『本で床は抜けるのか』。なんて内容が分かりやすいタイトルの本!本が自然と増えてしまう人なら、一度は不安になってしまうこの問題について予想外の展開を含みながら迫り、それがついに1冊の本になってしまった大記録だ。


家が崩落して死にかけた人、電子化した人、書庫を建てた人。捨てられたり寄贈された本、地震や津波で崩れた本や読めなくなった本。広がっていく取材を通して、嫌になるぐらい「本とは何か」ということが現れてくる。

書いたのはライター・作家の西牟田靖さん。旅行記などの分野でライター活動などをしていたが、北方領土や尖閣諸島についてなど「国境」に関する本を書いた頃から、必要な資料がどんどん増えていった。大きな地震もあった。家族も居る。まずい。「仕事の武器」である本が生活空間をおびやかすようになったのが、すべての始まりだった。

何より第一に結論。「抜けるのかどうか」。序盤から西牟田さんの合理的な取材がテキパキ。
読んでて気持ちがいい。

「過去に本で建築物が崩落した事例はないか」新聞記事や雑誌記録を探し、経験者や建築の専門家などにどんどんインタビューする。たった数ページでどんどん明らかになる。フェイスブックやツイッターで自宅写真を公開したり人脈に頼ったり、調査記録としても臨場感がある。結果、「危ない」「危なくない」「建物による」諸説出てきてしまう。

古い木造の作りで、1平方メートルあたり何キロまでなら耐えられるのか。部屋の端と中央ではどのように耐久度が変わるのか。腐敗や虫食いなどによる建物の劣化を考慮に入れると?鉄筋コンクリートなら安心なのか?そのあたりがスピーディーに、かつリアルに実数値で分かる。床が抜けてしまった人の高額な弁済費用、補強のためにかかる金額、「自炊業者」に電子化を依頼してみたときにかかった金額なども細かく記録されていて、興味深い。

大体の不安については、そこまで調べれば対策できそうだ。本棚の場所や方向、補強のしかた、地震などへの備え方。自宅の状況を、安全な水準まで持っていけば良い。
だけど、それだけが解決ではない。世の中には色んな人がいる。

事務所「ネコビル」を建てて大量の本をおさめた立花隆。広大な豪邸にレール式本棚の書庫を作り上げた井上ひさし。データベース・資料として多くを電子化している大野更紗。「捨てる女」としてどんどん処分する内澤旬子。様々な「本との付き合い方」が見える。人生によってそれぞれ千差万別。そのたびに著者が「じゃあ、自分はどうするんだろう」と考える。

この本の内容は、元々ウェブで2年以上にわたって連載されていた。著者が引っ越したり、保管資料が増えてしまったり、その時々の状況や心境が変わったりもレポートされており、彼と一緒に取材・思考していくような感覚だ。本のことも原因の1つとなり、最後は妻子との離別危機まで訪れてしまう。


ボランティアによる「草森紳一蔵書整理プロジェクト」、同志が集まって作られた「少女まんが館」、電子化を請け負う「自炊業者」の勃興と撤退…同時代で現在進行形で起こっているさまざまな取り組みへの取材も、非常に興味深い。バラバラなように見えて、みんな「本をどうするか」という点でつながっている。それらが物語のような見事な順序・展開で、ドラマチックに読ませてくれた。思わず著者を応援し、今後の著者の人生についてまで注目したくなってしまった。

『本で床は抜けるのか』西牟田靖著。本の雑誌社より。(香山哲)
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