2月23日放送の月9「デート〜恋とはどんなものかしら〜」6話(フジテレビ 月曜9時〜)には打ちのめされた。
恋愛不適合者の依子(杏)と巧(長谷川博己)が恋愛ぬきで結婚しようと試みる過程で、お正月を依子の実家で過ごすことになるエピソードが中心の6話は、予想どおり巧がヘマばかりして、バッタバタな展開に。
ライバルの鷲尾(中島裕翔)が男をあげて、依子の父(松重豊)や親戚の叔母さん(田島令子)は鷲尾に肩入れする。
このバッタバタな展開は毎度のごとくベタベタ。そのベタさのくさみは、巧の母(風吹ジュン)が家で見ている映画の展開と同じというサイドストーリーが入ることで回避される。こんな映画みたいなことあるわけ・・・あった! という具合に。
映画のようにとんでもないことをしてしまい、結婚が危ぶまれる巧の逆転のキーになるのは、依子の亡き母(和久井映見)のお雑煮のレシピ。これが泣かせる。
古沢良太の脚本の魅力のひとつに、見続けた人に報いることがあり、お雑煮エピは依子のキャラクターを大いに生かして描かれていて、ずっと見て来た者にとっては、なるほど納得というもの。一見さんには味わえない楽しさだ。
古沢の依子の書き方は、原風景や育った環境が人間の考え方に影響を与えるというスタニスラフスキー理論のようなものが徹底されていて、依子が理系であるという設定がドラマの随所に生かされている。これは俳優にとっても演技の拠り所になっているのではないだろうか。
6話で明かされた、依子の前に時々現れる亡き母の存在の謎もまた、依子が理系だからこその理由づけになっていたことに驚いたし、すっきりもした。
亡くなった人が目の前に現れることは、幽霊などのスピリチュアルなものか、見えている人の心の病的なものを根拠にすることが多いが、依子にとって母が現れることは極めて論理的なことだった。
依子は、大切な母親が亡くなった悲しみを乗り越えるために、量子力学の力を借りるのだ。
依子と母と量子力学の関係を見て、昨年完結した「SPEC」シリーズ(西荻弓絵脚本、堤幸彦監督)を思い出したドラマファンもいるのではないだろうか。「SPEC」シリーズも量子力学がドラマの重要なファクターになっていて、死んだはずの人間がある人物にだけ見えるという場面もあった。が、その解釈を、作り手があえていっさいしないまま終わったのだが、「デート」でその答えを教えられた気さえしてしまった。
古沢良太は、巧や依子の互いに対する心情を微妙に漏らしつつ、完全には見せないように抑制しているのだが、時々、こうやって明確な部分を作り、見る者を気持ちよくさせてくれるツンデレ作家である。
見続けた人に報いるところはまだまだ続く。ラストのどんでん返しは、まさに、このドラマを見続けているからこそ、やられた! と心が大きく動かされるのだ。5話のラストにもどんでん返しがあったので、今回はこのままでいくかと油断させての、やっぱりあった逆転劇。
こうなったら、このまま7、8、9、10と最後まで逆転し続けないといけないだろう。古沢は相当自分に負荷を賭けて連ドラを書いていると思う。かっこいいなあ。
で、見ていた者のほとんどが、ええ!!と腰を抜かした依子の行動は、やっぱり情緒で動かない理系の人間のやりそうなことで、だからこそ、どんなに裏切られても騙された自分が悪うございましたと納得せざるを得ない。
悔しい。
「デート」6話は、ラブコメディかと思っていたら心理ミステリーに様変わりしていたというような、見事に化けた回。ドラマ界の伝説として語り継がれるだろう。
あ、杏の晴れ着姿がかわいかった。ケモノメイクにサンタ、アニメのコスプレときて、ようやくキレイな衣裳で安堵。
3月2日放送の7話は、巧の母の病気が進行? 結婚を急ぐ依子と巧が描かれる。今回はどんなふうに騙してくれるだろうか。わくわく。(木俣冬)
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