水谷豊のハマり役、杉下右京。言わずと知れた刑事ドラマ『相棒』の主人公だ。
2000年スタートの長寿シリーズであり、現在もシーズン14が放送中。『相棒』は水谷豊の代名詞ともなっているが、90年代の水谷豊の刑事役といえば「本城慎太郎」のインパクトが忘れられない。
90年代を代表する刑事ドラマ『刑事貴族(デカきぞく)』シリーズの3代目主人公だ。
主人公が変わって行く中、最終的に水谷豊でブレイクした珍しいスタイルの刑事ドラマ『刑事貴族』を振り返ることにしよう。

殉職する舘ひろし・不人気の郷ひろみ 混迷した初代『刑事貴族』


水谷豊が主演となるのは『刑事貴族2』および『刑事貴族3』。初代『刑事貴族』では舘ひろしが主演を務める形で1990年4月にスタートしている。
基本的に銃で解決スタイルの現場主義の刑事で、コーヒー&タバコが好き。キザで洒落たセリフが似合う男。ほぼ『あぶない刑事』のタカこと、ダンディ鷹山の気もするが、こちらの方がクールで二枚目度が高いキャラクターだ。何度撃たれようが、爆破に巻き込まれようが不死身だったタカと違い、今作ではナイフに刺されてまさかの殉職!

16話で早々の退場には裏番組への出演という事情(石原プロの『代表取締役刑事』。ある意味栄転だ)があったようで、入れ替わりに2代目主人公を務めたのは郷ひろみ。ニューヨーク帰りのアメリカナイズされた刑事としての登場だ。この数年前、郷は実際にニューヨークに居を構えており、実生活も重なる設定となっていた。
シリアスで重厚な世界観に合わせるためか、本来の陽気なムードを抑えての熱演だったが、すべてが噛み合わず、視聴者も離れてしまう。
長い芸能生活の中では低迷期であり、『言えないよ』のロングヒットでトップアーティストに返り咲くのは1994年。今や何をやっても許される感があるが、この頃は視聴者総スカンだったのである。
そして1991年4月、ついに『刑事貴族2』がスタート。水谷豊時代の幕開けである。

『刑事貴族2&3』の主人公は『相棒』杉下右京と真逆のキャラクター


重苦しい雰囲気だった初代から一転、『2』ではコメディ要素も交えた陽気な世界観となる。第1話のタイトルは「ファジーでハードでホットな奴ら」。90年代を感じる「ファジー(あいまい)」が示す通り、細かい設定よりも面白さを重視。スタイリッシュなアクションが繰り広げられるドラマへと変貌する。これは、水谷豊が務めた主人公・本城慎太郎の軽妙でポップなキャラクターによるところが大きい。
『1』から登場中の松方弘樹演じる宮本課長も本城の登場により、苦みばしったハードボイルドキャラからコメディ系にシフト。ダンディに決めたはずのティアドロップ型のメガネも、コントのような繋がり眉毛にしか見えなくなってしまうほどであった。

そんな本城のキャラクターは、『相棒』の杉下右京と比べると性格が真逆なのが面白い。
本城慎太郎は、ユーモアあふれるお調子者で感情表現が豊か。後輩思いで後輩たちにも慕われているが、熱くなると暴走することもある破天荒な問題児。
対して、『相棒』の杉下右京はユーモアを介さず、常に冷静で理性的。感情よりも法を遵守する姿勢は他を寄せ付けないムードをまとい、真実を究明するためには暴走することもある問題児だ。

根本的な性格は対極ながら、共通点が多いことも上げておきたい。どちらも推理力、洞察力、格闘センスに長けており、プライベートではバツイチ。小型車を愛用しているのも共通だ。(杉下の日産フィガロに対し、本城はイギリスの小型高級車バンデン・プラ・プリンセス)ちなみに、高速腿上げのような独特の走り方、止まる時のドタバタした感じも同じだ。

『相棒』と共通する大物キャストとは?


『相棒』との共通点で言えば、キャストにも注目。『2』の20話から登場する藤村亮刑事を演じるのは寺脇康文。『相棒』では初代相棒・亀山薫でお馴染みだ。寺脇加入後からドラマの軽快さもアップした感が強く、作中でも「代官署最高コンビ」を自称するなど、その存在感は抜群だった。
アグレッシブなキャラも重なり、藤村がフライトジャケットを着ればほぼ亀山である。
水谷豊に憧れて芸能界に入った寺脇にとっては夢の初共演であり、この時の活躍ぶりが後の『相棒』での抜擢に繋がったのは間違いない。

『1』から引き続き登場の青木順子刑事を演じるのは高樹沙耶(現・益戸育江)。女刑事としてアクションも多く、頼りになる姉御肌タイプの役柄だ。『相棒』では杉下右京の元妻で、小料理屋「花の里」を切り盛りする女将役。こちらは真逆のキャラクターとなっているが、途中退場となっている点だけは同じである。

そもそも、どこら辺が「貴族」なのかはよくわからなかったが、そのエンターテインメント性は高く、熱狂的なファンを数多く生み出している。リアルさをベースにした『相棒』もいいが、いつか水谷豊にはメガネとネクタイを外してもらい、自由奔放で何でもありの本城刑事を再び演じてもらいたいものである。

「もう60過ぎだぜぇ~ あ~あ お恥ずかしぃったらありゃしない」
そんな本城節が聞こえて来る筆者。紛れもない熱狂的ファンの一人である。
(バーグマン田形)
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