では、そこから恋心は生まれるのだろうか。
ぼくの答えは「YES」。
カベの向こうのカノジョ

こじまなおなり『おとなりボイスチャット』は、顔を合わせたことのない男女の、微妙な関係を描いたマンガ。
大学生の田力は、「ぼっち」な青年。
しかし彼は寂しくない。
なぜなら、家に帰ると隣の部屋から、大神さんという女性が会話してくれるから。
大神さんは重度のひきこもり。お隣さんなのに決して田力に姿を見せません。
「ただいまー」と田力がいえば「おかえりなさい」と大神が隣の部屋から答えます。
困った時は「どうかされました?」と心配してくれます。
時々明るいジョークを言って、笑います。
もう田力くんメロメロ。カベの向こうの大神さんに。
正直、客観的に見たら、気持ち悪いです。
会ったことのない、声だけしか知らない女性に、恋心を寄せている青年。
大丈夫か? 相手精巧なボーカロイドかもしれないぞ。声変えたおっさんかもしれないぞ。
この本、帯には空想の大神さんが描かれています。
帯を外すとこうなる。

君が話しているのは、カベだ。
一応、手だけは見えたことがあるので、幽霊ではない、けれども……。
以前紹介した『のぼさんとカノジョ?』にも通ずるものがあります。

カノジョとして選ぶ女の子の基準は、本当に容姿のかわいさ? - エキレビ!
こちらは完全に幽霊。見えませんし、声も聞こえません。ホワイトボードによる筆談です。
どう考えても、人間の女性に軍配があがるであろうカノジョ。
一緒に重ねてきた時間、かわし続けたコミュニケーション量、素の感情が見え隠れする部分。
これが「かわいさ」として感じられます。
「かわいさ」の入り口
『おとなりボイスチャット』で描かれる「かわいさ」は、「声」が全て。
毎日かわす挨拶、話をする会話の量、向こうからも話しかけてくる。
視覚では感じられない「かわいさ」です。
こじまなおなり『おとなりボイスチャット』
(たまごまご)