
いつの日か? 理想を口にするだけ? いくじなし!
冒頭、いきなり縛り付けられている不二子の姿。かつては磔にされてくすぐり責めにされたり(TV第1シリーズ第1話)、鞭打ちされて悲鳴をあげたり(劇場版『ルパン三世 ルパンVS複製人間』)、全裸で拘束されてワインを垂らされたり(『LUPIN the Third -峰不二子という女-』6話)と、たいがいな目に遭って世の男子たちをモヤモヤさせてきた不二子だが、今回はセクシーさ控えめ。
物語の舞台は落ち目のサーカス団。若い団員ルカに接近した不二子は、自らもサーカス団の一員になっていた。冒頭の縛り付けられた姿は、脱出ショーの一幕だったというわけ。
ルカと出会ったとき(=たぶらかしたとき)の不二子が見せる清純さフルスロットルのたたずまい&「あなたに関心があります」オーラ満点の表情がすごい。あれをやられたら、童貞男は一発で落ちるだろう。たしかな作画の力を感じさせる。
事故死したサーカス団の先代団長トニーの魔術のタネ「トリックレシピ」をめぐって物語は進む。“魔法”と称される魔術のレシピは、先代団長に見込まれたルカの頭の中にしかない。しかし、このルカというのがパッとしないヤツで、10年もサーカス団にいながら下働きの身。いつまでも一人前になりきれないモラトリアム人間なのだ。
「いつか必ず一人前のマジシャンになる」と誓ってはいるものの、百戦錬磨の女・不二子にはそんな言い分は通用しない。
「楽しいわよね、自分に酔うのも。
いろいろと言い繕ってはいるけど、つまり何もしていないってことじゃない?
いつか? いつの日か?
理想を口にするだけで、ハイおしまい?
グダグダ言っているヒマがあるなら、さっさと魔法を復活させなさいよ」
いやそうは言ってもトニーの魔法は難しんだよと逆ギレするルカに対して不二子がどうするかというと、問答無用で押し倒す!
「いくじなし!」
ふぇっ、と情けない声を漏らすルカに、馬乗りになったまま追い打ちをかける不二子。
「そんなんじゃ魔法の復活なんて一生無理。
リスクを背負わなきゃ、人は何も得られないの。
富も名声も……愛もね。
信じなさいよ、自分の右手を。
魔法を受け継げるのは、この手だけなんだから……」
すっかりやる気になった単純なルカ。この後、物語は二転三転するが、最後は不二子がまんまと大金を手中にする。待ち続けるルカのことは気にもかけず、ハーレーにまたがってカネとともに町を去ろうとする不二子に、ルパンが声をかける。
「お前はヤツを奪ったのか? それとも救ったのか?」
タメにタメた不二子の答えがコレだ。
「どっちがお好み?」
返事になってない! そのまま去っていく不二子を見ながら、次元は「まったく怖ェ女だぜ」、ルパンは「いい女じゃねぇか」と対照的な感想を漏らす。
欲望を剥き出しにしても許される稀有な女性キャラ・不二子
監督の矢野雄一郎のコメントによると、今回のシリーズでのルパンたちの年齢は20代に設定されているという。しかし、今回の言動を見ればわかるように、不二子に初々しさなど一切見られない。さぞ、若い頃からリスクを背負って、あらゆるものを手に入れてきたことだろう。
「どっちがお好み?」という謎かけのような答えも、男が望むとおりに振舞ってみせるが、それでも最後は自分の思い通りにしてみせるという不二子のしたたかさが存分に現れている。だから次元は「怖い」と言い、ルパンは「いい女だ」と言ったのだ。なお、今回の脚本は映画『ヒロイン失格』の吉田恵理香が手がけている。
「欲望のおもむくまま、女の武器で世界中の男を手玉にとって、狙った獲物を手に入れるまでただひたすら突っ走り、けっして後ろは振り返らない女盗賊」
これは『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』での灰原哀による峰不二子評だ。
貞淑さや男主人公にかしずくことが求められ続けてきた日本のフィクションの女性キャラクターの中で、欲望を剥き出しにしながら40年もの長きにわたって人気を得続けてきた峰不二子は稀有な存在と言うしかない。現実では女性の振る舞いにうるさい男たちも、不二子の前に連れ出されたら何も言えずに黙ってしまうだろう。まぁ、なんというか、今回はもうちょっとエロければよかったです、ハイ。
さて、今夜放送の第6話は、莫大な財宝を受け継いだ若き未亡人をめぐって、ルパンが銭形警部と対決する「満月が過ぎるまで」。精悍な敏腕警部の座を取り戻した銭形の活躍に注目だ。チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)