1993年10月の放送開始直後より話題を集めた『料理の鉄人』。レギュラーシェフである「鉄人」にゲストシェフの「挑戦者」が料理勝負を挑む料理バラエティ番組だ。
当初は30分枠として始まったものの、人気を受けて翌年には45分枠に拡大、特番もたびたび放送しながら99年9月までの長寿番組となった。
懐かしの『包丁人味平』や『ミスター味っ子』といった料理バトルマンガの世界が現出した訳だが、その演出もマンガ的というかプロレス的というか、過剰なまでにショーアップされていたのが一大ブームを巻き起こしたポイントではないだろうか?

料理対決はプロレスチック!?


会場はあらゆる食材が揃う、美食アカデミーのキッチンスタジアム。ド派手な衣装に身を固めたアカデミー主宰者の鹿賀丈史が、舞台掛かったオーバーアクションの前口上で挑戦者を呼び込み、視聴者を独自の世界に引きずり込む。
「蘇るがいい、アイアンシェフ!」の掛け声と共に、肖像画が描かれた巨大パネルをバックに「せり」から上がって鉄人たちが入場。鹿賀丈史はまさにリングアナ兼、鉄人たちのマネージャーといったところ。挑戦者は「和・フレンチ・中華」の鉄人たち(97年からはイタリアンも加わった)の中から相手を指名し、対戦カードが決定する。主宰者が披露したテーマ食材を元に、その魅力を引き出した料理を1時間内に仕上げなければならない真剣勝負。
「アレ・キュイジーヌ!」が試合開始のゴング替わりだ。

福井謙二アナウンサーは料理の専門用語を散りばめながら流れるように実況。そこに料理評論家の服部幸應のわかりやすい解説が加わることで、素人にも「今行われていることの凄さ」が伝わって来た。アナウンサーと解説の息のあったコンビネーションも実にプロレスチックだ。

同じジャンル同士が闘うばかりではないのも見所の一つ。和vsフレンチ、中華vsイタリアンなどはまさに異種格闘技戦! フレンチと中華が「うに」で対決、和とイタリアンが「桃」で対決するなど、予測不可能の異次元対決にも視聴者は釘付けとなった。


超人気番組ゆえの功罪とは?


この番組の人気から料理人は憧れの職業となり、小学生が将来なりたい職業トップ3にランクインするまでになる。材料や調理方法、料理名の認知度もアップし、料理人のステータスは爆上げとなった。今や当たり前に使われている「食材」や「食感」という言葉は、この番組で使っていたものが一般化したそうだ。
また、『SMAP×SMAP』の人気コーナー「BISTRO SMAP」を始め、数多くのタレント料理番組のフォロワーも生み出した。

しかし、料理人という枠組み自体が持ち上げられすぎたためか、一部でタレント化が進み、料理の腕よりもルックスとしゃべりが重視された「勘違い系料理人」も目立つようになる。また、基礎を学ばない上での「創作料理」の類がブームとなるといった困った現象も起きている。


「私の記憶が確かならば……」の名フレーズを何かにつけて真似した方は多かったのではないだろうか? パプリカの存在を鹿賀丈史が丸かじりする姿で知った方、食材を買い込んでみたものの途中で挫折した方、鉄人の店に行こうと計画しながら予算面で断念した方も多かったはずだ。
すべて、筆者のことでもある……。その影響力恐るべし!
(バーグマン田形)
料理の鉄人3/第1章 和の鉄人“道場スペシャル” [VHS]