
第1話 静岡県静岡市青葉横丁の汁おでん(無料公開中)
第2話 東京都新宿区信濃町のペルー料理
第3話 東京都品川区東大井の冷やし中華とラーメン
第4話 東京都三鷹市下連雀のお茶漬けの味
第5話 東京都世田谷区下北沢路地裏のピザ
第6話 鳥取県鳥取市鳥取市役所のスラーメン
第7話 東京都世田谷区駒沢公園の煮込み定食
第8話 東京都文京区東京大学の赤門とエコノミー
第9話 東京都千代田区有楽町ガード下の韓国料理
第10話 東京都渋谷区松濤のブリ照り焼き定食
第11話 東京都千代田区大手町のとんこつラーメンライス
第12話 東京都荒川区日暮里繊維街のハンバーグステーキ
第13話 フランス・パリのアルジェリア料理
目次を眺めているだけで垂涎必至。さらに、巻末に食エッセイの名手・平松洋子によるあとがき「上等な孤独について」を収録と至りに尽くせりだ。08年に出た、第1巻に新作を加えた新装版の巻末に収められた久住昌之×谷口ジロー×川上弘美による鼎談に続き、ひじょうに豪華なデザートと言えよう。
松重豊が主人公・井之頭五郎(通称ゴローちゃん)を演ずるテレビドラマ版(テレビ東京)は、すでにSeason4を完結している。にもかかわらずマンガ版がまだ2巻しか出ていないという事実に、ちょっと不思議な気持ちになる。もっともドラマ版は、原作のエピソードを映像化するのではなくオリジナルストーリーなので当然と言えば当然なのだが。この驚きは、それだけ本作品がマンガ・ドラマ問わず、私たちの生活に浸透し切っていることの表れかもしれない。
食べたい時に、食べたいものを、食べたいだけ食べる!
内容については、相変わらずのゴロー節である。
「そんなに食べられるの?」と驚くやら呆れるやらといった具合に食べる、食べる、食べる。テレ東で大食い番組がやっていれば「見ない」という選択肢がない私のような人間にとっては、この旺盛な食欲だけでもうゴキゲンである。食べたい時に、食べたいものを、食べたいだけ食べる人の姿は清々しいのだ。もっとも「第11話 東京都千代田区大手町のとんこつラーメンライス」では、調子に乗りすぎた結果、替え玉ラーメンの前に敗北を喫することになるのだが……。
しかし、目の前に並ぶ料理を一心不乱にやっつけていくばかりが『孤独のグルメ』ではない。例えば、結果的に食べ切ることのでいなかった、このラーメンライスのエピソードなどは、食べる過程における試行錯誤が楽しい一編だ。
ゴローが博多とんこつラーメン店で注文したのは、とんこつラーメンと半ライス(半ライスは昼のサービス)だ。最初、普通にライス1杯を注文したが、ランチサービスとしてラーメンに半ライスが付くことを知り、注文分はキャンセル。「特しちゃった」などと言っているが、そこで目に留まったのがサンマのみそ煮缶だ。どうやら夜の居酒屋タイム用のツマミらしいが、ゴローはたまらず注文、「下戸の大逆襲」「缶詰が加わったことで 完全食になったぞ」などと脳内で独り言つ。
さて、博多とんこつラーメンといえば、卓上の高菜や紅ショウガも名脇役だ。このへんも充分ご飯の供になる上に、この店にはふりかけまで完備されている。しかも、脇にはしっかり味のみそ煮も控えている。もっと言えば、ラーメンの汁でだってライスは食べられる。
これではライスが足りなくなるのは火を見るよりも明らかだ。結局、さらに半ライス追加することになったゴローは、この白飯をもとにさまざまな組み合わせを実践し、
薬味 ラーメン ラーメンの具 飯 缶詰 組み合わせ無限
まさに自由自在
と、ついには、汁飯にサンマのみそ煮を組み合わせてしまうというスパークぶりを見せる。
ドラマ版『孤独のグルメ』もSeason5に突入!
ゴローの食べるペースに乗せられ、ちびちび読むつもりが、一気呵成に読みきってしまった。ここでゴローならば隣客の食べているものやメニューを眺め、「あ、それから◯◯もください」と追加注文するところだが、マンガではそれも叶わない。
……いや待て、大丈夫。今晩からドラマ版『孤独のグルメ』Season5が始まるではないか!
オフィシャルサイトによれば、本日(10月2日)放送の第1話は「神奈川県川崎市稲田堤のガーリックハラミとサムギョプサル」。マンガで増進された食欲はこちらで満たすとしよう。
そうそう、余談だが、これを書くにあたり第1巻も読み直したのだが、その上で第2巻を読むと、心なしかゴローの独り言&脳内つぶやきが増えているように感じられた。また、表情も明るくなり、ダジャレなどの軽口も以前に増して散見される。
もちろん第1巻収録のエピソードが書かれたのは90年代中頃と、かれこれ20年も前ことだ。時代も変われば作者の気分も変わるもの、驚くことではない。だが、もしかすると、原作とは少々趣が異なるものの、すでにお馴染みとなった松重豊版ゴローからのフィードバックもあるのかもしれない。
そんなことを考えつつ、夜の放送を待つ。
(辻本力)