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パックマンやドンキーコングといったゲームキャラが地球侵略にやってくる映画『ピクセル』について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。
宇宙人による地球侵略もののパロディ
藤田 『ピクセル』は元々はパトリック・ジャン監督が作った短編映画で、YouTubeで見れます。ゲームのキャラが侵略してきて世界がピクセル化される(ファミコンみたいな、小さな四角で作られた世界になっていく)もの。
飯田 『宇宙戦争』をはじめとする宇宙人による地球侵略もののパロディとして、地球人たちがハマってた昔のアーケードゲームをリアルで再現して地球人とエイリアンが戦うって話ですね。僕はどんくらいマジな話なのかがしばらくつかめなかった。ティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』と同じたぐいの映画だと思って気楽に観れば楽しいけど、マジメなノリを期待すると肩すかしをくらう。
藤田 基本的にはコメディ映画、バカ映画と考えていいと思います。『宇宙戦争』とか『アルマゲドン』のパロディですよね。オタクという、軍事と全く関係ない人間がマッチョの世界の中で活躍する、爽快コメディ。
主人公たち「アーケーダー」が横一列に並ぶシーンなんて『アルマゲドン』的なカッコいいシーンなのに、無様なのとか、笑いを誘いますよ。喜劇は、基本的に、ダメな登場人物ばかりが出てくるにもかかわらずハッピーエンドになるという構造ですから(それに対し、悲劇は、真面目で善良な人間ばかり出て来るのに事態が悲惨なことになるという構造)。笑いながら見て、ピクセル化される世界を楽しめば充分ではないかと。
ぼくは吹き替えで観たので、主役の声が柳沢慎吾で、「あばよ!」って言ったり、会議の場面で、そこに登壇している人を映画の役名で呼んだりする「お遊び」が見えてきた時点で、気楽に見れるコメディだと観方をシフトしました。ゲーム的なことが理解できない政府関係者も、滑稽に描かれていた。
飯田 ゲーマーやゲーム開発者が地球を救うヒーローになるんだけど、端々でバカにされていて、なんだか愛がないなあ……と思った。
藤田 ゲーマーの描き方は、なかなかエグくてよかったですけどね。ガチのダメ人間が世界を救って、英雄になるわけですから。「子供の頃に無駄にした時間がようやく役に立つ」とか、胸に刺さりましたw
飯田 最初、コメディだと思って観てなかったから腹が立ったんですよ。でもコメディだと思えば、すべってるギャグとか、ゲームやゲーマーを小バカにしたような演出とか、滑舌悪くて難しい英単語読めないし意味もわかんない大統領(ブッシュ・ジュニアがモデルかな?)とか、なんなんだろうって感じたことが氷解する。冷静になって考えると、「宇宙人がアーケードゲームを再現して勝負を挑んでくる」って内容をマジメにつくるのも難しいよね。
藤田 「ボンクラな主人公の幼馴染が大人になったら大統領になってる」とか「宇宙に送ったメッセージの中に混じっていたスペースインベーダーなどのゲームを宣戦布告と宇宙人が勘違いする」とか「ゲーマーが世界を救う」とか、長編化にあたってつけくわえた要素が無茶な感じなので、ああいうコメディ的なノリにしないと物語として成立しなかったんじゃないかなぁ。
飯田 ブッシュ・ジュニアと大統領戦を争った民主党のアル・ゴアはデッドヘッズ、つまりグレイトフル・デッドの熱狂的なファンで60年代ロック世代だった。『ピクセル』ではそれが80年代に青春を送ったギャラガ世代が大統領とかになる時代になったことを示している。
……でもそいつは難しい単語が発音できなかったり読めないと。
2Dゲームを3次元にあらわすピクセルアート的な画面づくりは最高!

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飯田 ただ、映像としてはよかった。テトリスが降ってきてビルごと消えるのとか、リアルにあるものがドット絵っぽく砕け散るのとか、ファミコンぽいフォント使った画面とか観ていて楽しかったし。「世界がゲームになったら」っていう、誰でも一度は思う夢想を映像で見せてくれてありがとう!
藤田 街がファミコン的な宇宙人に侵略されるところは、楽しかったですね。ニューヨークの碁盤の目を使ってリアルパックマンの勝負をしたり。米軍がセンチピードと戦うとか、その絵面がよかった。あの辺の映像を作るための、アリバイみたいな脚本と設定だと思えば、全然アリだと思います。
エンド・クレジットも、ピクセルアート(二次元の、ファミコン的な絵)で、映画全体を再現していて、なかなかに胸を打ちました。80年代の音楽やスターが頻繁に登場して、あの頃の狂騒的なノリをノスタルジックに再現してくれる。最近、インディー・ゲームで、ドット絵のレトロ・リバイバルが流行しているのですが、それの映画への流入ですよね。
大作ゲームは中年男性の主人公が増えている

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飯田 舞台は1982年だけど、ノスタルジーの対象として描かれているよね。30代前半の俺らでもギリギリ知ってるか知らないかくらいのゲームがいっぱい出てくるから、20代以下は観てわかるのかな? とか、スーファミとかプレステ以降でこういうのって出てくるのかな? と思った。まあ、出てくるんだろうな。歴代のFF(『ファイナルファンタジー』)キャラが使えるスマホゲームの『FFRK』とか見ているかぎりでは。
藤田 ぼくの隣の席にいた若い女の子二人連れは「ゲームわからなかったー」と言っていたけど、楽しそうでした。小学生ぐらいの男の子も「マリオがいたよ!」「初代のマリオが一瞬いたよ!」って興奮していたので(母親が気づいていなかったので、「いたよ!」って言ってやろうかと思いましたがw)、若い世代にも「レトロ」の感覚が伝承されているのかも。
もちろん、80年代に少年期を過ごした世代が、一番ぐっとくることは否定できない。その点では『オトナ帝国の逆襲』みたいな側面がありますね。もはやゲームがノスタルジイの対象になったというのが驚きますが。
飯田 アメリカではゲーマーのボリュームゾーンが40代なんだっけ?
藤田 大作ゲームの主人公が中年男性が増えている件と、プレイヤーの体力や動体視力が低下しているという問題は、ゲーム関係者から、たまに聞いたりする切ない問題ですw
飯田 『MGS』とか『Fallout』とか『GTA』とか、リアルさをウリにしている(?)、ここ10年、15年くらいの人気シリーズがノスタルジーの対象になったときにどんなものが出てくるのかな。
藤田 現在では「リアル」に見える絵面も、何十年かすると、すごく「古い」「時代を感じさせる」ものになるんじゃないですかね。『バーチャファイター』とかが、当時は革新的でしたが、今はある種の滑稽さと懐かしさを覚える造型なのと似た感じで。
飯田 日本ではゲームっぽい小説(RPGふうの小説)と言えば「小説家になろう」にいっぱいあるんだけど、日米のゲーム文化の差も感じた。まず、日本人はJRPGが好きだけどアメリカ人はアクションゲームが好き。あと日本人の場合はJPRG的なファンタジー世界にこっちから「行く」。『ピクセル』はゲームの世界が現実世界に「来る」。
藤田 ゲームの中の二次元美女に憧れる設定のキャラがいたじゃないですか。
あのキャラが、「ゲームの中から出てきた侵略者としてリアルに降臨した美女に対峙する」シーンは切なかったですね。あれは、日本の二次元美少女好きにも通じる気持ちじゃないかな。そのふたりの関係の結末が、救いがあるんだかないんだかのギリギリ感で、そこは見てほしい。
飯田 オタク青年とゲーム美女の結末は、もんのすごいご都合なオチになっていてぶったまげた。
藤田 ともあれ、ぼくらがゲームに無駄にしてきた(?)謎のエネルギーを、フィクションの中で、「意味があった!」と慰めてもらえるような映画です。観ていて複雑な気持ち……切なさと笑いが同居した感傷的な気分になりますよ。