日本郵便が、年賀状のテンプレートに「萌え美少女ヒツジ年賀状」をぶっこんできました。
日本郵便が年賀状テンプレとしてヒツジ×女の子の萌えイラストを配布 かわいいとTwitterでも評判 - ねとらぼ

やるじゃん日本郵便!
と同時に、ビクッとしました。

これは、誰に送るのだろう? 

●昔の「オタク」と今の「オタク」の意味は違う
熊代享『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』は「サブカルチャー」扱いだった3つの境界線を見つめなおします。
精神科医である著者の熊代享はかつて、年季入りのオタクでした。
ゲームやアニメに没頭し、「日本で一番シューティングゲームの上手い医者は俺だ」というアイデンティティを抱えていたと、自白しています。

「「オタクはキモい」という世間の烙印を引きずってはいても、かえってそのお陰で自分の好きなモノに集中しやすい内部環境を享受していました。そうした内部環境は、ヤンキーにもサブカルにも馴染まない若者の受け皿たり得るもので、折からのアニメブームやゲームブームも手伝って、マスボリュームとしてのオタクは次第に増大していきました」
(第2章「オタクもサブカルもヤンキーもいなくなった」P79)

「キモ」いって言われても、よかった。
90年代、萌え絵年賀状を贈り合うのは、オタク相互が自虐的に笑うための「テロ」でした。

自分も、CCさくらやサクラ大戦の模写をしたイラストを、手書きで作って送りつけたものです。
「萌えキャラにのめりこんでこんなことまでするボク」が、楽しかった。

●大事なのはコミュニケーション、の時代へ
オタクとサブカルには、確かにかつてギャップはありました。。
「ばるぼら:アニメを批評的に語る、批評という視線があったので、アニオタが美少女キャラで萌えているのとは違うんだ、ということで、サブカル的な文脈でアニメを見ていいという気になった」
『総特集=オタクvsサブカル! 1991→2005ポップカルチャー全史 』

「「サブカル」な人たちは、流行の服を追いかけるのと同じような感覚でアニメや擬似恋愛ゲームをチョイスし、洒落っ気たっぷりに開陳していたのです」
(第2章「オタクもサブカルもヤンキーもいなくなった」P51)

一方ヤンキー。かつては「大人になっても続けていたら恥ずかしい」「卒業するものだ」というのが文化としてあった。
しかし今は違う。
「対抗文化としてのヤンキーは消失し、ヤンキー的なフレーバーや意匠を引き継いだコンテンツやアトラクション、商品化されたヤンキー的スタイルが消費されるようになりました」
卒業しなくてよくなってしまった。「ヤンキー」じゃなく、「ヤンキー的」に楽しいことをすればよくなった。
特に「マイルドヤンキー」と呼ばれる層。しまむらの服を着て、EXILEを聞き、アニメを見て、ボカロ曲をカラオケで歌い、サブカルショップや創作の店を巡っている。

オタク、サブカル、ヤンキー。
自己承認欲求に振り回され、青春を送った人は多い。。
今は、ショッピングモールやインターネットの普及による「ファスト風土化」で、3つの「サブカルチャー」の「サブ=下位性」はすっかり希釈されました。

特に「オタク」という単語は、SNSやニコニコの影響で「キモい」の烙印が消滅しつつあり、カジュアルに自称し得る単語になったと、この本は指摘します。
確かに尖っている人は確実にいる。
マスの消費者なのは、オタクらしさ、サブカルらしさ、ヤンキーらしさの輪郭が不明瞭な、ハイブリッドな人々。


今は、仲間と共に楽しむことが簡単になり、上京せず地元にいても承認欲求は満たされる。
コミュニケーションのためなら、コンテンツは楽しければ、なんでも良くなった。
「通人にしか理解できないひとりよがりな趣味の道なんてお呼びではないでしょう」と釘を刺します。

シーンの最先端は、もう若い人に任せたって構わない。
年を取っていくオタク・サブカル・ヤンキーに、作者は一言。
「誰も君にトドメをさしてはくれない」

ついさっき、夕食を食べながらテレビをつけたところ「キャラクターを愛する」の声と共にスマホゲーCMが流れ、アニメと無関係のゴールデンタイムの番組では『進撃の巨人』をギャグのネタにしていました。

中学・高校の昼休みにはボカロ曲がかかります。LINEのスタンプには、最新アニメキャラが増え続けています。

日本郵便の萌え(って言葉が今正しいかどうかすらわからない)年賀状。
かつてはこのような現象をさして「オタク文化も市民権を得た!」なんて言ったこともありました。
本当は「オタク文化は融解していた」だけなのかもしれない。

ぼくも、ネットの友達にはお祝いの際、いかにもなアニメキャラ絵をよく送ります。

しかし年を経て、皆が結婚し家族を持った今、ぼくがこの年賀状を送る同窓生は、いない。


熊代享『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』
(たまごまご)