
140話は、こんな話
女将の仕事を卒業した希(土屋太鳳)は、ママさんパティシエ洋菓子コンクールに参加するも、受賞ならず。その上、審査員の陶子(柊子)に「な〜め〜す〜ぎ〜」と言われてしまう。
やっぱり、な〜め〜す〜ぎ〜
やっぱり陶子さん、言ってくれました。
「な〜め〜す〜ぎ〜」。
これはもう希を表現するのにぴったりの台詞。
子どもたちと一緒に「な〜め〜す〜ぎ〜」とテレビの前で真似して楽しんでいたギャグが、希自身に向けられた場面では、脚本家の残酷さにゾクゾクしました。
たぶん多くの視聴者に、そう「(世の中)なめすぎ」と思われているであろう希ですが、意外だったのは、コンクールに参加するために、場当たり的な感覚だけで勝負せず、過去の入賞作や番組スポンサーの研究を怠らない熱意と行動力をもっていたこと。そこはなめてなかった。傾向と対策を練るのは一徹(葉山奨之)仕込みでしょうか。
ところが、こうして準備万端で参加したコンクールは、世界とは無関係そうなほのぼのママさんたちの集まりで、ここから世界に羽ばたく才能が現れるとも思えない。一応プロでお店やってるひとたちの集まりの設定のはずなのに、なぜか一般人の公募企画のような雰囲気で・・・。
希はなぜこれを選ぶ? まあ、まず、軽くウォーミングアップという気分だったのか。そこが「な〜め〜す〜ぎ〜」なんじゃないかと。
「まれ」が主婦を「な〜め〜す〜ぎ〜」な感じ。むしろ、現実世界だと、主婦が日常生活からあみ出した発明が特許をとって多くの人たちに使われていくこともあります。主婦じゃないけれど、世界の本田宗一郎だって町工場からはじめたわけで、ノーベル賞受賞の山中伸弥教授の生家が東大阪の町工場で、そこでの営みが彼を育て上げたと言われていることをはじめ、その他、東大阪の町工場からはたくさんの優れたアイデアが生まれています。また、ちょうど9月8日に、埼玉県行田市が田んぼアートのギネス世界最大記録になったというニュースがありました。
ですから、希が能登から世界をあっと言わせるケーキを作ることは無理だとは言いきれません。
でも、現実の主婦や地方都市や町工場の方々より、希が非現実的過ぎる。女将を卒業ってほんとうに、いったい何をしていたのか。圭太は塗師屋としていま何をしているのか。
相変わらずやってることがちっともわからないし、「まだ23歳」と言ってたときから、もう30代になっているであろう現在、なんも変わってない感じのする希ですが、ちょっと成長したのは、今回のコンクールで、かつてロールケーキコンテストのときに希の作品を褒めた子が一位になったのと同じことが繰り返されたときの反応。当時はそのお世辞を喜んだ希も、今回は疑いの気持ちを抱くくらいの知見は得ていたようです。
最終的に希がこれまでの生き方を考え直し、一番大切なものを確認するストーリー展開(それプラス徹がどうなるかも大事)が予想されますが、カタルシスを与えるためであろうとはいえ、ここまで希を駄目な子ちゃんにし続ける勇気に尊敬を覚えます。
その駄目感を「な〜め〜す〜ぎ〜」や「失敗おっぱい」「おっぱいがいっぱい」などストレート過ぎて脱力してしまう台詞の連打によって、なし崩しにしていく捨て身の脚本。
これからラストにむけて用意されている圧倒的な感動のためなんですよ、きっと。た〜め〜す〜ぎ〜。
(木俣冬)
エキレビ!にて月~土まで好評連載中! 木俣冬の日刊「まれ」ビュー全話分はこちらから
いまひとつ視聴率が伸びないが、奮闘は讃えたい。NHK朝ドラ「まれ」おさらい(54話までを総括))