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「よくオーディションで口の中が血だらけになるんです」芸人が描く仰天ドキュメントマンガ『芸人生活』

芸歴20年のチャーミング・井上二郎が自らの(売れない)芸人生活を描いた、読んで納得のおもしろい漫画『芸人生活』。インタビュー後編では、漫画に描かれていない芸人になるまでの歴史や、相方のあの人についても聞いてみました。
前編はこちら
「よくオーディションで口の中が血だらけになるんです」芸人が描く仰天ドキュメントマンガ『芸人生活』
『芸人生活』井上二郎 /彩図社

「よくオーディションで口の中が血だらけになるんです」芸人が描く仰天ドキュメントマンガ『芸人生活』
事務所の元「後輩」・枡野浩一さんとツーショット

ダウンタウンに憧れて芸人を目指した


──漫画に出て来ないことをうかがいたいんですけど、芸人志望はいつごろからあったんですか。
井上 やっぱり僕らはみんなダウンタウンさんの世代なのでダウンタウンさんの漫才とか「ガキの使いやあらへんで」とか、「ごっつええ感じ」を見て、どうしてもなりたい、という感じになりました。あんな感じの芸風にはならず、正反対のことをやってますけど(笑)。
──最初は吉本興業に入られるわけですよね。同期はどなたですか。
井上 大阪NSCの17期で、バイきんぐ、あとはうち(SMA)でいうとロビンフット。大阪でいうとザ・プラン9のヤナギブソンとかが同期ですね。クラスはABCで分かれてたんですけど、僕は本当にCとかでした。
──そのABCはどういう分け方なんですか。
井上 おもしろい順です。でも、僕はすぐ辞めてしまったんですよ。
──それはなにゆえ。
井上 ちょっと怖い人がいたんです。もう辞めてしまったんですが、Kくんというのがいて。元暴走族だったんですよ。僕は子供のころいじめられてたので、目を見たらわかるんです。「これはいじめられるな」と思って、先手を打って辞めました。
──それを機転が効いていると言っていいのか。
井上 で、大阪だと友達もできないし東京に行こう、ということで上京したんです。なんですけど、なぜかKくんも上京してて、東京で始めた1発目のバイト先にいきなり先輩でいたという。
──NSCを辞めた原因の人が。意味なかったですねえ。

事務所放浪時代と相方との出会い


──東京に出てからはどういう形で芸人修行をされていたんですか。
井上 とにかく事務所に入れなかったんです。オーディションで東京の吉本に入ったり、ホリプロ、あと渡辺プロにも行きました。どこでも預かりまではいくんですけど、全然そこから上にいけない。で、今のソニーに行き着くみたいな感じですね。
──ちょっと教えていただきたいんですけど、そういうプロダクションに入るためには、どういう風に最初はアタックしていくんですか。なにか募集が出るんですか。
井上 募集が出てオーディションで入れるタイプと、学校から入るタイプがあります。イレギュラーな人だと「吉本に所属している人とコンビを組んで入って、コンビは解散したんだけどそのまま吉本にいる」というパターンもあるんですよね。でも一般的にはオーディションかもしくは学校ですね。まあ、学校が一番いいと思いますよ。事務所側も学校出た人が売れるとうれしいのでそっちを推すと思うんです。僕はちょっと根性がなかったので、NSCも辞めたし、せっかく入れてもらった事務所もどんどん辞めてしまったので。
──それで今の相方の野田(航裕)さんとはいつごろ出会うんですか。
井上 えーとですね、東京吉本を辞めたころです。あの時期ってルミネができる前で、渋谷公園通り劇場と銀座七丁目劇場がつぶれてしまったんです。それで芸人が吉本を一気に辞めちゃった時期があって、その中に僕と相方がいたんです。で、宙ぶらりんの状態のときにあべこうじさんに路上ライブの声をかけていただいて、そこでやってるうちに知り合って、コンビとして組むようになったという感じですね。
──漫画だと井上さんのほうからお声をかけた感じになってます。実は相方のほうが芸歴が下なんですよね。
井上 はい。もとは「井上さん」とかいわれて芸の相談も受けてたんですけど、今は「お前」と呼ばれて。100パーセント言うとおりにやってます。

野田さんには完全に頭が上がらない


──どういうところを相棒として見込んだんですか。漫画を読む限りでは、野田さんってサディストの変質者にしか見えないんですけど。
井上 おもしろいなというのが一番でしたね。バランスとかも考えましたけど、結局はそこのような気がします。
──声をかけたときには、自分の役割はボケとツッコミどっちだと考えていたんですか。
井上 僕はボケだと思ってました。で、相方はツッコミで、影に徹してくれると思ってたんですけど、実際はそうではなかったですね。彼のことは今、ボケとして接してるんですけど、実際にはいいように操られてる感じです。もとはパーマだったりとかおしゃれにしてたんですけど、角刈りにさせられて、バイト先では「寿司屋」と呼ばれたり。
「よくオーディションで口の中が血だらけになるんです」芸人が描く仰天ドキュメントマンガ『芸人生活』
『芸人生活』井上二郎 /彩図社より(36P)

──唐突に「イチゴちゃん」に改名するよう命じられた話もありましたね。
井上 ただ改名するだけならいいんですけど、戸籍も「イチゴ」に変えろと言われたんですよ。今の事務所に入りたてだったので、しばらく「僕はイチゴが本名です」と言って回っていました。だからいまだにイチゴと呼ぶ人もいます。漫画にも描きましたが、10万円でイチゴのかぶり物も作りましたし(第15話「芸名」)。
──そういうアイデアに、また井上さんは乗っちゃうんですね。
井上 基本的にいいなりです。僕はネタを書いてなくて、プロデュースされる側なので。
──「チャーミングの頭脳はあなたですから」みたいな感じですか。
井上 そう優秀な頭脳でもないんですけども(笑)。よく、「このネタはテレビではできないよ」とか怒られますしね。
──完全にあちらがネタを書いているんですか。
井上 そうです。もともとは僕が書いてたんですけど、「お前のくそつまんないネタは二度とやらない」と言われて、クビになりました。僕、もともとネタが書きたくてこの世界に入ったので、そのときは本当にお笑いをやめようかなと思いましたよ。でも、「この相方なら売れるんじゃないかな」と思って、手放すのはもったいない気がして、結局しがみついてきたんです。……今、イメージ悪くなるようなことばっか言ってますね(笑)。
──いやいや(笑)。今のコンビは何年目になるんですか。
井上 10年目ぐらいです。
──10年というと人生のうちの大体4分の1ぐらいは一緒にやっている勘定ですね。それだと、相方が自分の一部のようになっているんじゃないですか。
井上 そうです。一部ですね、もう。なんとか彼と売れるしかない。だから、どんなに嫌なことも我慢しないと。
──(笑)。最近はなにか嫌なことありましたか。
井上 最近はネタ覚えが悪いので、「ネタなんで覚えられないんだ」ってすっごい怒られて。で、「本当に苦手なんだよ」と言い返したら、その後に送られてきた台本の量がいつもの2倍あったという(笑)。びっくりしましたね。どSなんですよ。
──なんとか井上さんの嫌がることをしたいんだ。

異常者とのコンビ生活


「よくオーディションで口の中が血だらけになるんです」芸人が描く仰天ドキュメントマンガ『芸人生活』
『芸人生活』井上二郎 /彩図社より(P186)

井上 そうですね。事務所のみんなからも異常者と呼ばれてますから。
──すごいな(笑)。舞台上で「うん○(のリアルな贋物)を出す」話がありますね。(第11話「彼女がライブにやって来る!」)。あれは打ち合わせなしで、突然やられたんですか。・
井上 はい。ギャッとなりましたね(笑)。味噌を調合して、ハリウッドの特殊メイクみたいなので作って、いきなり出したんですよ。お客さんも僕もびっくりして。
──……それ、うけました?
井上 全然うけない(笑)。もっと作りものみたいにしたほうがまだ笑えると思うんですけど、そうじゃないですね彼は。やりたいと思ったらうけなくてもやるんです。
──そういうテレビに出せないようなネタは他にもあるんですか。
井上 これはテレビに出てしまったんですけど(笑)、僕が20発ぐらい力いっぱい殴られるネタがあります。
──意味がわからない(笑)。目の前で人が殴られるのを見せられても楽しくないですよ。
井上 よくオーディションで口の中が血だらけになるんです(笑)。それを見られると絶対に受からないので、血を飲みながらネタをやるという。
──でも、本当はそんなに殴らなくたっていいわけでしょう。
井上 そこが問題なんですよ。ダメージを与えるより音を出したほうがうけるんですけど、たぶん相方は、「音じゃなくてダメージを本当に食らわしてるほうがおもしろい」と思ってるんですよね。うけるよりも、おもしろいほうを取る。
──プロレスでも、パーンと音がしたほうが打撃はダメージが少ないと言われますね。
井上 でも、そうしないんですよ。「顎に入れさせてください」と(笑)。それでよく喧嘩になるんですよね。
──なると思いますよ、それ。
井上 うけないし、ダメージは残るし。これを1年間精度上げて賞レースに挑もうと言われたんですけど、1ヶ月で100発以上殴られるわけじゃないですか。たぶん、ツッコミから本当のボケ、パンチドランカーになっちゃうんで勘弁してくれと言ったら怒られました。

チャーミングのこれから


井上 コントは今、演劇上がりの人がどんどん強くて、勝てないんです。コントで演技力があるというのが脅威です。
──僕の子供のころってトリオコント時代だったんですよ。漫才ブームの前の時代で、中学に上がるぐらいのときに「THE MANZAI」が来たのですが、1970年代の子供時代は、三波伸介とか東八郎とか、軽演劇系のコントがテレビでも多かったと記憶しています。
井上 なんか時代は回るというか。そうなってきたら、もっと我々は売れないですよ。
──下北沢で演劇をやっているような人たちがサーッとコントに流れてきて、みたいな。
井上 そうなんですよ、迷惑な話で。それで顔もよかったりすると、もう勝てないです。
──まあ舞台慣れもしているでしょうし、発声はいいわ、身体も鍛えてるわ。
井上 よく考えたら勝てるわけないですよね(笑)。
──そんな中でどういう道を目指そうみたいな模索はされておられるんですか。
井上 僕らは本当にMCとかじゃなくてダチョウ倶楽部さんみたいになっていけたらなっていう。いろんな番組に呼んでもらって熱湯かけられたりとか、落とし穴に落とされたりとか、そんなんでいいですよ。そんなんがいいです。
──現時点では、芸人としてどういうところに力を入れたいと思っておられますか。
井上 本当にネタをがんばるしかないと思います。相方のネタを、100パーセントじゃなくて120パーセントぐらいやれるようにがんばるしかない。たぶんそれに尽きる気がします。結局はおもしろいものを作らないと、商品にならないとダメだと思うので。
──もう、ご自分でネタをお書きにはならないですか。
井上 いやもう、書かないですね。ネタは本当に才能です。僕はたぶん才能がない。
──いかに異常者でも、相方のほうが……。
井上 まだおもしろい。
──亡くなった立川談志の名言で、「コンビは別れないものだ」というものがあります。大体のコンビが別れちゃうとそれよりは売れなくなる。そういう意味では、今の相方はベストですか。
井上 そうですね。そうしたら僕は、もうたぶんコンビ組まないです。やるとしてもピンでやりますね。コンビってやっぱりバランスなんですよ。
(杉江松恋)


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※チャーミング&井上二郎に会うには、SMAのハリウッドザコシショウが主催しているハリウッド寄席に行くのが一番とのこと。興味を持った人は、ハリウッド寄席公式ブログからどうぞ。

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