこだわりが強い。「このクリップを絶対使わないと気が済まない」「このペンじゃないとだめなの」「あの人に手紙を書くときにはこの封筒じゃないとダメ」と、物の数が多くなる。そういう人には、こだわりのものを定数量にすることをアドバイスしています。「クリップ300個いらんやろ、5個使い終わったらまた買えばいい」って。今はネットで頼めば次の日届くから、家の中をわざわざ倉庫にしなくてもいい。
──倉庫……(唸る)。
石阪 靴下とかハンカチも、たくさん持っている人がいますよね。
──黒いタイツとストッキングが20本くらいあります。
石阪 穴、空いてるのありません? そういうものを捨てて、5本にしぼってみる。5本をヘビロテして、ダメになったらすぐ捨てちゃう。空いたスペースにアクセサリーを収納すると、気持ちがいいですよ。片づけをしていくうちに、どんどん外見がキレイになっていく方っていっぱいいます。
──タイトルにもある「リバウンドしない」というのは、なぜなんでしょうか。
石阪 片づけ切るからリバウンドしないんですよね。家がどんどん変わってくると、自分自身の心が変わってきて、本当にやりたいことに挑戦できるようになる。オーブンを買ってもパン焼き器を買ってもやる気が出なかったけど、快適なスペースができればお菓子をつくるやる気が出てきます。そういう生活を送るようになると、どんどんスキルアップする。だからリバウンドしません。


■自分を変える・人を変える片づけ

──自分だけじゃなく、家族に変わってもらいたいと思っている方はきっと多いですよね。そういう人はどうすればいいでしょうか。
石阪 まず自分が変わることが大事。人を変えようと思ってもダメです。レッスンでも、自分から「片づけたい」と思って来る方のところにしか行かないです。夫や子ども、母を変えようとしても変わりません。年齢を重ねれば重ねるほど「これまでの人生コレでやってきたんだから、今更いいや」と思うようになる。
──自分が片づければ、本当に他の人が変わってくれるんでしょうか?
石阪 絶対変わります。六十代以上の方の場合は、娘さんが一緒にやってあげるのがおすすめ。「家族でやると喧嘩になっちゃう」と聞きますが、そんなことない。娘さんが「お母さん、できたね!」「お母さん、これいいよ!」「お母さんって、そういうふうに思ってたんや」って受け止めてあげると、お母さんが気持ちよくなって片づけるようになります。親子関係もよくなります(笑)。
──実際、そうやって年配の方の片づけに成功した例はありますか?
石阪 ある方はこれまで息子さんと2人で暮らしていて、今は大学生なのでそれぞれ一人暮らし。「息子さんを呼んで片づけましょう」と言ったら、息子さんが来てくれたんです。息子さんには自分の部屋をとにかく片づけてもらいました。息子さんが片づけだしたら、お母さんもすごくやる気になりました。「これ似合う〜?」「いや、それはオカンおかしいわ」みたいなコミュニケーションも生まれていた。
──片づけにはつらいとかめんどうといったマイナスのイメージがあるんですが、コミュニケーションのツールにもなるんですね。片づけをして変わった人について、もっと教えてください!
石阪 いっぱいいますよー。たとえば、子どもがみんな独り立ちしたあとで広々としたおうちに住んでいるのに、みんな物置みたいになっていて友達が呼べないお母さん。「どんな暮らしがしたい?」「料理をちゃっちゃ〜っとしたい、友達を呼びたい!」「そんなんできるやろ、思えばなるやん! なんでなれへんの? だって部屋もあるし、いらんもん捨てたらええだけちゃう?」
──ひええええ(せ、正論だ)!!
石阪 家族はみんな、お母さんに片づけてほしかった。それが動き出して、みんな浮き足立ってました。総勢5.6人で、子どもに嫁に孫に、と大集合。孫たちがキッチンを拭いて「おばあちゃん〜、こんなまっ黒!」って言って、おばあちゃんは頭を抱えてた(笑)。3日で片づいて、友達を家に呼べるようになりました。そんな楽しそうな姑さんを見て、お嫁さんも「私もやりたい」と言ってきたんです。
──おお、連鎖していった。お嫁さんはどういう方ですか?
石阪 共働きで、家事が苦手で特にお掃除ができないのがコンプレックス。それが掃除用品の量に表れているんです。カビキラーが5本、洗剤が何個もあって、ダニアースもいっぱい、ガラス拭きの布も50枚。でも、全部使ってない。
──親近感が…………。やろうという意志はあるんですよね。
石阪 なりたい自分ややりたいことを物に頼っちゃう。使わないものは思い切って処分してもらいました。そのおうちで一番変わったのは、小学一年生の娘さん。お嫁さんは、「片づけできない子」と決めつけてた子です。
──そんな小さい子でも、片づけができるようになるんですか。
石阪 自分の学用品もおもちゃも、いるものといらないものにしっかり分けられました。これまでできなかったのは「捨てたらあかん!」と思ってたから。お母さんに「これ買うたったばっかりやん」と言われていたりして、捨てられない自分になっていたんですよ。
──それが「手放してもいい」とわかって、どんどん片づけるようになった。
石阪 それどころか、子供部屋が完成したら、スッと座って、溜まっていたベネッセの「チャレンジ」をいきなりやりはじめました。それを見てお母さんもがんばる、というサイクルが生まれていましたね。


■「3日片づけ」が生まれたきっかけは「息子の交通事故」

──石阪さんは、はじめから片づけが好きだったんですか?
石阪 ぜんぜん。私自身、すごく片づけが苦手でした。毎日が忙しくなるにつれて、家の中が物でいっぱいになってしまって。
──それがどうして変わったんでしょう。
石阪 夫の不動産業を手伝って、外観から収納までフルオーダーで、一から設計して家を建てる仕事をしていたんですが……お客様の多くが半年後には物だらけになってしまって「もっと収納つくればよかったですね」とおっしゃる。それを聞いて「それは収納の大きさが原因ではないんじゃないかな?」と思うようになった。整理収納アドバイザーの資格を取って、まずは自分の家を丸ごと片づけました。
──丸ごと! 揉めませんでしたか?
石阪 夫や息子とはいざこざがいっぱいありました(笑)。でも片づいた我が家がすごく快適。自分自身の仕事も順調になりました。それで、不動産業のお客さんのところに「片づけ修行」をするようになったんです。無料でお引っ越しのお手伝いをしたり、おうちの間取りにあった収納を作ってみたり。「片づけに悩んでる」と聞けば友達の友達の友達まで行って、「片づけさせてくれへん?」とおうち一軒丸ごと50軒片づけました。自分の中で「片づけ、わかったな」と思ったころに、一つ大きな出来事が起こりました。
──本にもありましたが、息子さんが交通事故に遭ってしまった。
石阪 それまでは、家を片づける意味って、ただ「快適にする」ことだった。でも、家族の時間をより密にすることが大事だと改めて気づいたんです。息子は「障害が残るかもしれない」と言われたので、バリアフリーで、息子が暮らせる家を作るために、本当の意味で「片づけきった」。そこから、片づけに対する考え方が大きく変わりました。
──それが『奇跡の3日片づけ』の考え方なんですね。

【後編では、汚部屋のアドバイスもしてもらいました!】

石阪京子『一生リバウンドしない 奇跡の3日片づけ』(講談社)

(青柳美帆子)