死んだ人がインターネット上に残していったブログやSNSをまとめた本だ。

ある男性は、職場でのストレスに耐え切れず、自分の職業と本名、恨みを持った同僚や上司の名前をTwitterに記載して、自殺した。
ある女性は、肺がんと闘う自撮り動画をYouTubeに投稿し続けた。彼女はアイドルだった。入院してから21歳で死ぬ前日まで、動画をアップし続けた。
守られたサイト、守られなかったサイト
死亡後、ブログ、ホームページ、SNSは、ネットの中に完全に放置されてしまう。
有名人の場合は、モニュメントとして大切にされることもまれにある。
たとえば2008年12月に亡くなった飯島愛。彼女が亡くなった後、ブログには数多くのファンが訪れ、コメント欄に追悼の言葉を書き込み続けた。
アニメーション監督の今敏。46歳で亡くなったとき、死の翌日、自らのサイトに「さようなら」というタイトルでエッセイをアップした。生前に書いて、スタッフに託したものだった。
大多数の個人サイトやSNSは、放置状態になってしまう。
宮城県三陸町の職員は、東日本大震災で亡くなった。
交通事故で死亡した高校生のTwitter。所属高校名をプロフィール欄に書き、飲酒や喫煙の写真を幾度か載せていたため、「こんな奴死んでも文句言えないよなwww」など、叩く声でリプライが荒れた。
交際相手に殺されたキャバ嬢のTwitterは、死ぬ2時間後まで元気な書き込みがされていた。突然の死の後、アカウントはスパム業者にのっとられ、宣伝ツイートを延々垂れ流すbotになってしまった。
自分の死後、サイトはどうすればいい?
二つのことが頭に浮かぶ。
・自分が死んだら、どうすればいいのか。
・周りの人が死んだら、どうすればいいのか。
ブログやTwitterに「明日死んだらどうしよう」なんて考えて書く人はほとんどいない。
でも誰だって、明日事故にあって突然死ぬ可能性はある。
結論からいうと、荒らしを完全に防ぐのは、不可能だ。
家が廃墟になった後、管理なしできれいなままにするのが不可能なのと同じ。
インターネット空間に放置されたサイトは消えないまま、第三者や悪意のあるプログラムによって、踏み荒らされてしまう。
一番いいのは家族や友人が閉鎖することだろう(基本的にはIDとパスワードを他者が入力するのは利用規約違反だが、現在死亡時の代理アクセスは、ほとんどの場合黙認)。
とはいえ、家族に自分のサイトやTwitterの存在を教えていないケースもある。
できる限り防ぐ方法が、この本を読むと見えてくる。
ブログの場合、コメント欄の書き込み設定を承認制にするのが、手っ取り早い荒らし・スパム対策になる。
mixiなどのSNSの場合は、公開設定を絞るのも一つの手だ。
有料レンタルサーバー型のホームページは、契約が切れて自然消滅することがとても多いようだ。
Twitterは消すのが非常に難しい。
予防策として、自分のフォローにスパム業者がないかチェックし、ブロックしていくことで、無差別に荒らされる可能性を減らすことができる。連携アプリには要注意。
Facebookの場合、無関係者の書き込みをブロックする「追悼アカウント」に切り替えることを、この本は勧めている。
著者は「外に意識が向いていない書き手が多く、まるで透明な住宅で日常生活を送っているようなサイトもある」と書く。
他人の人生と死は、大抵の場合、直接知ることはほぼない。ニュースでも自主規制が多く、なんかあったのかな、とマイルドな情報しか見えない。
インターネットだと、故人となんのつながりもない人間が、闘病の力強いの訴えや、むき出しになった悲しみの絶叫を、そのまま見ることができる。
本を読んでいると、正直「見ちゃっていいのかな?」とやましさを感じてしまう。
けれど、サイトは世界中に公開されているものだ。「死」を直接学ぶことができる機会と考えて、じっくり見ていいはずだ。
「知ることは後ろめたいことではない」という著者の意向で、この本に掲載されたほとんどのサイトは、ほとんどが匿名になっていない。
サイトは今も自由に閲覧することができる。
作者古田雄介は、元葬儀社勤務。
「正しいデジタル終活術」という連載も書いているので、合わせて読んでみてほしい。
古田雄介『故人サイト』
(たまごまご)